第21話 甘い香り

 日食が近づくある日の事である。学者によると日食は魔族の力を高めると言われている。


 実際、一年前の日食の日に零級魔族が宝物庫の聖剣までたどり着いた。学園に緊張が高まるなかで、旅の行商人が尋ねてきた。


 この学園は王都から離れているので、たまに行商人が来るのだ。広げられたのは指輪にネックレス、香水など高級品が並んでいた。


 あああああ、私のお小遣いでは買えない物ばかりだ。


「エルフローラ、欲しい物があるのか?」


 カエスルさんが現れて、私に声をかける。


「はぃ……」


 私はカエスルさんに元気なく返事を返すと。


「よし、一つだけ買ってあげよう」

「ホントですか!!!」

「あぁ、本当だ」


 私は指輪か香水かで迷っていると。


「この香水はペアでの売り物だよ、男女でつけて合わさると、香が変わる、不思議な物さ」


 店主が香水を手にして説明する。ええええ、男女二人が合わさると!!!


 いかん、妄想が膨らんでしまった。


 そして、カエスルさんは香水を手に取り。


「この香水でいいか?」

「はい!!!」


 カエスルさんの問いに、私は思わす元気に返事を返す。これは本音が出たらしい。カエスルさんと合わさる……。


 色んな妄想をしていると。カエスルさんから、二つの香水の片方を渡される。私は早速つけてみることにした。


「う~ん、甘い香りがする」


 わたしが香水の香りに浸っていると。


「お嬢ちゃん、こっちの指輪もペアだよ。でも、愛し合う二人が永遠の愛を誓う時に使うのさ」

「永遠の愛!?ま、まだ、早いです!!!」

「確かに、学生なら早いか、お嬢ちゃんが大人になったら買ってくれな」

「はい」


 店主の言葉に、つい、返事を肯定してしまった。隣を見ると、カエスルさんが照れている。


 永遠の愛か……憧れるな。


 カエスルさんも香水をつけたので抱きついてみる事にした。


「ダメだ、ここは学園の真ん中だ」


 抱きついた私は直ぐにはがされてしまった。一瞬だけ感じたカエスルさんの温もりは何時までも残っているのであった。



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