第7話 日常7

「よしっ! ひとまず作業はこんなところでいいだろう」

「ふぁ~、やっと終わった!」


 少し休んだのち、作業を再開させた俺たちだったが、かなり真面目に取り組んだせいか、思いのほか早く予定していた作業を終わらせることができていた。


 大きく伸びをするスカイラに合わせて、俺もポンポンと腰と叩く。

 結構な時間、中腰でいたのでそれなりに腰が痛い。

 しかし、一仕事終えたと思うと、これもまた心地の良い痛みだった。


 陽はそれなりに傾いており、時刻は夕方に差し掛かっている。

 これ以上作業を進めると夜になってしまうので、この辺で終わらせるのが良いだろう。というか、疲れたのでこれ以上はやりたくない。


 作業としてはすべての箇所を終わらせたわけではないが、畑を耕す工程は全て終わっている。

 堆肥などを蒔く部分は残り4分の1程度なので、正直いつでも作業は終わらせられる状態だ。

 

 明日の午前中にでもサクッと終わらせれば、レイも文句は言わないだろう。

 畝づくりという、地味に面倒な作業は丸々残っているが、今は気にしない方向で。


「じゃあ、道具を片付けて家に戻ろうか」

「ユウ、片付けよろしく!」

「スカイラも一緒に片付けるんだよ!」


 さりげなく片づけを俺に押し付けようとしたスカイラに一喝を入れつつ、俺たちは鍬などを片付け家の中に戻る。


「それにしても、レイたちはまだ帰ってこないのかな?」

「言われてみれば……レイが付いていてモンスターに襲われるとは考えにくいから、単純に遅くなってるだけだと思うんだけど」


 時間的には戻ってきてもおかしくなかったが、まだレイとフェリシアは戻って来ていなかった。

 恐らく、クエスト報酬を求めて森の奥まで入って行って遅くなっているだけだと思われる。

 少しでも多くの報酬を、持って帰ろうとしてくれているのならありがたい限りだ。


「フェリシアが帰ってこないと、ご飯がないなーって」

「ご飯目当てかい」

「だって、今日はお昼以降何も食べてないし。そういう、ユウだってお腹減ってるでしょ?」

「……否定はできない」


 ぐうっとお腹が鳴り、空腹感を自覚する。

 スカイラが言った通り、お昼以降は何も食べていない。基本的には外で働いていたわけなので、お腹が減るのもある意味当然だ。


 作業をしているうちは集中しているので何も感じないが、終わった途端に腹の虫が鳴る不思議。

 人間の身体はある意味都合よくできている。


「まあ、帰ってこないのなら待つしかないけどね。それより、身体が汗でべたべたしてるからお風呂に入りたい~」

「昼から結構気温が上がったしな。俺も汗でべたべただよ」


 汗だけではなく、土の汚れも所々についていたのでスカイラの言うことはよく分かる。

 しかし、風呂はフェリシアがいないとどうしようもないことも事実だ。


 俺たち二人は水を汲んでは来れるが、それを温める手段がない。残念ながら、風呂についても彼女の帰りを待つしかない状態だった。


 水をかぶって汗を流すということもできるが、ある意味最終手段である。

 外の気温が高いとはいえ、家の中はそれなりに冷えている。我慢できないこともないけど、できれば我慢したくない。


 そんな俺の心を読んだのかは知らないが、スカイラが得意げに頬笑みを浮かべた。


「何だよ、急に笑ったりして。気持ち悪いぞ」

「気持ち悪いは、流石に酷いわよ!! せっかく、今この状況でお風呂に入れるアイテムを私が持ち合わせているというのに」

「アイテム?」


 首を傾げる俺に、スカイラはアイテムボックスを開くと得意げにそのアイテムを取りだした。


 ちなみに、アイテムボックスというのは文字通りゲームなどで見るアイテムを収納しておく機能だった。

 イメージは、ゲームなどでよく見る収納ボックスだと思ってもらえればよい。どんな理屈で存在できているのかは分からないけど、アイテムの収納には便利なものであった。


 多分、冒険者で持っていない人間は一人もいないだろう。


「問題を解決するのは、この魔法石です!」


 そして、彼女がアイテムボックスから取り出したのは魔法石だった。


「魔法石って、あの色んなエネルギーを溜めておけるあの魔法石?」

「そう! その魔法石!!」


 スカイラが取り出したのは、魔法石と呼ばれるこの世界に存在するアイテムだった。


 パッと見は鉱石に近く、大きさは手のひらサイズ。効果は様々なエネルギーや溜めておけるというもの。

 エネルギーは文字通り、電気や熱、風や水など、多種多様。そして、そのエネルギーを使いたいときに使えるという代物だった。


 これだけ聞くと便利なアイテムに聞こえるが、そもそも魔法が存在するこの世界において、魔法石の存在価値はそんなに高いものじゃない。


 火の魔法や水の魔法も普通に存在するから、使いたいときにはその魔法を唱えれば基本的に事足りる。


 また、エネルギーを溜めておけるといっても、戦闘で役に立つ場面が多いわけじゃない。

 

