1-9 禁忌
祭りの列は、
日没を迎えた空の下で、
神職一家から距離を開けて、
「凛汰くん、もっと近くに行かなくていいの? せっかくの〝
「
「少し距離を置いたほうが、全体を見渡せるものだからさ」
「あの木船には、誰も乗らないんですね」
「神輿は、その名の通り『神様の乗り物』だからねぇ。ゆえに〝姫依祭〟では〝
「
「〝
三隅は、意味深な笑い方をした。
「いないねぇ、君のお父さん」
「そうですね。でも、必ず〝姫依祭〟に来ます。あいつはクズだけど、約束だけは破ったことがありませんから」
うっかり
「頂上に着いたね。これから
再び訪れた
「三隅さんは、村人が仮面をつける理由をご存知ですか」
「知ってるよぉ。あれはね、
顔を
「神の
凛汰は、眉根を寄せた。三隅は、視線を神輿に向けたままだ。
「
「楚羅さんの役目を、美月が引き継ぐ必要はありますか?」
「ぶっちゃけると、ないね。
「……巫女が次世代に継承されたか否かは、どう判断するんですか」
「それは、僕も知りたいな。楚羅さんは『美月ちゃんがお役目を継ぐことになれば、
目を細めた三隅の視線をたどると、
「来訪神であるまれびとは、海の
依り代――〝姫依祭〟の名が、
「ここで、興味深い
「……。その帆柱に、なんで黒い布をかぶせているのか、三隅さんはご存知ですか」
「もちろん、取材したからね。あれは、
「喪に?」
「木船の帆柱にも、将棋の駒の形をした窪みがあってね、祭りの夜にだけ御神体を木船に移していたそうなんだ。――〝
「〝憑坐さま〟には……御神体があるんですか?」
「正確には、あったんだよ。でも、十九年前の〝姫依祭〟で、火事に見舞われたらしくてねぇ。祭りで使った木船は、御神体もろとも焼失したんだってさ」
「……火事」
「その年からしばらくは、多数の死者・行方不明者が出て、〝憑坐さま〟の
「神輿を……燃やす?」
「このとき神は、すでに神輿ではなく、別の〝存在〟に移っているからね。……でもさぁ、普通は、そんなことをしていいわけがないよねぇ」
くつくつと笑った三隅は、不意に声を潜めた。
「さっき話した『
一瞬だけ、
「まずは、神輿の取り扱い。神輿を担ぐ意味は、神様を高い所へ持ち上げることで、敬意をお伝えするためだけど、この村の人たちさ、神輿を地面に下ろしちゃってるよねぇ? 本当は、たとえ休憩するときであっても、専用の台に安置するんだよ。地べたに下ろすなんてありえないし、ましてや神輿を踏みつけにして踊るなんて、論外だ。村人たちの仮面も、呆れるほどに種類がバラバラだから、宗教的な意義は
甲板から身を乗り出した美月が、浅葱に神楽鈴を手渡した。そして、仮面の集団に向けて、白魚のような手を伸ばす。
「憑坐とは、『
仮面の男衆たちの一人が、美月に松明を
「櫛湊村の神様は、
「その正体を……三隅さんは、知っているんですか?」
「見当はついているし、ほぼ確信しているよ。櫛湊村は、ハナカイドウの村を
そのとき、眼前の人垣が、モーセの
「
神輿を振り返った凛汰は、目を
「やめろ! 殺す気か!」
「君が行くしかない流れだよ。巫女を救いに行く来訪神の役は、〝姫依祭〟の
「のんきに言ってる場合かよ、クソが!」
ボストンバッグを放り出した凛汰は、村人を突き飛ばしながら駆け出すと、火の手が上がり始めた木船の手前で
「凛汰。巻き込んで、ごめんね」
「そんなことはいい。さっさと終わらせるぞ」
松明を持つ美月の手に、凛汰も手を添えてやった。美月は、
赤い炎が、一息で暗幕を
「かしま、せんせい……?」
その光景は、世界中で
天に向かってそそり立つ帆柱と、白い帆を張るために組まれた
絶命は、明らかだった。
――『じゃあな、凛汰、美月。〝姫依祭〟で会おうぜ。俺は、お前たちを愛しているよ』
「火を消せ!」
数名の村人が、我に返った顔で凛汰を見た。凛汰は、
「早く火を消せ! 人が死んでるんだぞ!」
言い終わるや否や、
「美月! 船を下りるぞ! ……美月? 美月っ!」
美月は、礼司を見上げ続けていた。
ふっと
地上に脱出する二人を追って、凛汰も
「
別れの言葉を吐き捨てた凛汰も、甲板から飛び降りた。
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