2-9 眠れる獅子
神事の
だが、二人目の犠牲者が、またしても〝まれびと〟になろうとは――誰も予想できなかったに違いない。廊下で立ち尽くしていた美月が、顔を
「ふーん。本当に死んでるんだ?」
扉から顔を出した
「うわぁ、ひどい匂いだね。あちこちにゲロが飛んでて汚いなぁ。凛汰も、踏まないように気をつけたほうがいいよ?」
「うるせえよ」
「スマホなんか出して、何するのさ」
「写真を撮るんだよ。
立ち上がった凛汰は、無言になった梗介を無視して、まずは室内の中央から窓際にかけての
「……三隅さんの死が
違和感を
――『三隅さん、取材が大好きだから……見聞きしたことを記録することも、趣味みたいなものなんだって』
取材道具の手帳とペンは、油彩画『楽園の
「
窓際から視線を外すと、今度はローテーブルの隣に積まれた紙束に、明らかな異変を見つけた。櫛湊村について三隅が調べたという資料の一部に、大きな
「資料が、燃えた……そして、三隅さんが火を消した? だとしたら、なぜ燃えた? 誰かが、
凛汰は、ローテーブルを確認した。大量の煙草の
「オイルがない……ちょうど使い切った、ってわけでもなさそうだな」
そのとき、美月に「凛汰、来て」と呼び掛けられた。玄関から台所に移動していた美月が、
「
「ん? そうだよー。
台所の隅にいた梗介は、どうでもよさそうに回答した。それから、小首を
「凛汰、美月ねえ、見てみなよ。面白いものを見つけちゃった」
調理台の上には、透明な
「トリカブト……」
引き
「間違いないんだな?」
「うん……トリカブトの葉は、
美月が、震え声で言ったときだった。背後から、男の低い声が「その通りだ」と同調した。――梗介の声ではない。さっと振り返った凛汰は、いつの間にか接近していた
「
「トリカブトは、
無表情で説明した
「それ、
「ああ。以前の神事で用いていた
浅葱が
「十九年前の〝姫依祭〟で、〝憑坐さま〟の
「すまなかった。美術室の騒ぎも、耳に入ってはいたんだが、
左手で剣の
「海棠浅葱。櫛湊村のクソ共の中で、あんたはまだマトモな部類に入ると思ってたけど、期待外れだったみたいだな。神器だか何だか知らねえけど、俺から見れば
「……牽制、か。君の言葉通り、私が剣を
言葉を切った浅葱は、目にも止まらぬ速さで
「私が
村人たちは、大いに
「〝憑坐さま〟の
浅葱の
「美月は、私が守る。村の誰にも、決して、危害を加えさせはしない」
「……。海棠浅葱。あんたは、なぜ
浅葱の演説が、止まった。日本刀のように鋭利な眼差しが、廊下から室内へ、村人から〝まれびと〟へ
「昨日の〝姫依祭〟で、親父の死体が見つかった直後に、燃え方が激しくなった
廊下からこちらを
「俺は、あんたが親父殺しに関わっていても、今のところは美月に危害を加える気がないらしい、という一点においてのみ、あんたを
浅葱の眼光が、
「この感情が、愛情でなくて、何だというのか……貴様には、分からないだろう」
浅葱が、刀を
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