2-11 密室と視点
「美月ねえ、どういうこと? まさか、記者さんは
両手を
「……凛汰、見て。窓も、
「教員寮のベランダは、隣の二〇二号室のベランダから、少し離れてるけど……飛び移れない距離じゃないと思う。でも、二〇二号室も……」
「窓も、扉も、
話しながら、凛汰も窓に向かった。
「
ベランダから階下を見下ろすと、教員寮と森の間の砂地に、
「そこで何をしてるんですか?」
「あ……
隣の美月も、階下の二人に気づいた。一階のベランダ付近に立った
「大柴先生が、教員寮の周りをうろうろしていたから、理由を
「僕は、別に
大柴は、奥歯に物が
「現場を調べるという
「そんな……お、
大柴は、顔を赤くして
「だって……僕は、三隅さんの遺体の第一発見者なんですよ。二〇一号室の扉は、確かに
「邪魔だからだ。
にべもない
「建物の外に、不審な
「……何もないな。私の言葉が信じられないなら、自分の目で確かめればいい」
「もう一つ、質問があります。〝まれびと〟の定義について、確認させてください。生前の三隅さんから、『
「……なぜ、そんなことが気になる?」
浅葱は、質問の
「その通りだ。昔の櫛湊村は、
「……。ありがとうございます。ついでに、もう一つ訊いておきたいんですけど、十九年前の〝
浅葱は、今度は警戒を
「俺は、昨夜の会合でも言ったように、十九年前の〝姫依祭〟でも〝まれびと〟が
「亡くなった〝まれびと〟の名前を知って、どうするつもりだ」
「さあな。ただ、二度目の〝
「十九年前に死者が出たことを、
「それなら、教えてください。俺の質問に答えないなら、十九年前に〝まれびと〟を殺した犯人は、あんただと断定するぜ」
生前の三隅真比人から受けた
「死んだ〝まれびと〟の名前を、私は知らない」
「それは、俺に教えたくない、という意味ですか?」
「どう受け取ってもらっても構わないが、私は嘘をついていない」
「その女性の名前は?」
「
「……死因は? それに、犯人は?」
「私から言えるのは、ここまでだ」
「親父殺しのとき同様に、今回も浅葱さんにはアリバイがない。浅葱さんと行動を共にしていた
言葉を切った凛汰は、沈黙を守っていた美月を見た。
「浅葱さんは、三隅さんの事件を、他殺だと睨んでいるみたいだな。もし他殺なら、三隅さんの事件は――
「凛汰も……梗介くんみたいに、三隅さんは自殺だと思ってるの?」
「状況を見るだけなら、自殺に見える。もし他殺の場合、犯人が三隅さんにトリカブトを無理やり飲ませたなら、もっと現場が
「私は……なんとなくだけど……どっちも、だと思う」
「どっちも? 自殺と、他殺が?」
凛汰は、
「理解できないな。自殺なら自殺。他殺なら他殺。どっちもなんて、あり得ない」
「そうかな。自殺を
「……。美月が、そう考えた理由は何だ?」
「私は、凛汰みたいに、事件を
美月は、顔を
「私が村に
言葉を詰まらせた美月は、両手で顔を覆って
「三隅さん、自分から死んじゃうような人じゃなかった。でも、いつ死んでもいいって思ってるような、自分の命なんてどうでもいいって顔を、ずっとしてた。だから私、三隅さんが東京に帰る前には、元気でいてくださいね、お身体に気をつけてくださいねって、いつも言ったの。三隅さんも、いつも『君がそう言ってくれる限りは、できるだけの努力はするよ』って、言ってくれたのに……もし自殺なら、ひどい……嘘つき……」
肩を震わせる美月を、凛汰は無言で見守った。凛汰にとっての
「美月。今朝、楚羅さんが届けてくれた写真を、俺に見せてくれるか?」
涙を指で
「やっぱり、似てないな。こんな言い方をしたら、美月には悪いけど」
「……それ、よく言われてきた。でも、私の
美月は、心細そうに言った。三隅の事件に意識を集中させていたようだったが、二〇一号室で浅葱が
「私が大人になったら、教えてくれる、って言われてたんだ」
「父親のフルネームは?」
「
「一年前に亡くなった、って言ってたよな。どういう死に方をした?」
美月は、目に見えて身体を
「
――〝
「答えにくいことを訊いて、悪かったな。けどな、浅葱さんを問い詰めたときから、美月も
「……たとえ、そうだとしても」
写真を持った美月の手に、少しだけ力がこもった。凛汰を見つめ返した目は、涙の
「
寂しげに
「これは私の
切なそうに言った美月が、写真をリュックに
「美月ねえのお父さんの写真、初めて見た。……へえ。こういう顔をしてたんだ」
「梗介。驚かせるな。それから、さっさと手を
「ごめん、ごめん。凛汰だけ写真を見せてもらって、羨ましくなっただけだよ?」
梗介は、先ほどの無表情が嘘のように笑いながら、
「本当に、そんな理由なの……? 梗介くん、もしかして、私のお父さんのことを、何か知ってるんじゃ……」
「まさかぁ、知るわけないじゃん。さっき『初めて見た』って言った通りだよ?」
梗介が、
「
――供犠。かろうじて聞こえた
「また、誰かが死んだのか?」
凛汰を振り返った浅葱は、ひどく
「
のんきに笑っていた梗介の顔色が、変わった。
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