第37話 大人の対応
「師匠?今師匠って言った?恋人じゃなくて?」
間抜け面を晒してぼそっと呟くのじゃロリエルフ。こんな間抜け面なのに見れる絵面なのは顔面偏差値の暴力というしかないだろう。しかしそうか、妙に渋ってたのはそんな勘違いをしていたからか。
「何を言ってるんですか。常識的に考えて、5歳児に色恋沙汰はまだ早いでしょう」
「でも…お前が欲しいって…」
「そりゃそうでしょう。あなた以上に勇者の師匠として相応しい人はこの世界にはいないと思いますし。昔の勇者レイの面倒を見てきた実績と、この国での立場。勇者の再来アレス・イストネルの後ろ盾としてどこからも文句のつけようがないですよね?是が非でも師匠になってもらいたいと思うのは当然です」
全く…これだから恋愛脳は困るんだよなぁ。千年男に飢えてれば当然かもしれないが。
「ぐ…ぐぬぬぬ…それはそう…だけど…ぬぅぅぅううう」
「仮にです、僕の伝え方が誤解を招くような言い方だった可能性を加味しても、5歳児が千歳児を口説くなんて普通に考えてありえませんよね?」
「千歳児!?」
「とはいえ、安心してください。微妙なすれ違いがあったようですが、僕が言った事は嘘ではありませんから。あなたは僕から見ても超絶美少女ですし、この国の頂点の上王陛下です。ぶっちゃけた話、男なんてよりどりみどりのはずなんです。にも拘らず今まで恋人の一人すら出来ないのは…ズバリ、あなたの理想が高すぎるからです」
「ぐふっ!?」
「おそらくですが、あなたは勇者レイの事を吹っ切れてないどころか未だに引き摺っている。まあそれだけ勇者レイが凄い男だったという事でしょうし、実際凄い事をしているわけですが、そんな男と事ある毎に比較され続けて耐えらえる男なんていないと思いませんか?」
「そんな事は…ない…んじゃないかの?」
「おそらくですけど、エタニアルの上王になったのも、勇者レイ絡みですよね?結ばれたのは妹さんでしたっけ?自分の方が先に好きだったのに妹さんが選ばれて、側にいるのが辛くて逃げ出したとかそんな所じゃないですか?」
「ごふぅ」
「で、上王になったからには男なんて選り取り見取り、勇者レイより良い男をとっ捕まえて逆ハー作ってやるとか意気込んではみたものの、まともな男が美少女とはいえロリ、そして立場が上の上王に粉を掛けて来るはずもなく、近づいてくるのはロリコンか権力目当ての糞野郎。権力で良い男を従えようと考えてみるも、良心が邪魔をしてそれも出来ず。そもそも自分が望んでいるのは相思相愛な関係なのだから無理やり従えた所で意味はない」
「ぐふぅ」
「適当な相手で妥協しようにも、今まで重ねてきた年月がそれを許さない。普通は老いるにつれて理想と現実のギャップに打ちのめされて、諦めるか妥協するものですがあなたにとっては不幸な事にそれすら叶わなかった。まあ妥協なんて出来ませんよね。なにせ見た目が変わってないんですから。むしろ年月が経てば今以上になる可能性すらある。そんな状況で妥協を選べるわけがない。結果は御覧の通りですが」
「ふぐぅ」
「日々美化されていく勇者レイ、出会う男は皆それ未満、妥協しようにもプライドが邪魔をする。真面目な話、上王になったのがそもそもの過ちでしたね。勇者レイに振られた後、ただのエリンとして当てのない旅にでも出ていれば今よりマシな未来に辿り着けていたでしょうに」
「がふぅ」
「ですが、そんなあなたにも奇跡が訪れたんですよ。最後のチャンスが来たんです」
「…え?」
「そうでしょう?だって出会えたじゃないですか。勇者レイと同等のスペックを持ちうる存在、アレス・イストネルに。むしろ幼少期からあなた好みに手取り足取り教えられる分、勇者レイ以上の存在になり得るでしょう」
「…そうかも」
「言っておきますが、こんなチャンスが二度あるとは思わない事です。チャンスの女神には前髪しか存在しない。走って追い抜かなければ掴めない。そして、掴むことを諦めた者の前には二度と現れる事はないでしょう」
「…でも」
「躊躇うのは分かります。きっと自分の私利私欲で一人の子どもの将来を歪めてしまうかもしれない事を恐れているんですよね?ですがそんなあなただからこそ、自身よりも他者を慮れるあなただからこそ、安心して託せる事が出来るんですよ」
「私が…私に…できるのかな?」
「出来ますとも!これは千年頑張って来たあなたへのご褒美なんです!そもそも人は育った環境でいかようにも変わります。勇者レイも最初に会ったのがあなたではなく賊の類なら、身ぐるみはがされて殺されるか、賊の一員として世界に混乱を振りまいたでしょう。
仮にあなたが師匠にならなかったとしましょうか。その場合、どんな人が師匠になるんでしょうね?表面は良い人を取り繕って裏で誑かす人が来るかもしれません、どんな言動をしても勇者だからと肯定して我儘放題に育てる人かもしれません、自分に依存させる為に、ある事ない事吹き込んで、人間不信に陥らせる人かもしれません。そんな屑が師匠になって悪影響を与える事を、あなたは由とするんですか?」
「駄目じゃ!そんな事は儂が絶対に許さんぞ!!」
「そうでしょうそうでしょう。さっきも言いましたが、あなたは少し考えすぎなんですよ。あなたは親身になって色々と教えるだけで良いんです。そうすれば自然とあなたの凄さや素晴らしさが伝わり、それは憧憬となり、年月の経過と共に恋心へと自然に昇華していくでしょう。そうして10年も一緒にいれば、自他ともに認めるラブラブカップルの誕生ですよ!!」
「ラブラブカップル!」
「欲しくありませんか?貴方を慕う理想の男の子が」
「欲しい!」
「欲しくありませんか?相思相愛の恋人が」
「欲しい!!」
「ならこのチャンスを逃すなんて愚かな行為だと思いますよね?なりましょう!アレス・イストネルの師匠に!生涯のパートナーに!!」
「なる!!!」
「いやあよかったよかった。これで僕も肩の荷が下りました」
ふぅ…我ながらいい仕事したな。最大の山は越えた。後はどうにかして俺の外出に付き合ってもらう様に持っていくかだけだな。ここまできたらちょろいもんだぜ。
「ところでな。別に儂は普通に師匠になってくれと頼まれたら、頷くのも吝かではなかったんじゃよ」
「そうなんですか!?」
おいふざけんなよ。なら今までの苦労は一体何だったんだよ!!
