痛い系なBL?

(この人たちとは関わらないほうがいい) 


 少女はそう思った。


「わたしなんかが、あなたのような美しい男子のハーレムにはいるなんて百年早いので、遠慮しておきます」


 少女はそういって、その場から離れようとした。


「まて。おぬしの鼻すじ、鼻の下、とんがった上唇、それらが我の性癖をこの上なく刺激するのじゃ。

 もうたまらんのじゃ。

 どこにも行くな。

 我のハーレムにはいり、我の腕の中で眠るがいい」


 少女は後じさりしていた。


(この人、イケメンだけど、絶対に痛い系だ)


 少女はとうとう逃げ出そうとした。


 ドンッ!


 走り出した途端、誰かにぶつかってしまった。


 それほど強く当たらなかったので、少女はびっくりするだけで済んだ。


「ごめんなさい」


 相手は冒険者の男だった。


 装備から見て剣術士ソード・マスターに違いない。


 彼は、鋭い目つきで睨んでいた。


 ただし、少女をではなくアンドレーをだ。


「オイお前、唇が変色してるってことは違反者だな」


 正義感溢れる好青年だった。


 爽やかなコロンの香りがする。


 だが、その香りの奥に、なんとなく血なまぐさいものを感じさせた。


「そうじゃ」


 アンドレーは悪びれることなく返事した。


「お前は、冒険者のルールだけでなく、一般的なモラルも守れないのか?」


 相手は、完全にアンドレーを変質者扱いしている。


 美女を3人も従えた変質者など見たことはないが。


「この子が困ってるじゃないか。

 これ以上付きまとうんじゃない」

 

 アンドレーは、何も言い返さなかった。


 しかし、すごすごと退散することもなかった。


 彼は、青年とぶつかった視線を逸らすことなく前に進み出て、息がかかりそうな距離まで顔を寄せた。


 少女と3人の娘は緊張した。


 二人の男が火花を散らせているように見える。


 険悪なムードが漂っているのが、周囲の買い物客にも伝わったらしく、喧嘩でもはじまるんじゃないかと、ザワつき始めた。


「なんのつもりだ?」


 青年が威嚇した。


 すると、アンドレーがわけのわからない行動をとり始めた。


 彼は、警察犬のように鼻を効かせながら、剣術士ソード・マスターの体の匂いを嗅ぎ始めた。


 なにかの隠しスキルか?


 相手もそこそこの美男子であったから、変に色っぽいシーンになった。


 イケメンがイケメンのスメルを貪っているのだ。

 

「おい! なんだよ、やめろよ」


 アンドレーは、相手が振り払おうとすればするほど頑なに匂いを嗅いだ。 


「いい加減にしろ!」


 青年が叫びながら、やっとの思いでアンドレーを振り払った。


 彼の腕一面に鳥肌が立っていた。


「気持ちわりぃーな」   


 青年がひどい剣幕で睨みつけると、アンドレーは急に興味を失ったように去っていった。


 青年も、少女も、周りのやじうまも、アンドレーのあまりの奇妙さに呆気に取られるばかりであった。

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