第9話 逆十字の刑
朝練の後の事である。それは、カエスルさんと二人だけの時間であった。
「カエスルさん、先生に好きな人はいますか?」
私は自分の想いをぶつける事にした。この想いが止まらないからだ。
「ああ、居る、もう死んでしまったが、大切な人だ」
ガビーン、追憶の恋か……ある意味、勝てる気がしない。
「エルフローラ、君には語ってもいい気がする」
すると、カエスルさんが泣いていた。
「君を見ているとレイナの事を思い出してね」
「レイナ?」
「俺は本当の両親も知らない孤児でね、行先を転々とした結果、金で売られて気づいた時には奴隷になっていた」
私も真紅の瞳を持つナジナ族だ、奴隷になったカエスルさんの気持ちが少しわかった。悲しい気持ちでカエスルさんの話を聞き続けることにした。
「そうだ、とある大金持ちの同じ奴隷として暮らしていたのがレイナだ。地獄の生活の中唯一の希望であった」
希望か……きっと、二人は愛し合っていたのであろう。私は胸が痛んだ。この無力感は耐え難いモノであった。
「しかし、極悪人の金持ちはある日、レイナに性奴隷にする事を提案してきた。この国は娼婦にも人権が有るとして違法行為を設けていた。だから、奴隷であるレイナを性奴隷にしたかったらしい」
娼婦に出来ない違法行為、想像しただけで恐ろしい。
「結果、レイナは自殺をしてしまった。俺はすべてを失った。だから、殺した。金持ちの家族を全員殺した」
それがカエスルさんの罪の重さか……。
私は言葉を失う。
「そして、死刑の無いこの国で一番重い罪の逆十字を刻印されて十年の兵役を課せられた。ホント、運が良かった。たまたま、俺の年齢は十四歳と子供扱いされたので十年の兵役で済んだ」
神様の祝福が得られない逆十字の刑か……。
胸がザワザワする。これ以上は聞きたくない。
「その後は戦争の最前線で戦い生きるスキルを得た、兵役が終わると傭兵として働き。今では国家勇者騎士高等学校の先生までになれた」
カエスルさんの瞳から涙がこぼれると。
聖剣が熱い、私の想いは死んだレイナに勝てないの?
「この世界をコワス」
「エルフローラ?」
私は意識を失うのが感じられた。呪いの様に聖剣を抜いたのが印象的であった。
「これは暴走?」
『ワタシから感情がキエテ行く』
聖剣で校舎裏から壁を切り裂くと簡単に壊れてしまう。
「これは聖剣の暴走だ!」
学園にA級事案発生のサイレンが鳴り響く。
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