第36話 ノリ◎
「と、突然にゃにを言ってるの…じゃ?」
(いきなり急にどうしたの!?)
「あなたにとっては突然かもしれませんが、僕にとってはそうではありません!あなたを一目見たその時から、僕はあなたに決めていました!!」
(ここまで大物だとは思っていなかったが、まあ結果オーライだろ。こんな都合の良い奴、逃がすわけにはいかんな!)
「一目見た時から!?」
(そんな素ぶり今まで見せて無かったじゃない!どうして急に?)
「はい!実は書庫であなたに会った時から思っていたんです。この人しかいないと!お父さまと深い関係だと思った時は諦めるしかないと思っていたんですが…そうではないんですよね?」
(父親の情婦なら俺に協力なんてしてくれないだろうから諦めてたが、そうじゃないなら問題ないし、いけるいける!)
「当たり前じゃ。あれはそもそもお主のとんでもない勘違いじゃ」
(そういう事。それにしても…こんな子どもまで本気にさせてしまうなんて。魅力がありすぎるというのも罪なものね)
「でしたら何も問題はありませんよね?」
(こいつ子どもに甘いっぽいし、とにかく押して一度頷かせればこっちのもんよ)
「いやいや、問題は色々あるじゃろ、例えばそう、年齢とか…」
(私を見て恋をしてしまうのは仕方のない事だけれど、流石に子どもは対象外よ。とはいえこっぴどく振ってトラウマになったら可哀想だし…)
「年齢なんて問題になりません。僕は本気です!!」
(修行なんて早けりゃ早い方が良いだろ)
「む…なんじゃ、そんなに儂が良いのか?」
(子供の本気なんて風見鶏みたいにコロッと変わるものだし…でもこんなに熱意のある子は初めて見るわね。マセてるのかしら?)
「勿論です!あなた以外考えられません!!あなた以外では駄目なんです!!」
(この期を逃したら、次が何時になるか…こいつより都合の良い存在なんていないだろうし、絶対に逃さん!)
「そう言われてものう…」
(困ったわね…否定したらその分私に入れ込んじゃいそうだし、どうしようかしら)
「僕の何がいけないんでしょうか?年齢は確かにまだ幼いですが、それは時間が解決してくれる問題です。それと傲慢と分かった上で言わせてもらいますが、僕以上にあなたに相応しい存在はいないと思うんです!」
(そうホイホイ頷くほど恋愛スイーツ脳じゃねえか…仕方ない、あまりこの手は使いたくなかったが、アレスくんのアドバンテージを全面的に押し出して強制契約させる方向でいくしかねえな。別に風呂に沈める的な外道契約じゃないんだ。むしろ俺もお前もwinwinの関係になれるんだから問題ない!)
「まず最初に、僕、アレス・イストネルは現イストネル侯爵であるシグナス・イストネルの嫡子、つまり次期当主としての立場が確定しています」
「お主、双子じゃよな?いくら祝福の儀の結果があるとはいえ、いや、だからこそ後継者を軽々に決める程シグナスは阿呆ではないはずじゃが」
(エタニアルとしてはその判断は助かるけど、それは流石に早すぎでしょう。アレスの立場があやふやだからこそ得られる利権や利益を放棄するなんて、勇者の意思に関係なく立場を押し付けるなんて、そこまでシグナスは馬鹿じゃなかったはずだけど)
「そこは問題ありません!兄であるカティスが、王城で行われた祝福の儀で、王様と貴族連中相手に盛大に花火を打ち上げたので、僕が次のイストネル侯爵となるのは確定事項です!」
「お主一体何やっとるんじゃ!?」
(いやほんと何やってるの!?)
