躍進撃の真実
獣の様な男と女の声とベッドが軋む音が
お城の廊下まで響く中、
原因の部屋の前に数人の男女が待機していた。
廊下を歩く男がその中に合流すると
男はすぐに跪き輪の中心に居る人物に
「お待たせしました。イリス様」
と声をかけた。
イリス様と呼ばれた女は
「遅いぞ。グスタフ。」
と冷たく言い放った。
男は跪きながら張り付いた笑顔で
「用事が長引きまして…」
と答えていた。
イリスはそんなグスタフに
立つよう命じた後、
今後の事について語りだす。
「現在部隊は零壱から零参までと
第一から第五まで人員の増加が
目標達成し、各種装備の配備も完了。
零壱からの情報によると
世界樹の周囲には魔族の拠点は複数。
しかし世界樹に繋がりかつ
大規模な拠点は1箇所のみ。
その拠点内で危険視すべき存在は4体。
但しその4体は第一から第五の
各部隊の隊長クラスなら個々で
対応可能と見られる。
万が一を考え1体に零参を充て、
残り3体に第一から第四を充てて撃破。
第五は私の護衛兼各部隊への伝令、
イレギュラー対応として同行。
アリシアに関してはこの後身籠るまで
コージの相手を継続。
妊娠後は本来の身分になり
子育てに専念してもらう。
次回王女役はこちらのアンナ。
髪の色が現王妃役のカリーナと
異なるためこちらのイザベラと交代。」
紹介されたイザベラとアンナの2人は
皆の前で軽く頭を下げる。
2人の髪の色は紫をしている。
イリスは続けて
「役目の交代時期はいつもの様に
アリシア養生所行きとコージに
【オルカスの
コージの件も含め各部隊が準備でき次第
すぐに世界樹奪還作戦に入る。
奪還作戦のため人員移動に伴い
異世界勇者召喚は次回予定を延期。
何か質問はあるか?」
すぐにグスタフが手を上げて質問する。
「今回のイザベラとアンナは
自己強化と他者強化は?」
「2人とも問題無い」
イリスは即答する。
「それならば今回の王様役も
交代させてみては如何でしょうか?
今回の王様役は少々なりきれないところが
見受けられますので。」
グスタフがそう発言すると
イリスは少し考えた様子で
「確かに。
今回の王様役は処分しておこう。
ただし処分は王様役のみ。
次回王様役は……ロンダあたりを充てよう。
他に何かあるか?」
「コージを零参部隊の隊長にした点と
魔剣ヴァガボンドを下賜した点
伺っても?」
イリスの隣の黒のローブを着た男が質問する。
「グスタフ……実際コージの実力を
どう見る?正直に だ。」
イリスはグスタフに質問する。
「正直……頑張っても2級兵の3等くらい
でしょうね。
2等は難しいです。
武器は扱った事無いのか平均以下で
魔術も平均以下。
役に立ちそうな知識も無しです。
このまま成長を待っても
辛勝ってところです。」
「そんな人間を有効に使うなら
零参部隊が適役だ。
異世界勇者ってのは少なからず
英雄願望があるらしいからな。
魔剣を聖剣と説明して下賜すれば
英雄気取りでやる気の維持が可能になる。
さらに子供が出来れば
守るべきもののために必死に
剣を振るう兵士となるだろう。
隊長にしたのも立場を固めて
逃げ場を無くすためだ。
魔剣自体は解析が終了し
同じような性能の剣は量産されて
今回第一から第五部隊に
配備されておる。
見た目が同じにならないように
装飾は変えてあるがな。
今は魔剣としては
コージに与えても問題ない程に
価値が無いに等しい物と考えよ。」
イリスは冷たく言い捨てる。
「キーとなる兵器は完成済みですか?」
グスタフは質問を続ける。
「おい」
「はっ!」
イリスに声をかけられた黒いローブの男が
金属で包まれた小さな石がついている
ペンダントを取り出し説明を始めた。
「これはかつて召喚された勇者が
残した情報から完成させた
【遠隔操作型自爆用爆弾】です。
ペンダント型に加工したものがすでに
量産されているので
これを零参部隊全員に支給する予定です。
爆破の範囲は石の中心から
方針円状に広がります。
接近戦ならば近くにいる数人は
確実に命を落とすでしょう。」
「ついにこの時が来たか……」
グスタフは諦めたように言った。
異世界勇者がもたらした情報は
生活を豊かにするものだけではない。
軍事的な情報もいくつか残しているが、
零参部隊はその中でも
【神風特攻部隊】と呼ばれる部隊であり、
所属兵には爆弾を抱え敵陣で
自爆してもらい道を作る
文字通り必死の特攻部隊である。
ただし零参部隊に所属している兵士は
その旨を知らされていない。
……恐怖から脱走するのを防止するためだ。
そもそも零参部隊が
【神風特攻部隊】であることを
知っているのは1部の人間だけで
大規模作戦のために
【遠隔操作型自爆用爆弾】の運用どころか
存在すら公にはされてなかった。
世界樹奪還作戦と言う大規模作戦のため
全てが水面下で進んでいたのだ。
「どうしたグスタフ?
