1-6 まれびと
「
「この建物、周りの民家よりは、造りが新しかったな」
「うん。元々は〝まれびと〟をもてなすための宿泊施設だったけど、昔ほど〝まれびと〟が来なくなって、
「やっぱりか。あいつ、よそから来たんだな」
「もしかして、気づいてた?」
「元から
取り留めのない話をしながら、雑草が
「わー、美月ねえが〝まれびと〟を連れて歩いてるって
「
美月が、気さくに手を振った。梗介と呼ばれた人物も「美月ねえ、やっほー」とアルトの声で返してから、つり目を丸く見開いて、凛汰をまじまじと見つめてきた。凛汰も、自分より少し低い位置の顔を
「お前が、
油彩画『楽園の
「私、凛汰に話したっけ?
「いや。だけど、美月は『中学校が
「へー、秀才? ご
梗介は、不思議そうに
「君の顔って、僕と似てる?」
「そうか?」
「似てるよ。
童顔と言われた凛汰は、またか、と心の中で思う。とはいえ、
「〝まれびと〟をもてなすことは、村の
「梗介も、俺のことを〝まれびと〟って言うんだな」
「うん。あれぇ、美月ねえ、まだ〝まれびと〟について説明してなかったんだ?」
「あ、そういえば……ごめんね。旅のお方を〝まれびと〟って呼ぶことに慣れちゃって、うっかりしてた」
「無理もないんじゃない? 慣れたって言っても、説明には慣れてないでしょ。美月ねえは、まだ村に来て一年もたってないし、一人目と二人目の〝まれびと〟も、美月ねえが東京から来たってことを、
「クソ
「いいよー」
さらりと
「櫛湊村では、よそから来た人を〝まれびと〟って呼んでいて、コミュニティの外から現れた
「……驚いたな。梗介、詳しいんだな。それに、説明にも慣れてる」
凛汰は、素直に
「蛇ノ目家は、
――家督を継いだ。
「俺を見た村人が、手を合わせて
美術準備室の
「どうして凛汰は、その質問を今しようと思ったの?」
「どういう意味だ?」
「言葉通りの意味だよ。〝まれびと〟についての質問を、どうして今しようと思ったの? 凛汰って、僕に会うまでの間に、たくさんの村人たちと会ったよね? 君の道案内をしてる美月ねえに、海棠神社の
「……。訊くまでもないからだ。〝まれびと〟って言葉が、よそ者を意味していることくらい、
「ふうん。へえぇ。そうなんだぁ。……あはははは、はははははっ」
梗介は、正気の
「凛汰ってさ、僕が説明した内容くらい、とっくに知ってたんじゃない?」
「どうして、そう思うんだ?」
「さあ? でも、なんとなく……〝まれびと〟のことも〝
「エイプリルフールの嘘だよ。四月一日って、楽しいよね」
そのとき、悪趣味な
「〝姫依祭〟の準備に行くんでしょ! サボってないで、早く戻ってきて!」
荒々しい
「あいつ、なんであんな所にいるんだ?」
「僕らの家が、この小山の裏側にあるからだよ。僕も帆乃花も、家までの近道に使うときがあるんだ」
「そういう意味で訊いたんじゃない。あいつ、学校で補習を受けてただろ」
「ああ、
ぶわりと風が吹きすさび、校舎の方角から
「あいつは年下だけど、さっきの記者と一緒で、
「梗介くんは、たまに
美月の表情が、真剣なものに変わった。凛汰は、声を潜めて問いかける。
「帆乃花と梗介の家には、近づくなってことか?」
「うん。蛇ノ目家は、さっき梗介くんが説明した通り、海棠家の神事を
「
「こんにちは。嘉嶋凛汰と申します。父がいつもお世話になっております。この村の皆さんは、よそ者の俺たちを気に掛けてくれて、とても親切ですね」
人好きのする笑みと、爽やかな口調を心掛けた。猫をかぶった凛汰の隣に、慌てて駆け寄ってきた美月が並ぶ。演技が
「さっきも、蛇ノ目梗介くんと話していたんです。俺と同年代なのに、彼はしっかり者ですね」
「……蛇ノ目家の息子のほうは、先代の当主の
「くぎ?」
凛汰が笑顔で訊き返すと、老婆は
「美月ちゃんが巫女を継いだら、楚羅さまもようやく肩の荷が下りるだろうねえ」
「楚羅さんは、さっき俺も会いました。この櫛湊村で、巫女を長年務められておられる方ですよね。十八年、でしたっけ」
美月が返事をする前に、凛汰が言葉を
「楚羅さまご自身は『巫女の務めを満足に果たせていない』と
「あ……ありがとう、ございます……」
美月が、ぎこちなく笑った。
「行くぞ」
「え? ちょっと、凛汰……」
美月が、戸惑いの声を上げた。
「気になることは、もう質問しなくていいの?」
「ああ。クソすぎてイラついたから」
「何それ、子どもみたい」
背後で、小さな笑い声が
蛇ノ目きょうだいの姿は、森の中から消えていて、木の葉だけが風に揺れている。
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