「うむ。わざわざイストネルに足を運んだ理由の一つは、アレスの教育に関してどう考えとるのかシグナスとオルテシアに確認する為なのもある。アレスに教える者にはそれなりの立場と実力、人格が必要じゃからな。お主の言う通り、将来の勇者が我儘傲慢な人格破綻者に育ってもらっては困るからの。ここに留まって教えるのも選択肢の一つとしてあったのじゃ」
「それならそうと早く言ってくださいよ」
「切り出す前に変な事を言い出したのはお主じゃろうが!」
「いやいや…似非女郎なんて言われたら、変に勘繰るのは当然ですよ」
「とりあえず、さっそく教育じゃな。まずは目上に対する口の利き方をお主にしっかり教えてやろう」
「ふっ…それには及びませんよ。実は僕はアレス・イストネルと名乗りましたが、本当はカ「関係ない」ティス…へ?」
「お主がアレスじゃろうとカティスじゃろうと関係ない。言ったじゃろ?元々そのつもりはあったと。それにお主も言っておったじゃろ、周囲の環境が人格を形成すると。なに、一人教えるのも二人教えるのも同じじゃ。アレスが極光王輝でお主が祝福なしでも関係ない。きっちり色々教えてやるわ」
「いや、僕は色々間に合ってますので大丈夫です」
「勘違いしておる様じゃが、ここに来た儂の大きな理由は二つ。アレスの確認と、お主の確認じゃ。お主が祝福なしで不貞腐れておるなら、アレスに悪い影響を与えるようなら儂自ら矯正してやろうとも思っておったんじゃが、ふふん。中々どうして、面白い事になっておるではないか。祝福なし、魔力も感じられないにも関わらず、初対面の相手に魔法を使い、儂の魔圧にも全く屈する様子がない。口を開けば大人顔負けで流暢に喋り、遠回しに脅迫してくる。一体何がどうなったらお主のような5歳児になるんじゃ?今の儂はの…アレスより、お主に興味がある」
なんだと…俺の隠しても隠し切れない品性が、のじゃロリぺちゃぱいエルフの興味をひいてしまっただと!?全く…俺はまだ5歳だぞ?色恋沙汰よりも、もふもふの事で頭が一杯なんだがな。
「5歳児に興味を持つとは…それは流石にがっつきすぎですよ」
「まずはそうじゃな…」
俺の後ろに回ったのじゃロリエルフが、片手でひょいっと襟首を掴み持ち上げる。くっ、こんな子どもに猫の如く持ち上げられるとは…!意外と力あるな!?
「子どもに対する仕置きといえば何時の世も決まっておる」
ガシっと俺の体が、腹ばいの犬を抱っこするかの如くぺちゃぱいエルフの体に固定された。悲しくなる程に胸の感触がない。これが…格差か…
「悪い子には…お尻ぺんぺんじゃあああああ!!!」
ぎゃああああああああああ!!容赦なく俺のお尻をペチンペチンと叩き始める鬼畜エルフ。もがいて逃げようとするも、万力に締め付けられたが如く逃れられない。お尻をむき出しにされてないだけましだが、この仕打ちは俺の精神に多大なダメージを与えた。なんだよお尻ぺんぺんって!俺にそんな趣味ねえよ!!お前本当にイメクラ嬢じゃないんだよな!?
「儂の!心の傷を!容赦なくえぐりおって!いくら子どもだからといって!言って良い事と悪い事があるんじゃぞ!!」
「はなせ!はなせぇええ!!くそっ!事実陳列罪とでも言うつもりか!?俺は本当の事を言っただけだ!!悪いのはぺちゃぱい寸胴エルフのお前だろ!!」
「あー!言った!ぺちゃぱい寸胴って言った!!もう泣いて謝るまで許さないから!!」
「止めろー!くそがあああ!!っ痛い!おい、お前の体に俺の体を押し付けるな!!お前のあばら骨がゴリゴリして俺の体が削れる!まじで痛いから!止めろ!!」
「!!それは、私の胸がないって事!?ふっざけるんじゃないわよ!!なんで叩いてるお尻よりそっちが痛いのよ!!むしろ体はぷにぷにしてるはずよ!!」
「まじで痛いから!抉り込んでるから!!折れる!俺のあばら骨が折れるぅ!!」
「まな板どころか抉れてるですってぇぇえええ!?」
「いや、まじやめっ、ぎゃあああああああああああああああああ!!!」
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