第27話 教えてもらうぞ!
予想だにしなかったエルフとの遭遇。まさか不審者がエルフとは誰が想像できようか。であれば俺の魔弾が全く通用しなかったのも頷けようもの。エルフと言えば魔法のエキスパートと相場が決まっている。そして目の前の不審者エルフはちっこいが婆口調なところからして、おそらく見た目通りの年齢ではないだろう。下手したら3桁後半いってるかもしれない。そんな相手に5歳児の我流なんちゃって魔法が通用するわけなかったか。牛さんは弾け飛んだんだけどな。レベルが違うという事か。
さて、ここからどうするべきか。ぶっちゃけこいつに勝てるビジョンが全く思い浮かばない。向こうは不愉快極まりないが上から目線で余裕かましてる上に襲ってくる様子はない。もしかしたら不審者ではない?誘拐犯ならさっさと攫って逃げてるだろうし。とはいえボロいローブをすっぽり纏ってる奴が怪しくないわけがない。いや、大物芸能人がサングラスとマスクをするのと同様、美人さんだから顔隠してたのか?たしかにこれだけ綺麗な子が素顔晒してたら、ナンパ野郎から誘拐犯まで有象無象が雲霞の如く寄ってきて鬱陶しいかもしれない。俺も尻尾と獣耳が付いてたら一発KOされていた自信がある。
仮に不審者でないとしたら、なんでこいつはここに居るのか。親は客が来るような事は一言も言ってなかった。俺に言う必要がなかったと判断したとしても、エルフ、それもボロいローブを纏った奴を一人で屋敷の中を自由に歩き回らせたりはしないだろうし。うーむ、こいつが一体どんな奴なのかさっぱり分からんな。
「ごしゅさま、いっぱい本をもってきました」
「カティス様、シュリちゃんがはりきって沢山本を持ってくれたんですよ。誉めてあげて下さい」
なんてこった…不審者エルフを前にふむむと悩んでいる間に、マルシェラと朱璃ちゃんが戻ってきてしまった。不審者エルフの視線がマルシェラとシュリを興味深げに捕える。
「銀狐と、珍しいの、赤毛の狼人か。ちっこい方がなんでここにいるかは分からんが、銀狐の方は…もしかしてマルシェラか?」
まさかの不審者エルフからマルシェラの名前が飛び出した。え、知り合いなの?というか朱璃ちゃん狼なの!?犬じゃないの!?まじかよ、俺は犬だと思ってたよ。まあ狼も犬も似たようなもんだから良いか。
「?はい、私はマルシェラですけど。どちら様でしょうか?見た所エルフさんの様ですけど、もしかして会った事がありますか?」
「覚えておらんのも無理はない。銀狐が産まれたから見て欲しいとドルキナに乞われてな、お主が赤子の時に一度見に行っただけじゃからな」
「族長さんが…そうなんですか」
「なんでここにおるんじゃ?言ってはなんじゃが、お主が村から離れるのはあまり褒められたものではないぞ?」
「それは…尻尾がビビッと来まして…その…運命の人を…探しに…」
マルシェラが俺の方をチラチラ見ながらごにょごにょ何か言う。尻尾がビビッと?静電気かな?俺がもふもふする時は、流石に静電気は勘弁して欲しいんだが。一度バチッと来ると次触る時警戒しちゃうんだよね。その後何を言ったかきこえなかったけど、尻尾がひゅんひゅん左右に動いて荒ぶっている。獣人は感情が昂った時に獣耳や尻尾に現れてしまうのだ。つまり俺達と一緒にいる時の朱璃ちゃんの尻尾が常にひゅんひゅんしてるのは犬だからだったわけだな。一方不審者エルフは俺とマルシェラの顔を交互に見て、したり顔で頷く。こいつ何様のつもりだよ。耳が尖がってるからその分小さい声も拾えるのだろうか。
「なるほどの…それで、もうもふもふはしてもらったのか?見た所まだ一尾じゃろ。ただでさえ銀狐は選り好みが激しいからな。相手が見つかったならもふもふは早くしてもらうに越した事はないぞ」
「それは!…そうなんですけどぉ!タイミングが中々…本当ならもふもふしてもらっているはずだったんですけど、色々あってそれ所じゃなかったんですぅ!!」
なんてこった…マルシェラももふもふされるのを待っていたとは!聞いてしまった以上、これ以上先延ばしにするのは男が廃るぜ!ここは男として俺がリードしなくてはな!やはり今日だ!今日こそがもふもふ記念日だ!!それにしてもこの不審者エルフ、俺がもふもふしやすい様に会話でもふもふ誘導するとはやるじゃねえか!ナイスアシスト!今からお前は不審者からお客様に格上げだぜ!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マルシェラとお客様エルフの話の最中、ずっと本を持っていた朱璃ちゃんの腕がぷるぷる震えて本がぐらぐらし出したので慌てて受け取って机の上に置く。立派に仕事を果たしたと、尻尾が荒ぶりむふんとする朱璃ちゃんによくやったと頭を撫でて褒める。ふさふさ狼耳に手が当たるけどこれは不可抗力だからな。頭を撫でたら獣耳に当たるのは仕方のない事なのだ。さて、お客様エルフの邪魔が入ったが当初の目的を果たすとしよう。
「ところで、そんなに本を持ってきてどうするんじゃ?それは絵本じゃないぞ」
なんて失敬な。読む為に持ってきたに決まってんだろうが。無視しても良いがこいつはお客様だからな。もふもふのお礼としてちゃんと対応してやろう。
「当然、読むんですよ。読まない本をわざわざ持って来させたりしないでしょう」
「読むってお主…読めるのか?」
「読めない本をわざわざ持ってこさせる意味があるとでも?」
お客様エルフがいぶかし気に俺を見るがもう無視だ無視。とりあえずマルシェラにも手伝ってもらってそれっぽい描写がある個所を探そう。朱璃ちゃんは…読めないだろうからお座りしていてもらおうか。
「マルシェラもそれっぽい箇所探して貰っていいかな?朱璃はまだ読めないだろうから持ってきた本が片付くまで座って待ってて」
「分かりました。シュリちゃんはここに座りましょうね」
「はい、マルねえさま」
マルシェラの座った膝の上にちょこんと収まる朱璃ちゃん。うーん、ほっこりするな。ダブル獣耳…良いな!いずれはダブル尻尾でダブルもふもふを…夢が広がるぜ!
