1-5 オカルト雑誌記者
こじんまりとした二階建ては、窓の数を確認する限り、各階に二部屋ずつしかないようだ。外階段は見当たらず、エントランスには扉もない。生い茂った雑草は、
「
そう説明した
そして、凛汰と美月が階段を上がり切った直後、二階の二部屋のうち一つ――奥の二〇一号室の扉が、
「……ははっ、三人目の〝まれびと〟が、お出ましになったというわけか。ああ、名乗らなくてもいいよ。君が、
廊下の窓を背にした男の顔は、
「たとえ俺の名前を知っていても、初対面の人間には挨拶をするのが、礼儀じゃないんですか? オッサン、あんた名前は?」
「凛汰! 言い方!
「やあ、美月ちゃん。今日も君は、
サスペンダー付きのズボンと白シャツ姿の男は、ショルダーバッグから
「
「今にも
「知りません。『ナタデナタ』って言葉に、何か意味はあるんですか」
「いい質問だねぇ」
オカルト雑誌記者・
「ナタデナタは、世間に
三隅は、くつくつと笑い声を立てた。油彩画『楽園の
「最後のパターンは、シンプルだ。トイレでも寝室でもない場所に、ナタデナタが突然に現れる。この場合の対処方法はゼロで、出くわしたら絶対に助からない。
そう語ったときだけ、
「
「……。その怪異の
「ああ、本当だねぇ。知ってしまったねぇ。……ごめんねぇ? まあ、君って可愛い見た目に反して
「今の都市伝説、初対面の人間に話すのは、やめたほうがいいですよ」
「ご
「あんた、そのうち夜道で刺されますよ」
「ふうん? よそ者の僕を夜道で刺しかねないくらいに、
「君、
「
「おっと、ごめんねぇ。凛汰くん、歳はいくつ? 中学生? 高校生?」
「美月と一緒です」
「じゃあ、十五歳か。……ふうん。あ、記録してもいい?」
「は?」
凛汰が思わず発した声を、三隅は
「三隅さん、取材が大好きだから……見聞きしたことを記録することも、趣味みたいなものなんだって」
「職業病だな。俺の個人情報を集めたって、面白くないだろ。……三隅さんって、いつも手書きで記録してるんですか。スマホを使うほうが楽だと思いますけど」
「ああ、僕のやり方がアナログだと思った? でも、僕がスマホをいじる姿は、村の皆さんを不安にさせるみたいでねぇ。実はね、取材を許可してくださった
「不便な思いをしてまで、どうして櫛湊村で取材をするんですか」
「僕の仕事って、そういう苦労だらけだよ? でも、今夜は待ちに待った〝
「三隅さんも、〝姫依祭〟に参加するんですか」
「もちろん。君も、他人事じゃあいけないよ? 〝まれびと〟を
三隅の
「宝探し?」
「たとえ記事には書けなくとも、個人的な
階段を下りかけた三隅は、おもむろに足を止めると「ああ、そういえば」と言って振り返る。タイルを
「最近、取材道具のボイスレコーダーを紛失したんだ。録音と再生機能がついた、手のひらサイズの機器なんだけど、それらしい落とし物を見かけなかった?」
「私は、見かけませんでした。凛汰も、見てないよね?」
「ああ。俺も見てない」
「そっかぁ。まあ、村の取材では使えない持ち物だけど、大事な仕事道具だから、手元にないと困るんだよねぇ。……約束を守らない〝まれびと〟に、〝
不気味な
「君のお父さんに、改めてお礼を伝えてくれるかなぁ? ――『素晴らしい絵画をプレゼントしてくれて、ありがとう』ってさ」
「……。三隅さん。本当は、この村に何をしに来たんですか」
「やだなぁ、取材だよ。じゃあねぇ」
へらへらと笑った三隅は、油彩画『楽園の系譜』で
「……
「三隅さんのことも、私は嫌いじゃないよ。私には、親切に接してくれるし……」
「そりゃよかったな。でも、あいつ。絶対に、ただの記者じゃないぜ」
「え?」
きょとんとする美月に、凛汰は三隅から受け取った名刺を見せた。
「クソ親父が行方をくらましたときに、俺は手掛かりを探すために、東京の家を調べたんだ。そのときに、この名刺に書かれてるオカルト雑誌が、親父の部屋から何冊も出てきた。かなり古いバックナンバーまで、わざわざ取り寄せてたみたいだぜ」
「それって……嘉嶋先生は、三隅さんが記者として
「当たり前だ。何か理由があるに決まってる。二人の
「そ、そうだよね。嘉嶋先生は、優しい人なのに。疑ってごめんね」
その評価には賛同しかねるが、ともあれ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます