1-8 双子と奇祭
帰りは
「おかえり、美月。凛汰くんも、村じゅうを歩いて疲れただろう」
「いえ。海棠さん、美月を道案内につけてくださり、ありがとうございました」
「いいんだよ。美月も、祭りが初めてで緊張していたから、いい気分転換になったはずだ。美月、私は
「はい。分かりました」
美月が頭を下げると、浅葱は
「凛汰の自転車、場所を移すって話だったよね。凛汰は、あとで
美月に促された凛汰が、自転車を押して海棠家の隣に回ると、古びたカーポートの下に、白い自動車が停まっていた。
「浅葱さんが帰ってきたら〝
「ああ、そうさせてもらえると助かる」
引き戸をガラガラと開けた美月と共に、夕陽が射し込む海棠家に入ると、木材の温もりと
「座ってて。お茶を淹れてくるね」
「飲み物は大丈夫だ。持ってきてるから」
和室の
「ただいま、美月。凛汰くん、いらっしゃい」
「
「お邪魔してます。楚羅さんも、巫女として〝姫依祭〟に参加するんですね」
「ええ。今の私は、まだ〝
おっとりと目を細めた海棠楚羅は、結い上げた黒髪に
「私も、
「はい。まだ時間には余裕がありますから、慌てなくても大丈夫よ」
「凛汰くん、歩き回ってお腹がすいたでしょう。〝姫依祭〟のあとで開く宴会用に、お食事の準備を済ませているから、軽くつまめるものをお出ししましょうか」
「いえ、お構いなく。代わりに、買ったものをここで食べても構いませんか」
「凛汰くん、今日はうちに
「那岬町には戻らずに、親父が住んでる教員寮に押しかけます。あ、よそ者が勝手に泊まったら駄目とか、村としてまずい理由があれば教えてください」
「そんなことはないわ。でも、教員寮では狭いでしょう」
「
凛汰は、さらりと
「美月と
「美月は、優しくて清らかな心を持った女の子でしょう。他者の感情を、我がことのように
楚羅が、薄く笑った。縁側から
「そんな美月なら、帆乃花ちゃんの心を開けるんじゃないかって、期待を掛けていたのよ。でも、大人にできないことを子どもにさせるなんて、いけないことよね」
「そうですね」
「あら、否定してくださらないのね」
「そういう駆け引きは嫌いなんで」
「そういう
「お恥ずかしい話だけど、あの子には私たちも手を焼いているのよ。二言目には、早く村を出る、東京に行く、と言って聞かないもの。
「……務め?」
最も気になった言葉を復唱すると、楚羅は一拍の間を開けてから教えてくれた。
「本当は、帆乃花ちゃんも
――〝
「でも、帆乃花を養女にはしなかったんですね」
「ええ。帆乃花ちゃんのお母様は賛成してくださったけれど、梗介くんが大反対したもの。まだ十四歳でも、蛇ノ目家の当主様ですし、うちには美月もいますから、帆乃花ちゃんを無理に引き取ることもない、と最終的には主人が判断したのよ」
「帆乃花の意思は、何か訊いていますか」
「もちろん、養子にはならないの一点張りよ。それに、なんだかんだ言っても、一緒に育ってきた弟が大切で、離れたくないんじゃないかしら」
なんだかんだ言っても――引っ掛かりを覚えた凛汰は、率直に訊いた。
「蛇ノ目家の双子は、
「まあ、びっくりした。どうして
「梗介は村人に認められているみたいでしたけど、帆乃花は
「
「それは、
「そんなことにまで気づいたの。……確かに
苦笑した楚羅が、語りに
居間に戻った美月は、紅白の巫女装束を纏っていた。出会いのときと異なるのは、長い黒髪を一つに結って、楚羅と同じ
「えっと……変かな」
「……別に。化粧ひとつで、変わるもんなんだな。まあ、
「やめてよ。言わせてるみたい」
「
「はい」
ペットボトルを片付けた凛汰は、ボストンバッグを肩に
――海棠神社の鳥居の前に、木製の船が運び込まれていた。小ぶりながらも二メートル以上の高さを
そんな船を
「浅葱さんは、ついてきてって言ったけど……凛汰は、無理しないで」
もし、今から凛汰が、美月を連れて櫛湊村から逃げ出したなら、どんな未来にたどり着くだろう。興味はあるが、再会を果たした父の
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