2-8 新たな犠牲者
「美月。確かめておきたいことがある」
「……え? うん、何?」
美月は、ぼんやりした顔で振り向いた。様子を
「三隅さん、どうしたのかなって、気になって……」
「……ああ」
美月が告げた
それでも、凛汰が『三隅さん』と呼び掛けて、インターホンをしつこく鳴らし続けると、気が
――『早く行きなよ。君たちがここにいる限り、何も始まりはしないんだからさ』
それきり、三隅が凛汰たちに取り合うことは、二度となかった。『もういいかい、まぁだだよ。もういいかい、まぁだだよ』と再び聞こえ始めた歌声が、凛汰と美月を
――『もういいかい、まぁだだよ。もういいかい、まぁだだよ……『もういいよ』という合いの手は、まだまだ聞こえそうにないねぇ……?』
「……三隅さんが決めたことだ。あれだけ呼んでも部屋から出ないなら、今の俺たちにできることは何もないぜ」
「そう……だよね」
「でも、あとでもう一回、教員寮に行くぞ。三隅さんに訊きたいことは、まだたくさんあるからな」
「……うん。私も、説得を頑張るね」
美月は、少しだけ表情を明るくしてから、我に返った顔で「凛汰、確かめておきたいことって何?」と訊いてくる。「ああ」と応じた凛汰は、改めて美月に質問した。
「昨日の夕方に、
質問の
「そっか……そうだよね。亡くなった
「浅葱さんが、親父殺しの実行犯かどうかは、まだ不明だ。その辺りをはっきりさせるためにも、親父の殺害現場の可能性が高い『木船の保管場所』を
「……分かった。神事で使う木船の保管場所は、浜辺のそばにある
美月が
目的地の正面にたどり着くと、潮風の匂いを濃く感じた。ガレージのシャッターは開けっ放しで、
「なんで、床が濡れてるの……?」
「
「それじゃあ……やっぱり」
「神域とガレージ、二箇所の証拠隠滅は、村ぐるみの犯行だ。
ガレージに踏み込んだ凛汰は、木材が積まれた
「あれって……まさか」
「
「あの血は、
「可能性は、かなり高いぜ。木船を保管していたガレージなら、死んだ親父を
美月が、その場にしゃがみ込んだ。
「ありがとう……このガレージ……
深呼吸を繰り返した美月は、ふらふらと凛汰から離れた。まだ青ざめた顔からは、相当の
――『〝神がかり〟は
「……美月。もしかして、また記憶が途切れかけたのか?」
凛汰の問いかけを聞いた美月が、顔を
「この声……
「場所は、どこだ!」
凛汰の怒鳴り声に
凛汰が、隣に「走れるか」と短く問うと、「うん」と答えた美月が、時間を惜しむように
「お願い……もう、誰も、死なないで……!」
*
悲鳴の発生源は、予想通りの場所だった。田畑と教員寮を
地面を
「状況を説明しろ」
「……し……しんで……死んでる……」
ガチガチと歯を鳴らした大柴は、
「死んでる……間違いない……死んでるんだ……あの人が! 教員寮の二階で……〝まれびと〟の、記者さんが!」
「荷物を
「わ、忘れ物をしたから、一〇一号室まで、取りに戻ったんだよ……」
「さっき、あんたは『二階で記者が死んでる』って言ったよな。一階に住んでるあんたが、どうして二階の死体を発見したんだ?」
「それはっ……二階から、物音が……いや、声……そう、
「――おい、まだ息があるのかっ?」
「手遅れだったよ、もう……僕が行ったときには、手の
大柴は、
「行こう、凛汰。大柴先生も、来てください。……ちゃんと、確かめなきゃ」
大柴も、教え子に
「どうして、扉が閉まってるんだ……! さっき僕は、扉を開けっぱなしにしたまま、ここを離れたはずなのに!」
喚く大柴を無視した凛汰は、二〇一号室の正面に駆け寄って、扉のレバーハンドルに手を掛けた。ガチッ、と
「クソッ……三隅さん! 三隅さん! 三隅さん!」
「……扉を破るぞ。最後の一人になった〝まれびと〟の命令だ。――手伝え!」
声を荒げると、ガクガクと頷く大柴のそばに、数名の
「
「やっほー、美月ねえ。
ニコニコと笑う
「外から二階の窓を割るにしても、今から
村人たちは、
「離れるぞ! 耳を
階段の中ほどで美月もろとも強く
立ち上がった凛汰は、誰よりも先に二階へ駆け戻ると、
紙束と書籍で散らかった部屋の左側に、
「三隅さん」
男の名を呼んだ凛汰は、
「三隅さん……」
窓から入る光の帯が、
「……どうしてだ……?」
どうして〝まれびと〟たちは、満ち足りた顔で死んでいくのだろう。薄ら笑いで
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