「僕ではないです。兄のカティスがやった事です。無能無才と見下していた奴ら相手に罵詈雑言を浴びせただけなので、人死になんかも出てませんしね。王様と貴族連中が兄に頭を下げて話は丸く収まりましたし、あなたが心配するような事は何もありません。安心してください」
「いやいやいや…そういう問題じゃないじゃろ。儂がいない間に何があったんじゃ…」
(ええ…もしかしなくても、あの時見た夢ってこれの事?つまり本来ならあの場に居た子たちみんな死んでたって事?それをこの子がやる筈だったと?確かにこの歳で既に魔法も使えるみたいだけど、それでも流石に…)
「まあそういう訳で、王様と貴族連中に盛大に喧嘩を売った挙句、頭を下げさせた兄が侯爵になれるはずもなし。その場で僕が次期侯爵だと宣言もしていましたし、お父さまも流石にどうしようも出来ないでしょう。まあそんな事はどうでも良いんです。つまり僕は将来的にエタニアルの侯爵という重責を担う立場になるわけです」
「儂としては王城であった件を詳しく教えて欲しいんじゃが」
(シグナスはいつまで気絶してるのかしら…あの程度の魔圧でだらしのない。後で詳しく話を聞かせて貰わないと)
「そして次に、これが最大の理由ですが、僕の祝福である極光王輝。これは勇者レイ様と同じものであり、これまで与えられた者もいなかった。そうですよね?」
「そうじゃな。儂も長く生きておるが、お主が現れるまで同じ祝福を持った者がいたのを見た事はないの」
(祝福の儀というシステムがある以上、そこに嘘は付けないからね。仮に何らかのトラブルで見落としがあったとしても、才能が開花しなければそれはないのと同じ事だわ。そもそもそれを避ける為のシステムなわけだし)
「であるならば、僕という存在がどれだけ希少で有用なのかはエリン様も分かるはずです。勇者レイ様の側で共に歩んで来たあなたならば。それを腐らせる愚かさも」
「それは分かっておる、じゃがのう…」
(この子…私を脅すつもり?本当に5歳?絶対違うでしょ。勇者を盾に自分の欲求を押し通そうとするなんて…くっ、私は脅しには屈しないわよ!)
「ここで断られたら…僕はやる気が無くなってしまうかもしれません。それこそ傷心のあまり勇者の責務を放棄して、家に引き籠ってしまうかもしれませんね」
「むぅ…」
(困ったわね…この子の言い分を子どもの戯言と聞き流して、万が一があったら困るし。子ども相手に権力使うのも気が引けるし…そもそも権力が通用するのかしら?)
「そんなに困らせるような事を言ってるつもりはないんですが。エリン様は難しく考えすぎでは?こういうのは何事も相性ですし、まずはお試しに軽く付き合うくらいの気持ちで良いと思うんですけど」
「お試しに軽く付き合うじゃと!?…なりふり構わず語っておきながら、お主の気持ちはそんな程度なのか?」
(軽く付き合う!?私をそんな尻軽女と思って貰ったら困るんですけど!)
「僕たち、相性はとっても良いと思うんですよね。それにこれって凄く運命的ですよね?勇者レイ様と最初に会ったエリン様が、勇者の再来であるアレス・イストネルと運命の再会をし、共に歩む。全米が泣くレベルの感動巨編だと思いませんか?」
「確かに…運命的ではあるの」
(全米が何かはともかく、確かに運命的ではあるわね)
「勿論僕の気持ちが軽いなんて思って貰っては困ります。ミスリルの様に軽いどころかアダマンタイトより重いですよ。当然、責任は取ります!本気でエリン様…いや、あえてエリンと呼ばせてください。エリン、あなたの事を望んでいます!!」
「うう…じゃが…しかしのぅ…儂にも世間体というものが…」
(国益を考えれば断るのは…でも流石に年齢が…歳を取っていけば気持ちが変わるかもだし、現に今までの子たちもそうだったし、それを前提に…変わったら変わったで凄く癪ね…そもそも5歳児と付き合ってるって外聞的にどうなの?そこまで節操ないのかなんて思われたくないし…)
「そんなものは結果で黙らせれば良いだけの話です。そもそもこれは僕とエリンの問題です。有象無象の言う事など気にする必要はないと思います」
「せめて10年後でどうじゃ?それまでお主の気持ちが変わらんのなら、儂もお主の気持ちを真摯に受け止め、真剣に考えると約束しよう」
(人の生で10年、それも多感な子どもの10年は大人とは比べ物にならないくらい貴重なものだし、それでなお他の女に心を動かされないのなら、私としても吝かではないわ。そもそもイストネルに足を運んだ目的は、アレスと同じくらいきみにも興味があったからなわけだし。
むしろ世間じゃアレスよりも無能無才であるカティスの方が話題なのよね。魔力暴走から生き残った奇跡の子から一転、祝福を与えられなかった悲劇の子、神に拒絶された忌み子、無能無才、アレスに全部持っていかれた出涸らし、勇者のおまけ、色々散々に言われてるけど…百聞は一見に如かずとはこの事ね。
そもそも赤ちゃんが魔力暴走から助かるなんてありえないし、神霊石が壊れるなんてそれこそあってはならない事よ。奇跡や偶然の一言で片付けるのは簡単だけど、ありえない事が起こったのなら、それは偶然ではなくむしろ必然。少なくとも何らかの意思が介入してると思うべきよね。
なぜこのタイミングで極光王輝の祝福持ちが産まれたのか。なぜ双子なのか。なぜ片割れが祝福がないのか…そういえば、私が旅に出た切っ掛けも5年前…これは偶然で片付けていいのかしら?)
「10年!?そんなのいくら何でも遅すぎますよ!こういうのは早ければ早い方がいいに決まってます!待てても1日です!僕はもう我慢できないんです!!」
「むぅ…さっきから聞いておれば、お主の都合ばかりではないか!本当に儂の事を欲するなら、ちゃんと儂の都合も考えい!!」
(私にだって飲み込む時間と覚悟する時間が必要なのよ!衝動で動けるのは若者の特権よ!!)
「エリンの都合を考えたら、何時まで経っても話が進まないでしょう。あなたの気持ちを優先した結果どうなったか、鏡を見てもらえば一目瞭然です。千年ですよ、千年。千年あったにもかかわらず、優れた容姿と比類なき立場を有しているにも関わらず、あなたの隣に誰かいた事がありましたか?
それにこれはエリン、あなたにとっても悪い話ではないですよ。エリンが僕の傍にいるという事は、つまりエリンは僕の幼馴染枠といっても過言ではありません。僕と一緒にいるという事はつまり、自分好みに僕を教育する事が出来るという事です。例えば勇者レイ様は巨乳好きみたいですが、ならば僕を貧乳好きにすれば問題ないのでは?幼馴染には嗜好性癖すら誘導改竄できるだけの圧倒的アドバンテージがあるのです。ましてや身長はともかくあなたは酸いも甘いも嚙み分けた大人です。子ども一人手玉に取るのはお手のものでしょう」
「むむむむ……」
(私に釣り合う相手を探すのではなく…育てる!?その発想はなかったわね。これぞまさに悪魔の発想!この子は一体…もう中に大人が入ってると言われても驚かないわよ。確かに幼少期から私自ら監修するなら、私好みの男性に仕立てることは可能。それなら確かに早ければ早い方が良い。むしろ今からでは遅いまであるわ。でも致命的な遅れではない。今からでも十分に挽回できるはず…でも流石に即断するには勇気がいるわね…)
「ここまで言っても駄目ですか…それでは最後に。勇者の再来と呼ばれる存在以上にあなたと釣り合いが取れる存在がいると思いますか?この期を逃してそれ以上の出会いが今後もあると思いますか?こんなチャンスが次も来ると思いますか?勇者というあらゆる局面で使える切り札を、みすみす手放すおつもりですか?あの時こうしていれば良かったと、後悔しないでいられますか?」
「……仕方「絶対に後悔させません!さあ、決めて下さい今すぐに!!あなたが僕の、アレス・イストネルの師匠になる事を!!!」
「――――ふぇ?」
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