痛い系なショッピング

 淫女ビッチなキャサリンが、ブルドックと闇交渉した日の夕方。


 入院中のポムの元に、保安官がやってきた。


「ポム坊っちゃん! 大変です」


 ひどい慌てようだった。


「なんだよ。

 病室では静かにしろ」


 ポムはベッドに起き上がっていた。


 応急処置の医師ががんばってくれたおかげで、彼は車椅子移動ぐらいならできるようになっていた。


 だが、依然として一切の飲食ができない状態に変わりなかった。


「なにがあった?」 


「アンドレーがまもなく釈放されます」


 ポムが眉をひそめた。


「今なんて言った?」


 保安官が、周囲に誰もいないのを確認したあと、ポムに耳打ちした。


「どうやら裏で手が回ったみたいです」


 ポムは、信じられないといった顔になった。


(あいつ、何者なんだ?) 


 そのとき、別の保安官が入ってきた。


「ポムさま、お父様からお預かりして参りました」


 保安官はそう言って、小さなメモ紙のようなものを渡した。


 こう書いてあった。


「ポム。

 アンドレーがまもなく釈放される。

 裏で手を回したようだ。

 奴の背後に何があるかわからん。

 さほど迷惑な存在でもないから、これ以上奴に関わるな」


(負けを認めろってことかよ……父さん)

 

 ポムは手紙をグシャグシャに握りつぶした。


「冗談じゃないぜ」


 ポムはそう言って、車椅子に乗った。


「坊っちゃん。

 どうする気なんです。

 まさか、その体で奴に……」


「うるえせぇ。どけッ」

 

 ポムは、保安官たちを振り切って病室を出た。


 彼は病院内の、風伝ふうでんコーナーと呼ばれる場所に向かった。


 風伝コーナーは、ソードマジカの世界のいたる所にある。


 そこへいくと、風魔道士ウィンディー・ウィザードが常駐していて、エアメールで伝言を届けてくれるのだ。


 公衆電話みたいなものだ。


 風魔道士ウィンディー・ウィザードじゃなくてもエアメールが使える便利コーナー。


 ポムは、目に怒りの炎をメラメラさせながら、その場所へ向かった。


 ちょうどその頃。


 エミーリアとオリーヴィアが町に戻ってきた。


 2人は、淫女ビッチキャサリンから風伝を受け取り、アンドレーがまもなく釈放される旨を知らされていた。


 迎えが必要なので、町にやってきたのだ。


 2人は、エディタとジアーナの様子を確かめるために、まずはそちらに向かった。


「確かこの角を曲がった先だったわよね」


 エミーリアが言いながら町の角を曲がった。


 すると、建物がならぶ筋に一軒のホテルが見えた。


「あった。あそこよ」 


 オリーヴィアが言った。


 エディタとジアーナは、あのホテルの一室で待機している。  

 

 ちょっとだけ格安で、それほどいい所ではないが、一時待機するにはもってこいの場所だった。


 二人は、借りた部屋の前まできて、トントンとノックした。


 ……返事がない。


 なんどかノックしても、応答がなかった。


「どうしたのかしら?」 


 二人は不思議そうに目を見合わせた。


 その頃、エディタとジアーナは、ホテルの外を歩いていた。


 歩いて3分ぐらいの場所にあるパン屋さんで買い物をして、その帰り途中であった。


 2人とも、美味しそうなパンがはいった袋を手にぶら下げている。


 歳が近かった二人は、話が合った。


 ジアーナは、エディタの身の上話を真剣に聞いてあげた。


 エディタはそれがうれしく、ジアーナが好きになった。


 2人はあっという間に仲良しになった。


 気晴らしに、美味しいパンでも食べようということになり、そしていまこうやってこの道を歩いているのだ。


 エディタは、すっかり元気を取り戻していた。


 そんなエディタをみて、ジアーナもうれしくなった。


 楽しく会話しながら、ホテルへの道を歩いていた。


 その通りは、人がたくさん歩いていた。


 東に向かう人、西に向かう人、立ち止まっておしゃべりを楽しんでいるひとたち。


 そんな雑踏の中に、あの男たちが混じっていた。


 ポムと一緒に、地下の拷問室にいた連中だ。


 奴らが、つまらなさそうにしながら、ブラブラと歩いていた。


「なんか楽しいことねぇかな」


 ひとりがつぶやくと、もうひとりが声を高めて言った。


「おい見ろ、あそこ」


 そいつが指さす方に、3人の視線が集まった。


 彼らの視線の先には、おいしそうなパンをぶら下げて、ニコニコしながら歩くエディタの姿があった。


 彼らの瞳が、あの地下拷問室にいた時と同じの、魔獣のようないやらしい目つきに変わっていた。

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