第22話 その瞳に映るもの・1

 カティス様が王都に行ってしまいました。当分の間はお別れなので尻尾もシュンとしてしまいます。私も一緒についていければよかったのですが、遊びに行かれるわけではないので我慢です。聞いた話では獣人にとって王都はイストネル程治安は良くないそうですし。帝国やウェスタング領程ではないそうですが。尻尾狩りとかあるそうですし、とても怖いと思います。カティス様がイストネル領に居られて本当に良かったです。


 でもカティス様はいずれ世界に羽ばたくでしょうから、その時は帝国だろうがどこだろうが私も一緒についていくつもりです!それに帰って来られたら、ついに尻尾をもふもふしてもらえるのです!それを考えただけで尻尾もシャキンとしてきます!カティス様にがっかりされないように、尻尾の手入れも今まで以上にしっかりしないといけませんね。


 

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 カティス様からお手紙が届きました。従者に獣人の女の子を選んだので、帰るまで面倒を見ていて欲しいとの事でした。従者は同性同族を選ぶものだと聞いて居ましたが、まさか獣人の女の子を選ぶとはビックリです。一体どんな子なんでしょうか。カティス様の従者になるのでしたら、これからずっとそばにいる事になるでしょうから仲良くなれると良いのですが。


 はっ!?もしやカティス様はその子を既にもふもふしてしまったのでは!?そしてもふもふ具合が気に入って従者に選んだのかもしれません!何という事でしょう。私が迷っていたばかりに先を越されてしまいました!従者に選んでしまうくらい素敵な毛並みの女の子なんでしょうか?もしや私は用済みなのでは…一抹の不安が過ぎり、尻尾がしょんぼりしてしまいます。


 …いえ、まだそうと決まったわけではありません。これでも私はルナサージュ様にお仕えする銀月の巫女、立派な巫女になる為に毛並みの手入れには全力で取り組んでいます。ペットショップの動物達も、私に撫でられるとふにゃんと気持ちよさそうにしていましたし、なにより自身で培ってきた手入れの技術。私だって捨てたものではないはずです。


 それにカティス様の従者ということは、まだ5歳の女の子という事です。獣人にとって毛並みの良さはステータスです。小さな頃からしっかり手入れすれば素敵なもふもふになるはずです。毛並みの手入れは私に任せて下さい!一緒に素敵なもふもふになればカティス様も大喜び間違いなしです!



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 カティス様の従者になる女の子に初めて会った時、私は目を疑ってしまいました。

まさか…そんな…なんでそんなにガリガリに!?それに尻尾も毛並みもゴワゴワで色褪せています。一体何があればこんなに無残な状態になってしまうのでしょうか。この子のお父さんやお母さんは一体何をしていたのでしょう。小さな子どもをこんな状態でほったらかして…


 この子を連れてきた騎士のジョンさんが言うには、自分からろくに食べようとしないらしく、無理やり食べさせても吐いてしまうとの事です。こんな小さいのにきっと大変な目に遭ってきたに違いありません。きっとカティス様はこんな状態の娘を放っておけなくて、自分の従者とする事で救おうとしたのではないでしょうか?そしてこの娘が少しでも安心するように、先にお家に帰して同じ獣人の私に面倒を見るように

言われたのかもしれません。


 であるならば、私がやる事はカティス様が戻ってくるまでの間、この娘を少しでも

元気にする事でしょう。今までどれだけ辛かったのかは分かりませんが、これからはきっと大丈夫ですよ。毛並みがションボリしているから気持ちもションボリしてしまうのです。今はゴワゴワで色褪せていますが、私が毎日手入れをすればきっと立派なもふもふにしてみせます!私は呼びかけても反応しない狼人の娘の手を引いて、屋敷の中に戻りました。

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