痛い系なビッチ

 首都メイルスローの国会議事堂。


 役人があつまり、重要な決め事をする国家の心臓部だ。


 敷地内にうつくしい庭があり、そこを横切る渡り廊下がある。


 その廊下を、正装姿の職員たちが、ゾロゾロと行き来していた。


 その職員の中に、淫婦ビッチ感を隠しきれていない女職員がいた。


 どれだけ正装しても、いやらしい体のラインが丸わかりで、彼女が通った場所はすぐに見分けがつくほどいい匂いがしていた。


 まるいおしゃれメガネがあざと可愛かった。


 顎のほくろが妙にセクシー。


 政治の場に絶対にいてはいけない類の奴が、堂々と国の心臓部を歩いている。


 彼女こそキャサリン――我らがアンドレーの所有物――その人である。


 彼女が中庭の通路を歩いていたところに、オリーヴィアのエアメールの風が届いた。


「おいビッチ! アンドレー様が逮捕されぞ。お前の出番だッ!」


 オリーヴィアの声を聞き取るや、彼女は悪巧みをするようにクスクスと笑った。


 そして、独り言を呟く。


「キャサリン、ビッチのパッチでがんばっちゃう!」 


 彼女はくるりとUターンして、行き先を変えた。


 彼女は建物に入ると、階段を登っていき、大きな会議室の入口の前に立った。


 何かの会議がはじまる前らしく、たくさんの議員が会議室に吸い込まれていく。


 キャサリンは、誰かを探すような感じでキョロキョロ首を動かしていた。


 と、目当ての人間を見つけたらしい。


 中年の男だ。


 ブルドックみたいな巨漢の男だった。


 キャサリンは、彼に近づいて耳にやさしい吐息をかけた。


「あっそびっましょ」


 彼女の言葉の語尾にはハートマークがついていた。


 甘い囁き。


 ブルドック議員は、鼻の下を伸ばしながら言った。


「やあキャサリンくん。

 すまないがこれから大事な会議があるんだ」


「どんな会議?」


「国の未来を左右するほどの大事な会議だよ。

 だから、いくら君の誘いであっても今からは無理だ」


「会議って言っても、居眠りしてるだけでしょ?」


 ブルドック議員は、苦笑いした。


「ねぇダーリン。

 どうせオネンネするんだったら、添い寝してくれる人がいた方がいいと思わない?」

 

 少女のように甘えた声。


 ブルドックの脳が痺れた。


 思考力を失ったところに、強烈なフェロモンが追い打ちをかける。


 香りの奴隷になったブルドックは、くるりとUターンし、キャサリンに腕を組まれて、どこかへ連れ去られた。


 数分後には、二人はどこかの小さな部屋にいた。


 なんの部屋かはわからぬが、国会議事堂の内部であることは間違いない。


 二人の息は激しかった。


 ブルドックが、キャサリンの上着をまくりあげ、服の中に手を入れてかき回した。


 本物の犬にみたいにハッハッと息を吐き出していた。


「オイッ、このクソビッチ! 

 今日はどんな便宜を図ってもらいたいんだ?」


「Ah……

 今日は、ある人の罪をもみ消してもらいたいんです」


「え~、ボクにそんなことできるかなぁ~」


「できるわ。

 だってあなた、揉むのは上手じゃない」


「うふふ。

 確かにそうだねぇ」


「揉んで揉んで、最後に消してしまえばいいのよ」


 ブルドックは、保安局の高官とのコネを持っている。


 キャサリンはそういうことを熟知している。


 二人は、それから一時間ぐらい部屋にこもって、バタバタと物音を立て続けた。


 ときどきいやらしい声も聞こえていた。


 やがて音が病んだ。


 一分も立たないうちに、二人が部屋から出てきた。


 キャサリンは、髪がちょっと乱れていて、ブルドック議員は、ベルトが少しだけ緩んでいた。


 ブルドックが、人目を憚りながら言った。


「さてと、今から保安局にエアメールを送るとするか」

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