「何を調べるんじゃ?儂も暇じゃから手伝ってやるぞ」
暇ならどっか行けよ。
「ふむ、人魔大戦、それに火魔法関連か。お主、人魔大戦に興味があるのか?」
うるせえな。お客様といえど部外者が横から口出ししてくるんじゃねえよ。
「人魔大戦というより、ベオウルフさんについて調べてるんです」
マルシェラもわざわざ教えなくて良いから。
「ウォルフを?なんでよりによってあいつに興味なんぞ…いや、そうか、そういうことか」
ウォルフ?疾〇ウォルフかな?名前も恰好良いのに略称まで恰好良いとかふざけてるのか?男獣人の分際で許せねえよ。お客様エルフは朱璃ちゃんを見て勝手に納得してふむふむ頷いている。
「そこのちっこい狼獣人の娘、まさか血炎魔法を使えるのか?」
どこかしらほわんとした空気が消え失せ、真剣な眼差しのお客様エルフが朱璃ちゃんを見つめる。一方朱璃ちゃんはマルシェラに抱っこ座りされて対面にいる俺をじっと見ているのでお客様エルフの反応は眼中になかった。しかしケツエン魔法だと?血縁…血炎か?なんだその浪漫溢れてそうな魔法は!俺も使いたいんだが!?
「血炎魔法ですか?なんですかそれ。詳しくお願いします!」
「なんじゃ急に食いついてきおって。そんなに知りたいなら教えてやろう。血炎魔法とはウォルフだけが使えた火魔法じゃ。儂らが使える火魔法と大きく違うのは己の血を燃やす所じゃな」
自分の血を燃やすだと!?なんだそれ、めっちゃ恰好良いんだが!?そしてそれを朱璃ちゃんが使えるだと?…ああそうか、そういう事か。朱璃ちゃんの祝福の儀の時に父親がナイフで切りかかったのはそれを確認する為か。そして血炎魔法が発動してしまったと…つまり朱璃ちゃんは種族も見た目も能力もベオウルフと一緒って事で追放されたわけか。ベオウルフが生まれ変った的な?おいおい、そこまで忌避されるとか一体何をしたんだよ。
「確かに朱璃からそれらしいことは聞いています。それが原因で朱璃は今ここにいるわけですし」
「そうか…ウォルフの事を調べようとしているのは、シュリと言ったな。このちっこい娘の為か?」
「そうですね。ベオウルフの事を知らなければ、朱璃がとばっちりで今後も酷い目に遭いかねないので」
「そうか…」
はぁ…と深いため息を吐き、目を瞑るお客様エルフ。しかし改めてじっくり見ると滅茶苦茶美人さんだな。マルシェラよりもこいつに先に会ってたら違う人生を送る事になっていたかもしれないくらいには美人さんだ。こいつに獣耳ともふもふ尻尾が生えてればなぁ。惜しい、実に惜しい。ロイヤル獣っ娘はこんな感じなんだろうか?返す返すも王城で会えなかった事が悔やまれる!おのれ国王、許すまじ…!!
「…よし、ここで会ったのも星の巡りじゃ。ウォルフがなぜ獣人達に忌避されておるのか教えてやろう」
「いえ、結構です」
いきなり会った不審者に教えを乞うのは流石に…いい加減誰か呼んだ方が良いんじゃないだろうか。いつ何時こいつが暴れ出さないとも限らないし。
「言っておくが、ここでどれだけ調べたところで無駄じゃぞ。それこそ王城にある禁書庫にでも行かん限りはな」
「私もベオウルフさんの事は、勇者様と一緒に戦った獣人だという事くらいしか知りませんね」
「ウォルフはムンディア大陸の獣人にとっては今なお忌まわしい存在じゃ。シュリがウォルフと同じ見た目と言うだけで迫害されるほどにはの。故に余計な揉め事が起きんように、獣人達を刺激せんように、ムンディア大陸以外ではウォルフの事はぼかして伝えられておる」
つまり臭い物に蓋ってことか。大陸レベルで情報統制しなきゃ駄目とか一体何やったんだよ…俄然興味が沸いてきたぜ。いずれもふもふ獣っ娘を求めて獣人の本拠地、ムンディア大陸に行く事もあるだろうしな。朱璃ちゃんも迫害した奴らに復讐したくなるかもしれないし、ベオウルフのやった事について知っておくのは重要だ。何をやらかしていようとも、江戸の仇を長崎で討つような行為が許されるわけないのだが。
「そうですか…では教えて貰っていいでしょうか。ベオウルフさんのやらかした事と血炎魔法について」
調べればすぐわかるような事を隠す意味はないだろうから、本当に載ってないんだろうな。つまりそれは、こいつがある事ない事言ったとしても事実証明が出来ないという事であり、なんでお前がそんな事知ってんだよという疑問にも繋がるわけだが。
まさかこんな
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます