2-14 あと一人
「凛汰、
「
参道を歩いているのは、楚羅の遺体に寄り添っていたはずの浅葱だった。梗介が海棠家を出たことに気づいて、同じく後を追ってきたらしい。他に
「美月。歩くペースを上げろ。絶対に、あいつに追いつかれるな」
「えっ? う、うん……」
早足で御山を登ると、遠くから「待ってってば……一人にしないでくれよ……」と声がしつこく追ってくる。海棠家には村人の老人たちがいるだろう、と凛汰は心の中で吐き捨てたが、そういえば村人たちの中には、昨夜の〝
とはいえ、背後の
「さっき俺が、あいつに海棠家で質問した内容を、美月も聞いてただろ。あいつが俺に答えた内容に、嘘は混じってたか?」
背後に一瞬だけ視線を送ると、美月は歩調を
「凛汰って、どうして大柴先生のことを、そんなに……あ、昨夜の会合での大柴先生の態度を、まだ怒ってくれてるの?」
「……。まあ、そんなところだな。それより、質問の答えは?」
「あ、うん……大柴先生は、凛汰の質問に嘘をついてなかったよ」
「確かだな? じゃあ、
「さあ……ごめん、それは分からない。私は補習を受けたことがないし、いつも授業が終わったら、すぐに学校を出るように言われてたから……」
妙な言い回しが引っ掛かり、凛汰は日当たりの悪い山道を歩きながら、
「――『すぐに学校を出るように言われてた』? 誰に?」
美月は、なぜか少しもじもじしてから、恥ずかしそうに「浅葱さん」と答えた。
「放課後になると、私を校門まで迎えに来てくれてたの……」
「……はっ? なんで?」
「えっと……『受験生なんだから、早く帰って家で勉強したほうがいい』とか、『あの辺りは
「親父まで……?」
美月が、村に
「こんな話をしても、事件を解くための推理材料にはならないよね……」
肩を
「やっぱり浅葱さんは、美月を大切に
「……そういう特別扱いも、帆乃花ちゃんの気に
本日三度目に訪れた神域は、潮風に
「嘘……どうして……」
神域の異変に気づいたのは、美月だけではなかった。凛汰たちとほぼ同時に、参道のルートから御山の
不意に、背後から木々を
「帆乃花ちゃんの遺体が……ない……」
断崖絶壁には、こちらに背中を向けて座る梗介しかいなかった。
「あんたらの
「私は、誰にも何も指示していない」
「その場所から、お姉さんの死体を、海に
「……へーえ。クソ
立ち上がった梗介が、振り返った。ここに来る道すがら、また泣いていたのだろうか。両目は赤く、表情も気だるげだったが、あどけない顔には
「村のジジババ共は、ついて来なかったんだ。楚羅さんの死体を見たショックが、相当大きかったみたいだね」
梗介が、一人ずつ目を合わせていったメンバーは、凛汰、美月、浅葱、大柴――油彩画『楽園の
「まず、クソ雑魚教師の質問に答えてあげるけど、僕は帆乃花の死体を海に
戸惑い顔の大柴が、凛汰と美月を見た。美月の前に立った凛汰は、浅く頷く。
「ああ。梗介が神域に到着してからすぐに、俺と美月も御山を登り切った。その間に、何かが
「ほらね。どうせ浅葱さんも、僕を疑ってたんでしょ? でも、残念でした。僕の仕業じゃないよ」
浅葱は、険しい眼差しのままだった。「それなら、なぜここに来た」と追及して、断崖絶壁に一歩近づいた。腰に
「なぜって、帆乃花のそばにいたいからだよ? 楚羅さんのそばから離れたくない浅葱さんと、同じだよ。そういえば、楚羅さんの遺体のそばに、
「全員、家から追い出してきた。私が戻るまで、あの家には誰も入れさせない」
「〝
教え子の言葉を受けて、大柴が
「〝憑坐さま〟は、海に
「ふーん、お前も〝憑坐さま〟のことを知ってるんだ」
「あ、当たり前だよ……まだ二年しか暮らしてなくても、僕だって村人なんだから」
「そっかぁ。じゃあ、覚悟はできてるよね?」
「えっ?」
「僕、供犠になるよ」
美月が、息を
「そんな顔をしないでよ、美月ねえ。だってさ、帆乃花が死んじゃったのに、僕だけが生きる意味なんてないじゃん。これはただ、それだけのことに過ぎないんだよ」
浅葱の
「でもね、条件があるんだ。そんなに難しい話じゃないから、聞いてほしいな」
ざあ、と潮風が吹きすさび、森の木々を揺らしていく。浅葱が黙っている間に、梗介は
「死んだ〝まれびと〟は、
――梗介が何を言いたいのか、凛汰は察した。美月も、
「〝憑坐さま〟の巫女である美月ねえにお
浅葱は、梗介をしばらく見つめてから、
「聞くだけ聞こう。お前は、誰を供犠に選ぶつもりだ?」
梗介は、満足そうに笑ってから――
「大柴。供犠は、お前だよ。〝憑坐さま〟のために、ここで死ね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます