第Ⅳ話 出来た弟
「マルシェラから報告があった。今日もカティスが書庫で魔法に関する本を見ようとしたらしい」
「そう…困ったものね。書庫から魔法関連の書物は全部移動させるべきかしら?」
「シア、見せるくらいなら問題ないのではないか?カティスはまだ4歳だ。内容が分かるとは思えん」
「駄目よ。あの子は私たちが思ってる以上に賢いわ。そうでなければ魔導書を隠れて読もうなんて思わない。見せた結果、万が一魔法を使えたらどうするの?あの子が次に魔力暴走を起こしたら取り返しのつかない事になるかもしれないのでしょう?」
「とはいえ、何時までも禁止するという事は不可能だ。君が言った通りカティスは賢い。今はまだ幼いから大人しくしているだろうが、成長すれば隠し通す事など出来なくなる」
「分かっているわ…せめて5歳、いえ、7歳まではどうにかしてあの子が魔法に触れる事を防ぐべきよ。そこが私にとって譲れるラインよ」
「7歳…王立学園に入学する歳か。貴族の家に生まれた以上、入学する義務が存在する。余程重篤な病でも患っていない限りはだが」
「魔力暴走から奇跡的に生還したとはいえ、その影響は未知数よ。それで免除というわけにはいかないの?」
「魔法が使えず、武術すらままならない。もしそうであれば免除される可能性はあるだろう。貴族籍の剥奪を条件としてだが」
「構わないわ。貴族であろうとなかろうと、あの子は私たちの子ですもの」
「とはいえ、兵士たちの訓練の見学すら禁止と言うのは流石にやりすぎだろう」
「何が原因で魔力暴走が起こるか分からないもの。慎重である事に越した事はないわ」
「幸い、マルシェラは最近カティスから魔力の揺らぎの様なものが感じ取れなくなったらしいが。魔核が安定したのかそれとも消えてしまったのか。調べるにしても前例がないからな」
「どちらでも構わないわ。魔法さえ関わらなければカティスは元気な普通の子どもよ。このまま何事もなく成長してくれればそれだけで十分だわ」
「メルクル殿からはぜひ経過を診させて欲しいと言われているのだがな」
「駄目よ。いくら魔力障害に関する権威といえど、我が子を実験動物の様に見世物にするなんてありえないわ。断って頂戴」
「そう言うと思ったよ。幸い今は安定しているようだからね。とはいえ状況が悪化あすればそうも言ってられないが」
「カティスには悪いけれど、5歳までは今のままでいてもらうわ。祝福の儀は…受けないわけにはいかないわよね」
「この国に住む全ての国民の義務だからね。貴族だろうと孤児だろうと関係ない。全ての5歳になった子が対象だ。受けさせないという事は国家に対する裏切りと取られても仕方なくなる」
「分かっているわよ…」
「少なくともカティスの魔核がどうなっているかは分かるだろう。良い結果が出ればカティスの望む通り魔法に関する制限を撤廃出来る」
「あの子には不自由を強いて悪いとは思ってるわ。だけど…」
「カティスもきっと分かってくれる。今は刺激しない為に黙っているしかないが、時期が来ればば打ち明けて一緒に許しを乞えばいいさ」
「そうね…アレスにも悪いとは思っているわ。カティスの事もあって満足に構ってあげる事も出来なくて」
「あの子も十分に聡く、そして優しい子だ。詳しく説明していないにも関わらず、兄さまが良くなるまで側にいてあげて下さいと言われたよ」
「私たちにはもったいない子ね」
「セバスも言っていた。アレスは将来イストネルを担うに足る当主になるだろうと。魔法の才に関しては祝福の儀まで分からないが、剣術の才に関しては目を見張るものがある。祝福の儀の結果次第では私達を越えるかもしれんな」
「王国最強と謳われる、屠竜の爪シグナスを?」
「そのシグナスをだ」
「ふふ。それは嬉しい話ね。アレスと会ったら褒めてあげなくちゃ」
「そうだな。アレスも大切な私たちの子どもだ。年齢以上に聡明とはいえ我慢している部分もあるだろう。なるべく私も時間を作ってアレスに接する様心掛けよう」
「そうね。祝福の儀がどんな結果でも良い。二人が無事に大きくなってくれたらそれだけで十分だわ」
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