第24話 その瞳に映る者

 けもこちゃんがレイプ目で淡々と生い立ちを語る。成程確かに、物心ついた頃から迫害された上に捨てられたら、そりゃレイプ目がデフォにもなるだろう。それにしても昔裏切って同族殺しまくった奴と見た目が一緒だからって迫害するとは流石異世界クオリティだぜ。それだけ獣人の同族意識が強いって事なのかもしれんが。


 アレスも昔の勇者と同じ祝福だからって勇者の再来だのなんだの持て囃されてるからなぁ。おとぎ話や昔話が絵空事で済まないってのも考えもんだな。これも神や魔法なんてものが実在する弊害か。前世でもそんなものが信じられてた頃は、祟りだの呪いだの魔女狩りだのがのさばってたわけだからな。


アレスが勇者勇者と五月蠅いから少し調べた事があるが、その同族殺しの獣人が生きてたのって勇者がいたずっと昔だろ?人と亜人陣営、獣人と魔族陣営で争った人魔大戦。獣人の裏切者って事はつまり人側についたって事で、つまり勝者側についたにも関わらず今も裏切者扱いされて忌避されてるって事は、下手すりゃ人魔大戦当時から生きてる奴がいるかもしれないな。そんな老害が大手を振ってれば、昔話がおとぎ話として風化する事はないだろう。爺や婆はいつまでも根に持つからな。


 マルシェラがけもこちゃんに悪感情を持ってない事から、獣人の本能に根差したものではなく、おそらく獣人の本拠地であるムンディア大陸の風習的なものか?もふもふパラダイスの大本命がそんな土人大陸とはちょっと想定外なんだが?ムンディア大陸で理想のもふもふ探しをするならば、けもこちゃんを連れて行けないという事か?よしんばけもこちゃん抜きでムンディア大陸でもふもふを見つけ出したとしても、けもこちゃんを見たら喧嘩になるという事か?


 なんてこった…けもこちゃんはマルシェラに懐いてるように見える。そりゃそうだろう。同じ獣人で自分に初めて優しくしてくれたであろう存在だ。マルシェラもけもこちゃんを可愛がってるように見える。そりゃそうだろう。俺がお世話してくれって頼んだわけだし、けもこちゃんの境遇を知ったら優しくしないわけがない。


 つまりけもこちゃんを従者に選んだ時点で、俺のムンディア大陸でのもふもふ探しは始まる前から終了している事になる。ふ…ふざけるな…ふざけるなよ!!こんな事になるなんて分かる訳ねえだろ!分かってたらけもこちゃんを従者になんて…いや、選んでただろうな。だって希少なレイプ目ロリ獣っ娘だもん。しかも貴重な天然ものだぜ?

選ばない選択肢などあるわけがない。

 

 …まあいいか。まだ見ぬ獣っ娘より目の前の獣っ娘。もふもふハーレムを目指してはいるが、見境なく集めたいわけではないのだ。量より質である。つまりけもこちゃんがオンリーワンなもふもふ獣っ娘になればなんら問題ないのだ。今はみすぼらしいが、マルシェラプロデュースの劇的ビフォーアフターを期待しよう。


 さて、そんなけもこちゃんになんと声を掛けるべきか…状況からしてかなりの人間不信になってるだろう。5歳詐欺の俺と違って聡明さも窺える。そもそもけもこちゃんは一応俺の従者枠だからな…いずれ俺のもふもふハーレム作りを手伝ってもらう股肱の臣となるべき存在。そもそもけもこちゃんからしたら、今の俺は金にものをいわせてけもこちゃんを買ったいけすかないガキ。立ち位置はけもこちゃんを捨てた奴らと大差ないだろう。そんな奴からの同情や慰めなど果たして効果があるだろうか?


 下手に取り繕うよりも、本音で接した方が良いだろうな。なーに、好感度は既に下限。下がり切ってる以上、後は上がるだけのイージーミッションだぜ!!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  


「君がこれまで大変な目に遭ってきた事は良く分かった。誰も信じられないのも当然だろうし、死んでしまいたくなるのも当たり前かもしれない。だけど敢えて言わせてもらうよ。ありがとうと」


「…ありがとう?わたしがひどいめに遭ったのが…おとうさんとおかあさんに捨てられたのがそんなに嬉しいの?」


「誤解を恐れずに言わせてもらえば、そうだ。君のその眼が、君のその毛並みが、君のその祝福が、どれか一つでも欠けていれば、俺は君と出会う事はなかっただろう。だからこそ、俺は全てに感謝しよう。君を嫌った獣人達に、君を捨てた両親に、今ばかりは君を引き取った狂会に対して、万感の思いを籠めてありがとうを言わせてもらうよ」


