勇者コージ走る走る

初日の訓練はマラソンに始まり

マラソンで終わった。


まずは体力を付けることからと言われ

訓練所の専用コースを走ること…


1日。



他の兵達はマラソンして体を温めたら

各々グループになって訓練していたが

こっちはグスタフ監修の元

延々と走らされていた。



専用コースは起伏や障害物が

これでもかと用意されているので

一周するだけでもそれなりの時間がかかる。


それを目標無く走らされるので、

周回する事にドンドンタイムは落ちていく。


すでに走っていた兵の中には

鎧と武器で完全武装した兵もいたが、

恐ろしい事にこっちの全力疾走よりも早く

周回していた。



専用コースに作られている壁とか

こっちはよじ登って踏破しているのに

その鎧騎士みたいな兵は壁に向って飛んで

壁の隙間や僅かな突起に足を掛けて

次の足場に向って飛ぶってのを

2〜3回行ったら壁エリア踏破していて

心底驚いた。



身体能力どうなってんの?



他にも足場が片足ギリギリで

落ちたら泥沼になってるエリアや

ロープを伝って渡るエリア等

アスリート級の訓練所を走らされた。


運動してましたーって学生でも

これはキツイと思うがこっちはさらに

今まで大した運動してないもやしっ子なので

息切れぎれになりながら周回していた。



グスタフはずっと見ているだけだった。



働けよ!




3周目くらいしてあたりで何処かで

大きなドラ(?)みたいな音がして

近づいてきたグスタフから



「昼飯の時間だな。

一旦戻って飯食うぞ」


と声をかけられた。



昼飯は部屋に戻るとすでに用意されていた。

いつもと違うのはメインは魚ではなく

何かの肉が焼いたものが用意されていた。

そして米ではなくパンだった。


「おぉ…美味そう」



不味い泥魚みたいな飯じゃないだけ

気分は高揚していた。


成長期でエネルギーが必要で

さらに疲れている時は

肉は嬉しいものだ。


自然と体が欲する。




すぐに食事に飛びついた。



用意されてから時間が経っているのか

若干冷えているが肉は肉だ。

ナイフとフォークで切り分けて

いざ食べようとするも…




「硬いな」



なかなか切れない。



とりあえずフォークで刺して

歯で噛み切ろうとすると何とか

切ることは出来たがこれがまた硬い。



まるでゴムみたいな食感で

噛めば噛むほど獣臭さが滲み出る。



不味くて涙すら出てくるが

体は肉を欲していたのか吐き出す事は無く

飲み込めた。



そしてパンも固い。


フォークも刺さらないくらいの固さ。



「何でこんな飯ばっかり何だよ!」



おかしい。



異世界から召喚された人は結構な数いるはず。



その人達が今までこんな食生活に

文句を言わなかったのだろうか?


中には料理が得意な人が

料理を伝えたり

国にとって重要な人物が

文句言って食生活改善させたり

しているはずだから

こんな料理が続くのはあり得ないだろう。



そういえばイリスもグスタフも


「等級があがれば」


とか言ってたな。




異世界召喚の勇者とて

等級が低ければこの程度の対応って事か!



ぜってぇ旨い飯食いながら

キレイな女連れて雑魚どもを

見下してやる!



この憤りを胸に、

食事を流し込み午後の訓練に備えた。



食事の後しばらくして

ドラ(?)のような音がしたので

訓練所に向う。


この後もまた走り込みが続くようだ。



グスタフ曰く昼の食事開始と食事終了の時

兵舎から鐘を鳴らすらしい。


朝晩は街の人達に迷惑かけるから

鳴らさないのと、

朝晩の訓練開始と訓練終了は

兵士の自主性に任せているよえだ。


もちろん昼まで寝る兵士もいるが、

等級上げる向上心無しと判断されるか、

余程の体調不良の可能性もあるため

そこはお咎め無しだとの事。



昼飯食べた後訓練しないものや

昼飯後の訓練を早急に切り上げるものも

同様で、個人的な用事があったり

兵士としての仕事を探す者がいるため

お咎め無しなんだとか。



「ホワイトな所だろ?」


急にそんな言い方されて驚いた。


「環境が良い職場を

異世界の方ではホワイトって言うんだろ?」



グスタフは続けて説明してきた。


「確かに兵士ってのは肉体的に衰えたら

やっていけないから寿命は短い。

戦争になれば1番に死地に向うから尚更だ。

ここで酷使してたら疲弊しすぎて

いざって時に戦え無いだろう?


だから無理強いは出来ない。

辞めたければ辞めればいい。

やらないならやらないでいい。」


真剣な顔付きでハッキリとした口調で

言い切った。



そして口元を緩ませて


「それでも兵士が一定数いるのは

仕事が無くてここに来た人もいるが

昔兵士に助けられて志願した者、

国のためにと立ち上がった人達に

支えられているからだ。」


とグスタフは嬉しそうに答えた。


良い年したオッサンに真顔で言われて

何だか気恥ずかしくなって

周りが暗くなるまで専用コースを走った。

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