第17話 その怒りの向く先は

「父上」


 陰険糞野郎と会話している所にカットインする。俺という存在を餌にしてこの陰険糞野郎をフルボッコするのだ。俺が一人で両親の所に来たのを見て取り、陰険糞野郎がにやりと笑みを浮かべる。アレスがいない今が好機と捉えたのだろう。


「シグナス。そういえばまだ君の子どもを紹介して貰っていなかったね。良ければ紹介してくれないか?」


 こいつらと入場前に会った時、俺は完全に無視してたからな。こいつの目に俺はどう映ったのだろうか?礼儀を知らないガキなのか、何も言い返せない臆病なガキなのか。


「カティス、どうしてここに?子どもは向こうに集まっているはずだが」


 この場で陰険糞野郎に関わらせるのは不味いと判断したのだろう、父親が子どもの集まりに戻る様に遠回しに言ってくる。が、


「シグナス、子ども相手にそう邪険にする必要はないだろう。それよりもその子がカティスくんかい?あの」


 周りに聞こえる様、あの、を強調する陰険糞野郎。よしよし、良い感じだ。周りの糞貴族どももこちらを見はしないが耳をそばだてているに違いない。ヒャッハー!楽しくなって来たぜぇええ!!


「そうなのですが、すいません父上。どうにもこの会場でドブ臭い匂いがするものですから、どこからするのか探していたらここに来てしまったのです」


「そんな匂いはしないが。シアはどうだ?」


「私もしないわ。カティスの勘違いではないかしら。風邪でも引いたのかしら?」  


「いえ、僕の勘違いではないようです。異臭の発生源はここからです。ほら、父上の横に立っているそこの男性から匂いますので」


 俺が指さした先にいるのは当然、陰険糞野郎である。


「はは、何を言いだすかと思えば、シグナス、君の息子はどうやら相当変わっているようだ。どこの世界に国王が主催する王子と王女の誕生会にドブ臭い匂いを身に纏って出席する貴族がいるんだい?可哀想に。どうやら無能無才は嗅覚にも影響を及ぼす様だね」


 はははと爽やかに笑う陰険糞野郎。それに伴って周りからもクスクスと忍び笑いが漏れる。顔を険しくする両親だが、


「そうですね。嗅覚は鋭い方だと思います。特に性根の腐った匂いには鋭敏なのですよ。無力な子どもを人前で馬鹿にしたり、それを聞いて内心笑っているような心の汚れた下賤な存在が放つ匂いは特に目立ちますので。特にこの辺りは酷いですね。よくもまあこんな空気の中で平気で息が出来るものです。ここにお集りの皆さんは、日頃から肥溜めの中で生活しているんですか?」


 俺は鼻を摘まんであっちにいけと手を振りながら臭い臭いとアピールする。効果は抜群だ!!陰険糞野郎はぴしりと固まり、クスクス笑っていた糞貴族共からも笑みが消える。


「あれ?どうしたんですか、皆さん急に黙りこくって。ああ、確かに貴族ともあろう者がドブ臭い匂いなど漂わせるはずがありませんよね。であるならば、なんで貴族ではない方達がこんなに大勢この会場にいるのでしょう?この国は乞食や浮浪者達を自国の王子王女の前に、あまつさえ国王のいる場に招き入れるのですか?」


 静まりかえった会場に響くのは子どもたちと俺の声のみ。とはいえ様子がおかしいのを察したのだろう。王子と王女が黙りこちらを窺うと、それに倣って子どもたちも黙り、今この場で声を発しているのは俺のみとなる。


「どうしたんですか?誰か答えてくれてもいいんじゃないですか?この国の騎士は、身元不明の不審者たちを、王子と王女の誕生会という場に、王の御前に平気で通すのですか?何とも見上げた忠誠心ですね。この国は貴族の皮を被った乞食と、騎士の鎧を着た浮浪者の巣窟ですか」