コージに思うところがあるのか?」
イリスは細い吊り目をさらに細くして
険しい顔で冷たく言い放った。
「いえ…私が3級兵だった頃には
この作戦の土台が出来ていたと考えると
感慨深いものがありまして……」
嘘である。
兵士をまとめる部隊長としての地位を得た
グスタフからすれば、他の部隊とはいえ
『目的のために死んでこい』というのは
心が痛まないわけがないのである。
まして家族や友人が居たであろう環境から
こちらの都合で無理矢理呼び出しておいて
死んでもらうのはまともな神経では
耐えられないものだ。
しかしそこは部隊長として
任務を遂行するべく心を押し殺す。
そんな葛藤を汲んでかイリスが
先ほどまでの険しい顔を緩め
穏やかな口調でグスタフを諭した。
「この作戦が成功に終われば
この国だけでなく多くの人々が
救われるのだ。
人々だけでなく多くの生き物も だ。
……彼等にはそのための礎に
なってもらうに過ぎない。
全てが終わったら犠牲になった者達は
王国の広場に石碑を立て
尊き者達として名を刻もう。」
その言葉を聞きグスタフは
感情を押し殺し
任務を完璧に遂行する決意をした。
最後にイリスが
「では作戦決行までは各自時間が無いもの
と思い準備に取り掛かめ。以上だ。」
この言葉を合図に
数人の男女は各々散り散りになった。
廊下に残るのは
浩二とアイリスの獣のような声と
壊れんばかりのベッドの軋む音だけだった。
―――――用語説明―――――
【オルカスの
兵器開発担当オルカスが開発した轡。
口に装着すると喋れなくなるが、
呼吸を整えやすくなるため長時間の
戦闘や運動がしやすくなる。
また、呼吸法により体内の魔力の循環を
整えるので自己強化の効果が高まる。
王の間の近衛兵と零壱から零参部隊の兵は
着用が義務付けられている。
着用義務の兵は喋れなくなるが
動きや音で簡単な意思疎通の手段を
それぞれの部隊で徹底されている。
浩二が見た王の間の近衛兵達は
兜の下にこれを装着している。
【
この星に存在する人を襲う獣達。
姿形は地球の生き物に類似しているが
眼が奇数である。
パラノギア周囲は
主に生息しているため
で話が通じるが成長とともに眼が増える。
世界樹に近づくにつれて
強さは数字と比例では無く累乗し、
訓練した兵士の強さの指針にされる事もある。
一般人だと複数人で1体を囲んで
何とか倒せるレベル。
3級兵の中の下っ端の3等兵の
単独討伐成功率は、一般人と同じくらい。
3級兵の中でも中間の2等兵で
単独討伐成功率は3割。
3級兵の中のトップ集団の
1等兵で単独討伐成功率は五分五分。
2級兵になると3等兵でも
単独討伐成功率は10割近くが求められる。
ちなみに特級兵の強さの目安として
グスタフは部下のサポートがあれば
ペンタアイ(5つ眼)も狩れる。
肉は食用になる。
【零壱部隊】
主に外部の情報収集部隊。
斥候。
交流があるのは零弐部隊と
イリス含む国の上層部数名のみ。
【零弐部隊】
主に内部の情報収集・情報操作部隊。
暗殺等も担当。
交流があるのは零壱部隊と
イリス含む国の上層部数名のみ。
【王族役】
国に従属しない生活を希望する
異世界勇者の懐柔要員。
王を殺して国を乗っ取ろうとした
異世界勇者がいた事も起因となっている。
元々は零壱か零弐部隊所属の隊員が
任命されて役に付く。
所属部隊の中でも自己強化と他者強化の
能力が高い者が選ばれる。
王族役に抜擢されると零壱・零弐部隊の
部隊員としての立場よりも優遇される。
召喚された勇者に合わせて
王女役や王子役が用意され、
王子役や王女役の髪の色に合わせて
王様役や王妃役が用意される。
各種薬の力も利用するが、
高い自己強化と他者強化能力で
生物学的要素までコントロールし
短期間での妊娠を可能としている。
処分とは降格処分。
本来の部隊に戻されるが
二度と王族役は回ってこない。
王女役に任命された後に
別の異世界勇者の時は王妃役を
任命された人もいる。
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