「わたしは…!わたしはこんな目も、毛並みも大っ嫌い!神さまに一生懸命お願いしたのに、神さまは私を助けてくれなかった!!」


「そうか。俺は君の全てが大好きだけどね。でもまあ…神に対する気持ちは君と同じかな。なんせ俺は無能無才、神から祝福を与えられなかった存在だ。君が両親から見捨てられたように、俺は神から見捨てられたわけだ」


「!!」


「そうだからというわけではないけれど、俺は君を決して見捨てないよ。世界か君かどちらかを選べと言われたら、君を選ぼう。君が両親に、獣人に、神に復讐したいというなら手伝おう。君の思い、君の全てを受け入れよう」


「わたしは…そんなこと、わたしはただ…みんなと一緒に…うぅ…」


「すぐに受け入れるのは無理だろうけどね。誰がなんと言おうと君の瞳は美しい。この世界にただ一つの、唯一無二の輝きだよ。毛並みも今はゴワゴワだけど、美味しい物を食べて、マルシェラに手入れして貰えばきっと素敵なもふもふになる。その瞳を隠す必要はないし、周りに怯える必要もない。周囲の目が気になるのなら、君は俺だけをその瞳に映していればいい。君を脅かすもの全てから、俺が絶対に守るとこの魂に誓おう」


「…わたしと会ったばかりなのに、なんでそこまで言ってくれるの?」


「それは当然、けもこちゃんにはそれだけの価値があるからだ。誰がなんと言おうと俺はけもこちゃんを見捨てないし、けもこちゃんがどれだけ嫌がっても絶対に離さない。今まではともかく、これからはけもこちゃんの居場所はずっと俺の隣だ」


「そうですよ!私もずっとけもこちゃんとずっと一緒にいますからね!」


「さあ、けもこちゃん。この手を取れ。これは契約だ。俺とマルシェラと、これからずっと一緒にいる誓約だ」


「わたしは…けもこじゃない」


「え?そうなの?」


「そうですよ?今の名前に良い思い出がないらしくて、とりあえずけもこちゃんと呼んでただけです」


「ええ…」


「カティス様につけてもらいましょうねって、けもこちゃんとお話ししてたんです」


「ずっと一緒にいてくれるなら、わたしに名前…つけてほしい」


「まじか…」


 うーむ…名前、名前か。どうせなら可愛い名前がいいな。別に奇をてらう必要もないか。 


「そうだな…朱璃、君の名前は今日から朱璃だ」 


「シュリ…わたしの名前」


「シュリちゃんですか。可愛い名前です!これからよろしくお願いしますねシュリちゃん!」


「今この時より朱璃、君を俺の従者とする。これからよろしく頼むぞ」


 よし!これでとりあえず朱璃ちゃんに関しては解決だな。後は本日のメインイベント、マルシェラの尻尾をもふもふだ!!…あれ?なんかめっちゃ眠くなってきたんだが…まじか…旅の疲れ…か?…この大事な…時に…



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「おはようございます、ごしゅさま。マル姉様は大丈夫って言ってたけど、急に寝ちゃうから心配しました」


 …んん?誰だこの子。こんな可愛い獣っ娘、家にいたかな?


「…誰?」


「!!…ひ、ひどい…ずっと一緒にいてくれるって言ったのに…」


 紅い瞳にうるうると涙を浮かべる紅毛のロリ獣っ娘。?え?おい…冗談だよな?嘘だと言ってくれ!


「ん?え?まさか朱璃?」


 こくんと頷くロリ獣っ娘。なん…だと…!?全くの別人じゃねえか!!あんなにガリガリだったのにぷにぷにしてるんだが!?色褪せてゴワゴワしてた毛並みも紅色でもふもふしてるんだが!?そして何より眼がレイプ目じゃなくなってるんだが!?なんてこった…どうしてこうなった…あの店主…詐欺野郎がぁぁああ!天然レイプ目って言ってたじゃねえか!!めっちゃキラキラしてるんだが!?ぐぬぬぬぬ…貴重な天然レイプ目ロリ獣っ娘が…


「ごしゅさま、わたし変ですか?マル姉様はわたしのこの姿を見たら喜んでくれるって言ってくれたけど、あるじ様が嫌だっていうなら、がんばって前みたいな姿になります」


 しょんぼりされると罪悪感で死ねるんだが…それにしても気の持ちよう一つでここまで変わるとは恐れ入った。レイプ目など所詮はオプションということか…今の朱璃ちゃんの方が断然可愛いからヨシ!まったく、もふもふ道は奥が深いぜ!

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