 基本的に相手にダメージを与えるためには投げつけないといけないから、投擲の才能が必要になってくるし、当たらなければただの無駄打ちだ。

 そもそも、その辺の雑魚相手になら剣できりかかったほうが早いし、強いボスならみんなで協力して魔法を打ち込んだほうがダメージを与えらえる。


 一応、魔力もためておけるという利点はあるが、魔力単体でみればそこまで多くを溜められるわけではなかった。

 エネルギーは中級魔法程度なら溜めておけるが、先ほども話した通り当たらなければ全く意味がない。しかも1回使ってしまえば、また何らかの方法で溜め直さないといけない。

 ある意味、戦闘に向かないアイテムという点が一番問題であるともいえるだろう。


 魔力回復に絞って考えても、この世界にはポーションと呼ばれるものが存在しているため、使うのであればそちらを使えばよい。


 つまり、武器としてもアイテムとしてもかなり器用貧乏なものだった。

 何より、流通量が少なく無駄に高価なのも、存在価値の低下に拍車をかけていた。


 事情はよく知らないけど、採掘できる箇所が限られているから流通量が少ないらしい。

 貴重なアイテムには違いないのだが、何というか残念極まりないアイテムだった。


「凄いでしょ?」

「機能性はおいといて、持ってるのは普通にすごいな。珍しいともいえるけど」

「実は昔、無駄に買ったのをそのままにしてたのよね。いつか使えるかもって」

「無駄にって……いや、確かに無駄か」

「はっきり言わないで! あの時のアタシがおかしかったんだから……」


 魔法石にお金を使うくらいなら、少し良い装備を揃えられるので俺の言葉は間違いではない。

 しかし、目の前でがっくりと肩を落とすスカイラにそこまで伝える鬼畜性は、生憎俺は持ち合わせていなかった。


「だけど、この場においては無駄ではないのです!」

「そうなの?」

「今、この魔法石の中には熱エネルギーがかなり溜められているんだけど……ユウは、これがどういうことか分かる?」

「……っ! ま、まさか……風呂に入れるということか!?」

「そう言うことなのです!」


 驚愕の表情を浮かべる俺と、正解とばかりにグッと親指を立てるスカイラ。

 確かに、魔法石には中級魔法くらいの熱エネルギーが入っている。

 それだけじゃ足りないが、俺とスカイラの初級魔法をかけ合わせれば、沸騰とまでは言わないでも、充分な温度までお湯を温めることはできるだろう。


 つまり、水を汲んできさえすればフェリシアがいなくても風呂に入れるというわけだった。


「ユウが理解してくれたところで、早速水を汲みに行くわよ!」

「よしっ! 善は急げだ!」


 風呂に入れるということで、変にテンションのあがった俺たちは早速外の井戸へ向かう。

 正直、今思えばフェリシアの帰りを待ったほうがよっぽど良かったと思うのだが、やはり風呂の持つ魔力というのは強大だ。


 そこから、二人フルスピードで井戸の水を風呂場へ運ぶこと約20分。


「こ、これくらい溜まってれば問題ないでしょ……」

「だな……」


 畑仕事の後ということで、二人とも疲労困憊だが、無事に風呂へ水を運び終えることができた。

 いつもはちんたら運んでいる作業なのだが二人で、しかもテキパキと働けば、これくらい早く運ぶこともできるのか。


 だからといって、次もこんなテキパキと動けるかと言われれば別問題である。

 今回は風呂に入りたい想いが強かった故。次回はまたちんたら運ぶ光景が目に浮かぶ。


「じゃあ、早いとこ沸かしちゃうか」

「任せて! 早速、この魔法石を投げ入れて……ほいっと」


 浴槽へ向かってスカイラが魔法石を投げ入れる。すると、ぼわっという音と共に赤い光が魔法石から漏れる。


 赤い光が漏れたと思ったら、次の瞬間熱波が俺たちの顔を襲う。思わず目を瞑ってしまうほどの勢い。

 魔法石だと思って舐めてたけど、想像以上に強いエネルギーが溢れだしたようだ。言うなれば、サウナ内でロウリュ後に至近距離から仰がれた時の感じに似ている。

 

 目を開けると、目の前の浴室からは僅かではあるが湯気が立ち上っていた。


「よしっ! 取り敢えずうまく言ったみたいね。後は、アタシ達の全力をぶつけるわよ! 準備はいい?」

「バッチリだ。それじゃあ、行くぞ!」


 タイミングを合わせて俺たちは魔力をすべて使った初級魔法(火属性)を唱える。

 初級魔法とはいえ、それなりの火球が俺たちの間に生成された。


 そして、火球が俺たちの手から離れると、ゆっくりと湯気が立ち上るお湯の中へ。

 再びぼわっという音と共に、ボコボコと水が沸騰する時の音が耳に届く。


 これは……成功だ!

 目の前の浴槽からは、これまでの比にならないほどの湯気が立ち上る。

 少し熱いかもしれないが、水のまま入るよりはよっぽどましだろう。


「や、やったわね……疲れた」

「そ、そうだな……」


 そんな目の前の光景とは反比例して、俺たちはげっそりした表情を浮かべていた。

 この世界では魔力を限界まで使うと、信じられないほど身体がだるくなる。別に死ぬわけじゃないからいいけど、このだるさは何回やっても慣れない。


 だからこそ、早く風呂に入って気力だけでも回復しよう。


「じゃあ、俺はリビングで待ってるから、スカイラから先に入っちゃえよ」

「えっ? 一緒に入るんでしょ?」

「えっ? 一緒に入るの?」

「うん。最初からそのつもりだったけど」


 こてんっと首を傾げるスカイラ。俺はそんなつもりじゃなかったので、虚を突かれた形である。


「だって、温めたとはいえ、時間が経てば冷めちゃうから、一緒に入ったほうが効率的でしょ?」

「あ~、まぁスカイラの言う通りか……」

「……それに、レイとは入ったのに、アタシとは一緒に入れないの?」

「…………」


 痛いところを突っ込まれた。あの時はいじってきたけど、内心は若干羨ましがっていたらしい。

 更に、風呂が冷めるという点も説得力がある。これは、もう答えは決まっていると言ってもいいだろう。


「……じゃあ、一緒に入るか」

「ふぅ~ん。ユウも一緒に入りたかったんだ。……えっち」

「お前から誘ってきたんだろうが……」


 しかし、彼女の誘いに乗ってしまったのもまた事実。ここはスカイラの言葉も甘んじて受け入れよう。


 まさかこの短期間でレイだけじゃなく、スカイラとも風呂に入るとは思わなかった。

 レイと同じに一度も入ったことがないわけじゃないから、問題ないけどさ。


 そして、


「ふふっ。お客さん、かゆいところはございませんか?」

「うん、かゆいところはないけど……何この状況?」


 俺はスカイラに背中を流されていた。

 あれ? どうしてこうなったんだっけ? 俺としては、一緒に風呂へ入るだけかと思ってたんだけど……。


「だって、ただお風呂に入るだけはつまんないじゃん」

「つまんない……のか? 風呂ってそんなもんだと思うけど」

「もう! ユウは夢がないんだから! こうしてアタシに背中を流されるのは嫌なの?」

「……嫌じゃ、ないです(三〇寿風)」

「素直でよろしい!」


 嫌な奴なんていないだろ。好きな女性に、風呂場で、お互い全裸で背中を流される。

 こんな状況を断るやつなんて、ホモかEDのどちらかだ。


「というか、タオルとか使わないんだな」

「手の方が隅々まで洗えるかなって!」


 そう言いながら石鹸で泡立てた手で俺の背中を擦るスカイラ。

 個人的にはタオルでも素手でもどちらでもよいが、素手だと若干こそばゆいんだよな。


 しかし、スカイラの手はすべすべで、自分で洗う時よりも気持ちよい。なんだかこれは癖になりそうな――。


「おひょっ!?」

「わっ! もうっ! 急に変な声あげないでよ!」

「いや、変な声も上げるって。いきなり前を洗われたら!」


 抗議の声を上げるスカイラに、逆に俺からも抗議の声を上げる。

 理由は俺の発言の通りだ。背中を洗っていた彼女の手が、前面に伸びてきたからである。


 更に、触られた部分もお腹ではなく胸、しかも乳首を触られたのだから変な声も出る。というか、男の乳首をいじられる描写なんてどこに需要があるんだよ!!


「全身洗うんだから、背中だけなわけないでしょ! ほら、さっさと向きなおる」

「……分かったよ」


 不服ではあるが、仕方がない。俺は再び前へを向き直る。


「んしょ……んしょ」


 スカイラが丹念な手つきで俺の身体を洗っていく。

 ……彼女が気付いているかは知らないが、俺の前面へ手を伸ばすにあたって、彼女の身体はぴったりと俺の背中に張り付くような形になっていた。


 つまり、何が言いたいかというと、彼女のやわらかい胸の感触が余すことなく背中から伝わってきていた。


(……あ~。これはヤバい)


 レイほどではないとはいえ、彼女も十分大きい部類。その大きさのおっぱいが押し付けられ、柔らかさとてっぺんの感触が俺の理性を狂わせていく。


 いや、もう十分狂っていた。


「…………ここも、洗わないとね」


 スカイラから艶っぽい吐息が漏れる。

 

 俺の胸から手を離すと、その手はどんどんと下がっていき、


「……っ!?」

「…………」


 優しく手つきで、俺のモノを包み込むようにして握った。


 俺のモノは既に屹立して敏感になっていたため、思わず前かがみになる。


 そんな俺の反応に、スカイラは妖しく、どこか楽しそうに頬笑みを漏らす。


「……可愛い」

「……あんま、弄ばないでくれ」

「ごめん。でも、ピクッとしたのが面白くて。……それに、すっごくかたいね」


 何がとは、あえて言わなくても分かるだろう。

 スカイラは、これまでの個所と同じように俺のモノを洗っていく。


 時に強く、時に焦らすように弱く。絶妙な力加減で俺のモノを弄ぶ。


 そして、その手を上下にしごく様に動かし始めた。


 自分でするときとはまた違う。

 他人にいじられているという感覚が、俺の中で高揚感をどんどんと高めていく。


 正直、長い時間持ちそうになかった。


「っ……うっ、す、スカイラ……」

「……いいよ。ここはどうせお風呂場なんだから」


 一向にしごく手を止めないスカイラ。

 それどころか動かす速度がどんどんと早くなり……俺の限界はあっけなく迎えた。


「や、やばいっ……でるっ!」

「…………」


 目の前が一瞬真っ白になり、気付くと俺は達していた。

 腰がガクガクと動き、荒い息を吐く。


「……いっぱい出たね。べとべとだ……」

「わ、悪い……洗ったばっかりだったのに」

「ううん、良いよ。また洗えばいいし」


 そう言って再び石鹸を泡立てると、出したばかりの俺のモノを優しく洗っていく。

 直後は敏感なので、またヤバかったが何とか堪える。


 お湯で身体を流し、綺麗になったことを確認すると俺は改めてスカイラへ向き直った。


「……今度は俺の番な」

「……っ!」


 スカイラの喉がごくっと動くのが妙に生々しく俺の目に映った。

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