2-11 密室と視点

「美月ねえ、どういうこと? まさか、記者さんは他殺たさつだと思ってるの?」

 両手を後頭部こうとうぶで組んだ梗介きょうすけが、茶化ちゃかすように言った。美月は、後輩こうはいの言葉に取り合わず、凛汰と目を合わせてから、暗い視線を窓に向けた。

「……凛汰、見て。窓も、施錠せじょうされてる」

 三隅みすみ遺体いたいの右側であり、出入り口の正面に位置する窓は、確かにクレセントじょうかっていた。美月は、そろりと窓に近づくと、右手をクレセント錠に伸ばしてから、躊躇ためらいがちに引っ込めて、カーディガンのポケットから取り出したハンカチを使って、窓に手を直接れずに開錠かいじょうした。カラララ……と窓が開き、教員寮きょういんりょうをコの字形に取り囲んだ山の緑から、さわやかな風が吹きつける。背を向けた美月の長い髪が、春風をはらんでひるがえった。ベランダに降り立った美月は、こちらを無表情で振り向いた。

「教員寮のベランダは、隣の二〇二号室のベランダから、少し離れてるけど……飛び移れない距離じゃないと思う。でも、二〇二号室も……」

「窓も、扉も、施錠せじょうしてる。鍵は一つだけで、誰も侵入しんにゅうできないことは、昨夜から今朝まで二〇二号室にいた俺と美月が、証明できる。さらに、鍵を持った俺と美月が、外出をした今朝から今までの間に、二〇二号室には何人なんぴとたりとも出入りできない」

 話しながら、凛汰も窓に向かった。梗介きょうすけは、つまらなそうに「ねえ、早くここから出ようってば」と文句をれるだけで、凛汰について来なかった。ベランダに出た凛汰は、外のながめを観察する。美月の言う通り、二部屋のベランダを行き来するだけなら、無理をしてべば可能だが、窓は両方ともやぶられていなかった。

三隅みすみさんの部屋の真下は、一〇一号室……あいつの部屋だな。でも、床や手すりに何らかの細工さいくほどこした形跡もないし、誰かがベランダから室内に侵入した可能性は、かなり低いだろうな……ん?」

 ベランダから階下を見下ろすと、教員寮と森の間の砂地に、帯刀たいとうした神職しんしょくの男と、先ほどから姿を消していた教員を見つけた。凛汰は、剣呑けんのんな声をひびかせる。

「そこで何をしてるんですか?」

「あ……浅葱あさぎさんと、大柴おおしば先生?」

 隣の美月も、階下の二人に気づいた。一階のベランダ付近に立った海棠浅葱かいどうあさぎ大柴誠護おおしばせいごが、そろってこちらをあおぐ。浅葱は気難きむずかしげな顔をしていて、大柴は露骨ろこつ狼狽ろうばいを見せている。さながら警察官から職務しょくむ質問を受ける不審者ふしんしゃの図を、凛汰が胡乱うろんな目で眺めていると、黙っている大柴に代わって、浅葱が端的たんてきな返事を寄越よこしてきた。

「大柴先生が、教員寮の周りをうろうろしていたから、理由をたずねていた」

「僕は、別にあやしいことをしていたわけじゃ……ほら、その……〝まれびと〟の記者さんが死んだ状況が、不審ふしんだったじゃないですか。だから、窓側から犯人が侵入した形跡がないか、調べようと思って……」

 大柴は、奥歯に物がはさまったような弁明べんめいをしている。対する浅葱は、瞳に軽蔑けいべつの色を浮かべて、「必要ない」と素気無すげなく言った。

「現場を調べるという名目めいもくで、殺人の証拠しょうこを消し去るやからが現れないとは限らない。勝手な行動をやめないなら、三隅さんは他殺であり、犯人は貴様きさまだと断定だんていする」