「カティス、幾らなんでも言いすぎだ。それ以上は…」


「ふふふ…いやはやシグナス。君の息子は随分と面白い事を言ってくれるじゃないか。カティスくん。もう一度いってくれないかい?君は、誰を、なんと言ったのか、この私に教えてくれないか?」


「父上の名前を、僕の名前を気安く呼ばないでくれますか?そもそもあなたは誰ですか?僕はあなたに一度も会った事はないのですが。王都には来たばかりで知り合いはいませんし…この漂う悪臭からして、乞食か浮浪者の方ですかね?でしたらいい機会ですし、料理を食べて行かれたらどうですか?ここにるのは乞食や浮浪者ばかりですから、羽目を外しても安心ですよ!なにせ、あなたと同じ乞食や浮浪者がこんなに大勢、子どもを連れて押しかけているのですから」


 ヒュッと誰かが息を飲む音が響く。


「…私の名前はウェスタング、カルロス・ウェスタング侯爵だ。カティス・イストネル。幾ら子供とは言え、自分が何を言っているのか理解しているのだろうな?いや、理解していなくとも関係ない。貴様の不敬、万死に値する」


「ウェスタング?ああ、あなたがあのウェスタングですか!母上に懸想した挙句、気付かれもせず、相手にもされず、母上の心を射止めた父上に何ひとつ敵わず嫉妬心だけは一人前。その上未だに母上に未練たらたらで、事ある毎にちょっかいをかけている恥知らずのウェスタング侯爵ですか!!」


 ヒクッと陰険屑野郎の頬が引き攣る。あれ、カマかけただけなのにマジなの?あらら…こりゃちょっと悪い事しちゃったかな?まいっか。どうせ叶わぬ恋なんだ、この機会に綺麗さっぱり忘れて新しい恋を探せば良いんじゃないかな!応援してるぜ!!


「はぁ、全く気色悪い人ですね。母上に懸想した挙句、相手にもされず、他の女性で性欲を発散して子どもを作っておいてなお、未練がましいにも程がある。ここまで恥知らずな行動をしてよくもまあ、堂々と名前を名乗れますね。ウェスタング領は恥という概念が存在しない蛮族の住む土地なんですか?領民全員、裸で生活してたりするんですかね?でしたらすいません。そんな未開の土人に入浴の概念なんてあるわけないですよね。文明人の常識を押し付けて申し訳ありませんでした。ここにお集りの皆さんに対しても、心より謝罪致します。綺麗好きな豚といっても所詮は豚です。清潔さの概念が人と違って当たり前ですものね!」


 ペコリと深くお辞儀する。角度は当然90度、豚に対して人の常識を説いてしまったが故の謝罪を籠めての最敬礼である。俺の誠意は必ずや伝わるに違いない。現に目の前に陰険糞野郎も感動でプルプル打ち震えている。


「どうしたんですか皆さん。ほら、ブヒブヒ鳴いて騒ぎましょうよ。今日は目出度い豚小屋の主の子どもの誕生会、失礼、王子と王女の誕生会ですよ?そんな暗い顔をしては出荷されてしまいますよ?」


 なんだこいつら、さっきまで俺見てクスクス笑ってたじゃねえか。陽気に笑えよ。なんで黙ってんだよ。しかしこの場にいる豚共はほんとチョロいな。子どもの頃から煽てられて木に登り続けてきたせいか、自身を否定される事、下に見られることに全然慣れてねえ。煽り耐性なさすぎんよ。父親と母親も誰だこいつはみたいな顔してドン引きしてるし。まあどうでも良いが。


 異世界に勝手に転生させられてなぁ!今まで良い子ちゃんでやってきたんだ、いい加減こっちもフラストレーション溜まってんだよ!!ロイヤル獣っ娘はいねえしよ!堪忍袋の緒はとっくに切れてんだよ!!文句があるならかかって来いやぁぁああ!!

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