第26話 調べ物をするぞ!

 とりあえず人魔大戦について書いてある本を探す事にする。歴史書とかがあればベストなんだが、なければそれ関連の物語で調べるしかないな。後は一応火魔法関連が載ってる本も見るだけ見とくか。詳細が載ってなくてもある程度の方向性は掴めるはずだし無駄骨にはならないだろう。とはいえ俺は5歳児、当然本棚に手が届く範囲は限られるから探すのはもっぱらマルシェラだ。


「マルシェラ、人魔大戦の事が書いてある本があれば持ってきて。後は火魔法関連の本もお願い」


「分かりました」


「ごしゅさま、わたしはなにをすればいいですか」


「朱璃はマルシェラの後をついていって。マルシェラが選んだ本を机の上に置いて欲しい」


「それじゃシュリちゃん、行きますよ」


「はい、マル姉さま」


 歩く二人の後ろ姿はこうしてみると親子みたいだな。狐と犬だけど。それに二人の尻尾がゆらゆら揺れている光景を見ていると、もふもふ欲がはちきれんばかりに沸いてくる。そういや帰ったらもふもふする約束してたのに一向にもふもふ出来てないんだよな…あわや糞ガキにもふられそうになったしこのままでは非常に不味い気がする。朱璃ちゃんがいるせいでうやむやになってる気がするし、このままだといつまで経ってももふれそうにない。


 よし、今日だ。今日もふろう。先延ばしにしても良い事なんてないからな。朱璃ちゃんに癒しが必要だったように俺にも癒しが必要なんだよ!!今日こそマルシェラの尻尾をもふもふしながら抱き枕にして寝るんだ!!やってやる!やってやるぞ!!

今日俺は大人の階段を上るんだ!!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 三大欲求の一つであるもふもふ欲を満たさんと決意した俺だが、とりあえず当初の目的通り本を探す事にした。とはいえ5歳児の届く範囲なんぞたかがしれている。ここは子ども向けの書庫ではない為、最下段しか探せない。そこまで広いわけでもないし、これはマルシェラが探して持ってきてくれるのを大人しく待った方が良いのではないだろうか?そう思った時だった。


「幼子がこんな場所でなにをしておるんじゃ?ここにはお主が楽しめるような絵本など置いてないぞ」


 声の聞こえた方を向くと、俺よりは大きいが、それでも十分子どもの範疇に入りそうな背丈の人物がいた。安っぽそうな緑色のローブですっぽりと全身を覆っているその姿はまさに不審者そのものである。よくもまあそんな身なりで腐っても侯爵家に入り込めたもんだなと感心してしまう。いやまじでどうやって入って来たんだ?警備どうなってんの?一応ここ侯爵様が住んでる屋敷だから門番とかいるはずなんだが…


 まじで侵入者か?とすれば狙いはアレスか?でも今昼間だぞ…両親もいるし、仮に誘拐するにも殺すにも侵入するなら夜中だと思うんだが。真昼間に不法侵入してくるとは、それだけ自分に自信があるって事か?ふむ…仮にこの家に真っ当な用があって来たのなら、ローブですっぽり全身を隠したりしないだろう。そもそもそんな恰好で他人の家に来るのは常識がなさすぎる。姿を隠しているのはやましい事があるからと見て間違いない。俺に声を掛けたのはアレスと間違えたか?この家に居る男の子どもは俺かアレスだけだからな、つい最近まではだが。


 気安い感じで声を掛けて、警戒心が薄れた瞬間に拉致するつもりなのかもしれない。ふん、たかが5歳児と侮ったな?無邪気な子どもなら話しかければほいほい知らない人にも付いていくかもしれないが、こちとら見た目は子ども、中身は大人よ。丁度いい。王都で試せなかった魔弾の実験をこいつでしてやる。悪人に人権はない。犯罪者には何をやっても大丈夫!とっ捕まえて背後関係洗いざらい吐かせてやる!!


「どうした?5歳なら言葉くらいは喋れるじゃろう?儂を警戒しておるのか?安心せい、儂は怪しい者ではないぞ?」


 怪しい奴はみんなそう言うんだ。そもそも顔隠してる時点で充分怪しいんだよ!

こいつはきっと暗殺者か誘拐犯だ。犯罪者は何をされても文句は言えまい。死ね!

拘束の魔弾、蒼の流星!!


「なんじゃ?ほう…お主、もう魔法が使えるのか?この感じ、エアプレッシャーかの。その歳で中級魔法が使えるとは、流石は極光王輝じゃのう」


 ちっ…全く効果がないっぽいな。不発なのか防がれたのか初めて人に使うから全く分からねえ。そしてやはりこいつの狙いはアレスか。一応双子だし直接見た事ないなら勘違いするのも無理はないかもしれないが。効果が確認できてる魔弾だと下手したら殺しかねないんだが…四の五の言ってられんな。アレスが誘拐されて取り返せなかったら最悪だし、なにより俺は今夜もふもふすると決めた以上、誘拐なんてされてやらん!衝撃の魔弾、翠の流星!!


「ほう!今度はエアバーストか?お主は風魔法が好きなのか?じゃが極光王輝で一つの属性に拘るのは勿体ないぞ」


 なんだと…単発とはいえ城の扉と雑魚騎士吹っ飛ばした魔弾が全く効いてねえ…なんでこいつ微動だにしねえんだよ。城の雑魚騎士は油断してたから吹き飛んだってことか?でもあいつら鎧着てたし、100キロくらいはあると思うんだが。くそが…所詮は5歳児の使う魔法ってことか?内心イキってた俺が馬鹿みたいじゃねえか。


 これはもう、隠れてコソ練してる場合じゃねえな。実戦に勝る修行はなし、モンスターぶっ殺してレベル上げだ!…とはいえ、それもここを乗り切れたらの話になるが。とりあえずこいつが余裕かまして油断してる今がチャンスだろう。やれるだけやるしかねえ!衝撃の魔弾、翠の流星雨!!


「お、なんじゃ?またエアバーストか。お主、もしかして風魔法しか使えんのか?誰がお主に魔法を教えた?全く、物事には順序という物があるじゃろ」 


 くそがああああ!全く効果がねえんだが!?ふざけんじゃねえ!!俺の今までの努力が意味なかったとでも?これじゃ神殺しも狂会殲滅も夢物語、狂人の戯言扱いじゃねえか。さすがにモブ誘拐犯程度に通用しないとか流石に認められねえぞ!絶対に!一泡吹かせてやる!!お前は今ここで死ねぇええ!!不可視の魔弾!白の彗星!!こいつは牛が弾けたお試しレベルじゃねえからな!あの世で後悔しやがれ!!



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 今までと違い俺の放った本気の魔弾は確かに目の前にいる不審者に届いた。顔を隠していたフードがふわりと捲れる。本気出してこの程度。本来なら俺の魔弾が全く効果がないという現実に心が折れそうになる所だが、フードが捲れた不審者の顔を見た俺はそれどころではなかった。


 そこから現れたのは艶やかな緑色の髪と深く澄んだ緑色の瞳。うるうるとした唇は緩やかな弧を描いている。どこか神聖ささえ感じるそれは、見る者全てを捕えて離さないだろう完成された芸術。そして何より俺の目を奪ったのは、髪の毛から左右に飛び出した自己主張の激しい長い耳。え…エ…エルフだあああああ!!!

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