「そんな……お、横暴おうぼうじゃないですか。それに、何なんですか『貴様』って。浅葱さんは、そんな口のき方を、今までしなかったじゃないですか」

 大柴は、顔を赤くして不平ふへいべている。だが、浅葱の日本刀にほんとうが気になるのか、あるいは美月という教え子の目があることを意識したのか、苦渋くじゅうが滲んだ台詞せりふを吐いた。

「だって……僕は、三隅さんの遺体の第一発見者なんですよ。二〇一号室の扉は、確かにいていたんです。でも、それを証明しょうめいできるのは僕しかいません……死体の第一発見者って、ドラマとかミステリ小説で『実は犯人じゃないのか』って疑われるじゃないですか。自分の潔白けっぱくを、自分で示そうとして、何がいけないんですか!」

「邪魔だからだ。利己的りこてきな行動も、矮小わいしょうな思想も、その存在さえも」

 にべもない台詞せりふが、青空の下で無慈悲むじひに響く。これほどまでに強烈きょうれつな答えは、さすがに予想だにしなかったのか、大柴は血の気が引いた顔で絶句ぜっくしている。隣の美月も、衝撃を受けた表情で、二人の大人を見つめていた。静観せいかんしていた凛汰は、話が一段落いちだんらくしたと勝手に判断して、平然と「浅葱さん」と呼び掛けた。

「建物の外に、不審な痕跡こんせきはありましたか?」

「……何もないな。私の言葉が信じられないなら、自分の目で確かめればいい」

 存外ぞんがいにすんなりと、浅葱は凛汰に答えてくれた。美月を軽んじていた村人たちに、先ほど啖呵たんかを切ったことで、多少は留飲りゅういんを下げたのだろうか。養子ようしの一件で凛汰に向けていた敵愾心てきがいしんも、わずかながら緩んだようだ。頷いた凛汰は、続けて声をった。

「もう一つ、質問があります。〝まれびと〟の定義について、確認させてください。生前の三隅さんから、『櫛湊村くしみなとむらの人たちは、隣町の那岬町なみさきちょうの人間を〝まれびと〟とは見做みなさない』と聞きました。それは、本当ですか?」

「……なぜ、そんなことが気になる?」

 浅葱は、質問の意図いとが読めなかったに違いない。表情はほとんど変わらなかったが、こちらをひそかに警戒している様子がうかがえた。凛汰が「単純な好奇心こうきしんです」と言ってのけると、しばしの静寂せいじゃくが流れたのちに、浅葱は落ち着いた声で回答した。

「その通りだ。昔の櫛湊村は、那岬町なみさきちょうの一部だった歴史がある。隣町の住人は同郷どうきょうの者であり、来訪神らいほうしんとは見做みなさないという考え方が、現在の櫛湊村にも根付いている」

「……。ありがとうございます。ついでに、もう一つ訊いておきたいんですけど、十九年前の〝姫依祭ひよりさい〟で死んだ〝まれびと〟の名前も、教えてもらえませんか?」

 浅葱は、今度は警戒をあらわにした。鋭利えいりな視線を、凛汰は動じずに受け止める。

「俺は、昨夜の会合でも言ったように、十九年前の〝姫依祭〟でも〝まれびと〟がくなって、村から〝憑坐よりましさま〟に供犠くぎを差し出したとにらんでいます。当事者の浅葱さんなら、そのときに死んだ〝まれびと〟について、くわしく知っているはずですよね。――とぼけても無駄だからな。あんたが口をらないなら、三隅さんの部屋で焼け残った資料を調べ上げて、勝手に突き止めるだけだ」

「亡くなった〝まれびと〟の名前を知って、どうするつもりだ」

「さあな。ただ、二度目の〝姫依祭ひよりさい〟の開催かいさいを望む奴らが、死んだ親父以外にもいるはずです。そいつらの思惑おもわくあばくためにも、村で死んだ人間の情報を仕入れておきたいだけですよ。亡くなった〝まれびと〟が『いる』ことは、認めるんですね?」

「十九年前に死者が出たことを、かくてするつもりはない」

「それなら、教えてください。俺の質問に答えないなら、十九年前に〝まれびと〟を殺した犯人は、あんただと断定するぜ」

 生前の三隅真比人から受けた意趣返いしゅがえしのような言い方で、凛汰は浅葱にたたみかける。浅葱は、先ほどよりも長くもくしてから、やがて言った。

「死んだ〝まれびと〟の名前を、私は知らない」

「それは、俺に教えたくない、という意味ですか?」

「どう受け取ってもらっても構わないが、私は嘘をついていない」

 淡白たんぱくに告げた浅葱は、「ただし、十九年前の〝姫依祭〟では、〝まれびと〟だけでなく、もう一人、那岬町なみさきちょう出身の女性も死んでいる」と付け足した。想定外そうていがいの情報に驚いた凛汰は、すぐに食いついた。

「その女性の名前は?」

桜木沙亜耶さくらぎさあや。私の高校時代の同級生で、少なからず親交しんこうがあった。遠方の大学に進学した彼女とは、高校卒業をに交流が途絶とだえたが、彼女が那岬町に帰省きせいした際に、櫛湊村まで足をばして、海棠かいどう神社へ挨拶あいさつに来てくれた。その日の黄昏時たそがれどきに開催される〝姫依祭〟で、私が海棠家の当主をぐことを、那岬町で聞き知ったらしい。そして、〝姫依祭〟の最中さなかに――彼女の死体が、発見された」

「……死因は? それに、犯人は?」

「私から言えるのは、ここまでだ」

 重々おもおもしく吐き捨てた浅葱は、大柴に向き直ると、たくましくきたえ上げられた両腕を組んだ。大柴は「あはは……分かりました。もう何もしませんから……」と言って、すごすごと教員寮のエントランス方面へ歩いていく。浅葱も、大柴のあとを追うと、曲がり角のそばで立ち止まった。教員寮を出入りする人間を、どうやら見張みはっているらしい。背筋を伸ばした立ち姿を見下ろした凛汰は、考え込んだ。

「親父殺しのとき同様に、今回も浅葱さんにはアリバイがない。浅葱さんと行動を共にしていた楚羅そらさんにも、同じことが言える……ただし、一つ目の事件のときと違って、今の浅葱さんは捜査そうさに協力的だ。あの態度が演技じゃないなら、二つ目の事件に関しては、浅葱さんはシロか……? 根拠こんきょはないけど、ともかく」

 言葉を切った凛汰は、沈黙を守っていた美月を見た。

「浅葱さんは、三隅さんの事件を、他殺だと睨んでいるみたいだな。もし他殺なら、三隅さんの事件は――密室みっしつ殺人、ということになる」

「凛汰も……梗介くんみたいに、三隅さんは自殺だと思ってるの?」

「状況を見るだけなら、自殺に見える。もし他殺の場合、犯人が三隅さんにトリカブトを無理やり飲ませたなら、もっと現場がれるはずだ。でも、まだ断定するつもりはないぜ。消えた手帳と、小火ぼやを消した形跡が引っ掛かる」

「私は……なんとなくだけど……どっちも、だと思う」

「どっちも? 自殺と、他殺が?」

 凛汰は、怪訝けげんに思って訊き返してから、あきれの吐息といきをついた。

「理解できないな。自殺なら自殺。他殺なら他殺。どっちもなんて、あり得ない」

「そうかな。自殺を強要きょうようされた、とか。部屋に押し入ってきた誰かに殺されそうになったから、せめて自分で……とか。あり得なくはないでしょう? その場合、どうやって犯人が密室から脱出だっしゅつしたのか、方法は思いつかないけど……」

