2-13 巫女として
息を切らして
玄関の引き戸を開け放った浅葱を追って、凛汰と美月も
凛汰もすぐに
――ぎい、と
海棠
変わり果てた妻の姿を見上げていた浅葱は、ようやく止まっていた時が動き出したかのように「――
「……楚羅さん……どうして……?」
美月が
「ずるいって、どういう意味だ?」
「……だってさ、僕は
へらっと梗介は笑ったが、声には
「浅葱さん、それは?」
「……楚羅の、
「俺にも、読ませてください。それくらいは、認めてくれますよね」
切り
「……『先代の
そこまで読み上げてから、眉を
「――『
美月の目が、大きく見開かれた。
「よりによって、
「
凛汰は、梗介の手から遺書を
「お前らは、たびたび『
村人たちは、楚羅の
「楚羅さんは、
「へえ。海棠姫依の妹に当たる海棠
「知らないよ? 僕が生まれてない頃の話なんだから」
「しらばっくれるなよ。教員寮でも、そこのジジイ共が『末の妹と違って、あの娘の死体は、誰も見ていない』って口を
「知らないったら。しつこいなぁ。
「で、その話の一体どこに、海棠
凛汰が追及すると、腰を抜かしていた
「海棠
村人たちは、もう凛汰に
「十九年前の〝
「されど、末の妹のほうは、
「あの高さから、しかも嵐で荒れ狂う海に落ちて、生きていられるわけがない……私たちはそう言ったけれど、姫依さまは疑っていたのよ。海棠
「〝姫依祭〟で〝まれびと〟を死なせた我々が、〝憑坐さま〟に捧げなくてはならない
「儂らが供犠を選びあぐねている間にも、
「そんな悲劇の連鎖を断ち切るために、姫依さまはご決断なさったのです。〝憑坐さま〟の
村人たちの視線が、大広間の楚羅に
「そういえば、海棠家に嫁入りした楚羅さまの
「いいや、呪いさ。あるいは、
嵐のような
――『ええ、亡くなりました。亡くなったのよ。十九年前の〝姫依祭〟後に、姫依さまが非業の死を遂げられてから、海棠家の一室で。互いを刃物で刺し合うという、
「……なるほどな。十九年前の〝姫依祭〟から数日後に、海棠
話を整理した凛汰が吐き捨てても、もはや村人たちの耳には入っていないようで、大広間の遺体に手を合わせながら、身勝手な
老人たちの向こうから、ちょうど
「美月ちゃん、大丈夫かい?」
伸ばされた男の手が、美月に届く前に――二人の間に割り込んだ凛汰は、大柴の手を全力で叩き落とした。バチン! と
「
じん、と手のひらが熱を持ち、
「このまま座らせてやれよ。美月が、身近な人間の死体を見るのが、昨日と今日だけで何回目だと思ってるんだ……?」
「ああ……うん、そうだね。
微かに
「あんた、優しいんだな」
凛汰の言葉が意外だったのか、大柴は不思議そうにこちらを見た。表情が再び観察しやすくなったところで、凛汰が「
「
「……。お前には、他にも訊きたいことがある。美月が
「え? うん、その通りだよ。教材は、学年ごとに分けているけどね」
「美月が中三だった頃、教室には三人の生徒が
「そうだけど……なんで、そんなことを訊くのかな? あと、いくら〝まれびと〟でも、僕のことを『あんた』とか『お前』って呼ぶのは、やめてほしいなぁ……」
「次の質問だ。昨日、俺とお前が初めて会った昼下がりに、
態度を改めない凛汰に、大柴はもの言いたげな顔を見せたが、やがて首を
「補習を始めてから、五分もしないうちに、教室を出ていったんだよ。『早く〝姫依祭〟の準備に行きたいから、今日の補習はなしにして』って言われてさ」
大柴の
「そもそも帆乃花は、
「まあ、ね……日中の授業をちゃんと聞いて、家でも予習と復習を頑張れば、
「補習の
「えっ? えっと……毎週……いや、ほとんど毎日……かな。あの……僕が嘘をつく意味なんて、何もないと思うんだけどなぁ……」
「……よく分かった。大柴誠護。あんたは大広間に入ってくるな。美月のことも、俺が面倒を見るから、お前の手助けは
そう言い渡してから、凛汰は楚羅の遺体に少しだけでも近づくべく、
「夫婦
掴まれた右腕に、
畳に寝かされた女の遺体は、手前に座った浅葱の背中に隠れていて、もう顔が見えなかった。
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