第2話

 9月10日になった。

 私はABCマンションの203号室の前にいる。部屋の扉には(株)ドラムの札がかかっている。インターホンを押すと、扉越しから優しそうな女性の声が聞こえてきた。扉の鍵がガチャリと開き、女性の全身が現れた。マンションの1室にある会社ということもあり、服装はスーツではなく薄手の長袖の白シャツに少し花柄のヒラヒラとしたスカートだった。

「こんにちは、どうぞ、お入り下さい。」

 203号室の中に入ると、玄関と直通で一本のリビングルームへと続く長い廊下が通っており、その途中の左手に部屋が3部屋ほどある。そのうちの1つには<TOILET>の札がかかっていた。

 リビングルームには仕事用のパソコンが置かれたテーブルが4台と、仕切りで区切られた来客対応用のスペース、私には何に使うかわからない機材置き場などがあり、マンションの1部屋といっても普通の事務所とは遜色がなかった。全体的に白を基調としているのも好印象だ。

「こちらでおかけになってなってお待ちください。」

 来客用スペースにあるソファに案内された。ソファの座り心地はしっとりと低反発で、なんだかんだ緊張していた体をほぐしてくれた。ソファの前にあるローテブルに置いてある来客用のお菓子も食べて良いとのことなので、それを食べながら待っていると、

「お待たせしました。」

 先ほどの女性とは違い、来客用スペースに現れたのはベレー帽を被った男性だった。男性の服装はベージュのチノパンに、ブラウンの襟付き長袖シャツだ。

 彼は私の目の前のソファに腰を下ろし、足を組んだ。その姿は広告で見た人にそっくりでだった。

「広告だと、ベレー帽を被っていないので気づかれる方は少ないんですよ。申し遅れました。」

私の人生の演出家はそっとベレー帽を取り、深くお辞儀をした。

「私は、高堂浩二たかとうこうじといいます。」

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