報告書 兼 要望書


○○○○年 〇月 〇日


所 長 Ilya Ivanov 殿 


記述者 近藤 紀子


報告書 兼 要望書


記 


 【実験体objクラスEuclidユークリッドから「Keterケテル」への引き上げ】




・保護、捕獲、収容という観点から、今後は警戒レベル『Keter』への格上げが妥当。

 理由としましては、実験体と親密な研究員とのコミュニケーションが可能な状態にまで改良されている、進化しているために個別個体としての対処ではなく生態系、種族としての考慮が今後、研究を進めるに当たり必要とされる。

 浅倉主任との会話でも見られる『五歳前後』の知能という供述。

 各実験体がそれぞれ成熟期が違えど、まだ未熟児状態だと仮定するならば現状データでの目測ではなく十歳前後まで知能が成長すると見なすべきである。


・浅倉主任と実験体X-3(アルバート)とは『手話』という手法でコミュニケーションが可能だったと推測。

 浅倉が失踪直後、カメラに移された手話でのメッセージ。これは向けられた対象は不明だが、X-3への合図だと仮定します。

 単語レベルの会話だと思われるが、その進化は予測不明。



 『精神や意識』



・精神分析科の設立もしくは専門医の配属。

 ブルーノという個体名の実験体が私怨にて拷問や復讐を行っていたように、自我が強く左右している。モスマンとアルマスの行動心理はどうだったのかが不明だが、ブルーノには明らかな怒りや恨み、激情といった感情に支配されていた。トラビスも、恐怖、不安、ストレスに過剰反応している。それらは人間で言う所の思春期にも近い反応であると分析します。研究所という閉鎖的な環境では、人間に近くなった部分の抑制には困難をきたす。


・トランスポンダー(埋め込み式IDチップ)の開発

 スティモシーバーでの制御開発が進まない以上、今回のような事件の再発が起きない保証は無い。

 浅倉主任が研究報告書にて提唱している様に、過去の実験失敗の多くはヒトとの精神状態にどれだけ類似するかにもよるが、同じ研究状況下では上手くいっても『精神退行』及び退が考えられます。

 第三世代のイヴ、アルバート、カブラにはどのような進化、もしくは傾向があるのか。明らかにイヴには愛情という感情が支配し、その対象が大野教授しか存在していなかったことに起因する。

 カブラはまた異質な経緯での生誕であるので厳重注意が必要ではあるが、この精神面でのことも考慮しても損はしないのではないか。




『繁殖、生殖の対象』



 同種という認識の欠如。

 遺伝子操作の範囲が不明な時点で各実験体には『同種』という概念が無かった。

 モスマンや各イレギュラー体の繁殖方法が複雑化した事により「繁殖の多様性」が必然として進化している。

 食料の飢餓が続くと生物として著しい『』として環境に適応していく様に、適正な生殖相手が居ない状態での繁殖力が生物としての『』が突然変異として現れた。

 実験体X-2カブラの誕生の経緯がその矛盾を示唆している。

 その後、考えられるのが爆発的な



 ヒトが飼い慣らしてきた動物や植物の中で、多くの生物としての「退化」を果たしてきた種が多く居ます。

 イヌやネコは周知でありますが、稲や麦は実や種を広範囲に飛ばす事は疎か穂に留まったままヒトに狩られるのを待つ様にヒトと共に「進化」を遂げてきた。


 『蚕』は糸の生成として飼われ、成虫でも足の爪が退化し枝に捕まらず、羽が退化し飛べず、口が退化し食事も必要なくなった程です。この長きに渡る実験と各実験体も進化と退化の『』に到達したと思われる。


 クローン生成としての繁殖を我々ヒトが誘い、生殖器などの必要性が失われつつある状態ですが、ウサギ、ヒト、ネズミといった遺伝的に繁殖力が高いかけ合わせ、「CHIMERA化」があらゆる『矛盾』を生んで来ています。

 なので種族が生物としての安定が成されるまで、爆発的な性の雑食化が始まり、その後にその中での種が往々に淘汰され、安定した生物が定着します。


 そう考える根拠が、浅倉主任の供述にあった

『ホカホカ』


 学術的にもスキンシップのようなニュアンスではあるが、その対象が人間も含まれていた点に注意して欲しい。

 イヴと大野教授のパターンはまた異質だったかもしれないが、モスマンの分裂体が多くの研究員へ向けられていた『ホカホカ』がその危険性を示唆しているとも言える。


 自然界でもその対象が、類人猿だけでなくキリンやダチョウといった多くの動物が性別の区別なく性行為を行うケースは多々あり、異種交配までに至ることも自然界には在ります。研究所内ではヒト以外の他種が居なかったが、逃げ出したアルバートがどこでどのように過ごしていくかが懸念点であります。


 カブラのも未知数な為に、厳重警戒が必要だと思われる。




総評


①研究内容の全貌は浅倉主任の頭の中・・・・・・


②研究を続けるとしても大々的な見直しが必要・・・・・・


③実験体の野放しは内外共にKeter級へとなり得る危険因子である・・・・・・


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