「……。美月が、そう考えた理由は何だ?」

 一理いちりあると認めた凛汰は、美月に問う。美月は、暗い顔のまま「分からない」とささやき、かぶりを振った。

「私は、凛汰みたいに、事件を論理的ろんりてきに考えられてるわけじゃないと思う。だから、私が今から言うことは、ただの感情論だって分かってる。だけど……」

 美月は、顔をゆがめた。苦しそうに息を吸って、言葉をゆっくりとつむいでいく。

「私が村にしてきてから、今までの間に……三隅さんは、何度も村を訪ねてきて、教員寮に滞在たいざいしてた。海棠神社にもお参りに来てくれて、浅葱さんと楚羅さんに、取材を申し込んでは断られて……そういうときに、よく私に声を掛けて、気遣きづかってくださったんだ。東京の暮らしが恋しくないか、寂しい思いをしてないか、って。三隅さんは、〝姫依祭ひよりさい〟に強い興味を示していても、〝憑坐よりましさま〟に敬意けいいを払わなかったから、村の人たちからの評判は、よくなかったよ。でも、私にとっては……」

 言葉を詰まらせた美月は、両手で顔を覆って嗚咽おえつした。

「三隅さん、自分から死んじゃうような人じゃなかった。でも、いつ死んでもいいって思ってるような、自分の命なんてどうでもいいって顔を、ずっとしてた。だから私、三隅さんが東京に帰る前には、元気でいてくださいね、お身体に気をつけてくださいねって、いつも言ったの。三隅さんも、いつも『君がそう言ってくれる限りは、できるだけの努力はするよ』って、言ってくれたのに……もし自殺なら、ひどい……嘘つき……」

 肩を震わせる美月を、凛汰は無言で見守った。凛汰にとっての三隅真比人みすみまひとと、美月にとっての三隅真比人が、異なる見え方をしていることに、純粋な戸惑いを覚えていた。それぞれが三隅をモデルにして、キャンバスに絵筆えふでをのせたなら、まるで別人のような二人の男が、二枚の油彩画で肩を並べるに違いない。差異さいが生じる理由は、技術の問題などではなく、生前の嘉嶋礼司かしまれいじが言ったように――凛汰と美月は、視点が異なるからだろう。父の遺言ゆいごんに思いをせたとき、凛汰は確認すべきことを思い出した。

「美月。今朝、楚羅さんが届けてくれた写真を、俺に見せてくれるか?」

 涙を指でぬぐった美月は、きょとんとしてから、リュックを背中から下ろして、中から写真を撮り出した。差し出された写真を、凛汰はじっくりとあらためる。中学校の入学式で撮ったと思しき写真の中で、美月の隣に立ったスーツ姿の男の笑みは、改めて見ても快活かいかつで、どこか仔犬こいぬのような人懐ひとなつこさがあり――。

「やっぱり、似てないな。こんな言い方をしたら、美月には悪いけど」

「……それ、よく言われてきた。でも、私の容姿ようしは、母親に似てるんだよって、お父さんが言ってたから……お父さんと似てないことなんて、気にもめてなかった」

 美月は、心細そうに言った。三隅の事件に意識を集中させていたようだったが、二〇一号室で浅葱が抜刀ばっとうした際の会話は、美月のちに関わることだ。内心ないしん気にしていたのだろう。凛汰が「母親のことは、何か聞いているか?」と質問すると、美月は「ううん、何も」と悲しげに告げた。

「私が大人になったら、教えてくれる、って言われてたんだ」

「父親のフルネームは?」

不知火しらぬい正巳まさみ……」

「一年前に亡くなった、って言ってたよな。どういう死に方をした?」

 美月は、目に見えて身体をかたくした。小声で「事故」と答えて、目をせている。続けて、息苦しそうに「溺死できしなの……」と言われたとき、凛汰の腕に鳥肌とりはだが立った。

夜道よみち水路すいろに落ちて、海まで流されたの……お父さんの遺体から、アルコールが検出けんしゅつされたから、お酒にって、水路に落ちたんだろうって、警察の人が……」

 ――〝憑坐よりましさま〟の正体が、三隅の推察すいさつ通り、八尾比丘尼やおびくにで正解だとしたら、海に所縁ゆかりがある神様が、現在の〝憑坐さま〟の巫女を東京に繋ぎとめていた人間を、海へ引きずり込んだことになる。一体、どういう因果いんがだろう。刹那せつなの恐れをなかったことにした凛汰は、「分かった。もういい」と美月に言った。

「答えにくいことを訊いて、悪かったな。けどな、浅葱さんを問い詰めたときから、美月も覚悟かくごしてただろうけど、お前の出生しゅっせいには謎が多すぎる。もしかしたら、美月の本当の父親は、浅葱さんで……この写真の男は、実の父親じゃないかもしれない」

「……たとえ、そうだとしても」

 写真を持った美月の手に、少しだけ力がこもった。凛汰を見つめ返した目は、涙の名残なごりうるんでいたが、誰にもゆずれない意志の強さが光っていた。

不知火正巳しらぬいまさみは、私に愛情を注いで育ててくれた、大好きなお父さんだよ。絶対に、悪人あくにんなんかじゃない。もし、私と血がつながっていないなら……きっとそれが、私が大人になったときに、お父さんが伝えたかったことだと思う」

 寂しげに微笑わらった美月は、気が引けたような顔で「それに」と続けた。

「これは私の直感ちょっかんで、根拠は何もないんだけど……私は、今まで浅葱さんに対して、お父さんみたいだなって思ったことは、一度もないんだ。私を〝姫依祭〟で助けてくれて、守るって言ってくれた浅葱さんには、申し訳ないんだけど……顔を知らない親と向き合うときって、こういう感じなのかな。それとも、私が冷たいのかな……」

 切なそうに言った美月が、写真をリュックに仕舞しまおうとしたときだった。

 横合よこあいから、美月の手首を急につかんだ者がいた。しなやかな猫のごとく足音を立てずに、美月に肉薄にくはくしていた少年は、ぎょっとした凛汰と美月にかまうことなく、ガラス玉のような両目で、じいっと写真を見つめていた。

「美月ねえのお父さんの写真、初めて見た。……へえ。こういう顔をしてたんだ」

「梗介。驚かせるな。それから、さっさと手をはなしてやれ」

「ごめん、ごめん。凛汰だけ写真を見せてもらって、羨ましくなっただけだよ?」

 梗介は、先ほどの無表情が嘘のように笑いながら、硬直こうちょくしている美月の手首から、手を外した。美月が、少し強張こわばった表情で、ぽつりと言う。

「本当に、そんな理由なの……? 梗介くん、もしかして、私のお父さんのことを、何か知ってるんじゃ……」

「まさかぁ、知るわけないじゃん。さっき『初めて見た』って言った通りだよ?」

 梗介が、飄々ひょうひょうと言ったときだった。背後に拡がる田畑の方角から「ああ、いた! 浅葱さん!」と村人の誰かが叫ぶ声がした。振り返って見渡すと、畦道あぜみちを走ってきた老人が、よたよたと浅葱にすがりついている。すぐさま浅葱が、鋭い声で「何があった」と訊ねていた。その老人は、浅葱の豹変ひょうへんをまだ知らないのか、口調のあらさに驚いているようだったが、事態は一刻いっこくを争うのか、今にも気絶きぜつしそうな顔で報告した。

神域しんいきがけに……供犠くぎが……」

 ――供犠。かろうじて聞こえた台詞せりふが意味することは、ただ一つだ。凛汰は、ベランダの手すりから身を乗り出して、浅葱に向けて声を張り上げた。

「また、誰かが死んだのか?」

 凛汰を振り返った浅葱は、ひどくけわしい顔をしていたが、ベランダに梗介も出ていることに気づくや否や、ハッと両目を見開いた。そして、双眸そうぼうを再び険しく細めると、凛汰の問いには答えずに、厳粛げんしゅくな口調で「梗介」と呼んだ。

帆乃花ほのかは、今どこにいる? 私は、今日はまだ――あの子の姿を、見ていない」

 のんきに笑っていた梗介の顔色が、変わった。

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