第4話 ありきたりな弟

 さて、突然だが俺には双子の弟がいる。名前はアレス。俺とは似ても似つかない出来た弟だ。なんせ将来はこのイストネル侯爵家を背負って立つ存在だからな。優秀かどうかは知らないが、とりあえず優秀という事で頑張ってもらいたい。どれだけお前が愚物だろうと、俺はそれ未満の愚物を演じる覚悟は既にできているから安心して欲しい。弟が愚物で困るのは両親であり、未来のイストネル領民であって俺ではない。

安心してスクスクと好き勝手に育って欲しい。


 そう思っていた時期が俺にもありました。マルシェラに気付かれずに魔力循環出来るなってから1年。俺も既に4歳。いい加減一人で行動させて欲しい年頃なわけだがトイレ以外で一人になれない。というか俺が目茶苦茶ゴネた結果、トイレは一人にしてくれた。トイレのすぐ前で待ってるけどな。俺はトイレしてる姿を誰かに見られて興奮するような特殊性癖持ってねえから。


 何処に行くにもマルシェラが一緒。食事の時もお散歩の時も寝る時も、お風呂の時も一緒である。お風呂の時なんて最初はめっちゃドキドキしたけど最早慣れた。まあ言うて俺は子どもだしな。性欲よりも食欲と睡眠欲よ。マルシェラからしても男女以前の問題なんだろうな。というか俺は裸を見るよりも尻尾をモフモフしたいんだが…なぜさせてくれないのか。裸見られたり一緒に寝たりするよりも尻尾を触らせる方がダメとか意味が分かんねぇぜ。他の獣人もそうなんだろうか。嫌だぞ俺は。獣人の国に行ったら男女問わず裸で暮らしてるなんて展開は。


 一人になれないから魔力を使う練習が出来ない。トイレに籠ろうにも必要以上に時間が経ったら乱入してくるからそれも無理。もういい加減魔法の一つも使えるような気がするんだが、四六時中人の目があるから試そうにも試せない。魔力暴走詐欺事件のせいで、なんか俺が魔法に興味示す事自体がご法度みたいな空気が家中に蔓延してるんだよな。魔法の事を聞くだけで使用人なんか目を逸らして口を噤むし、親に聞いたらそれだけで母親なんて泣くからな。本で知識を得ようにも、その手の本に興味を示すそばからマルシェラに取り上げられる。お陰で俺の読める本は絵本位だぞ糞ったれ。


 仕方ないから剣術でも練習すっかとそっちに興味示しても、まだ早いとまともに取り合って貰えない。兵士や騎士っぽい人達の訓練風景すら覗けないからこの世界のレベルがどんなものか分からない。そもそも自分の実力が分からない。今までやって来た事が合っているのか間違っているのか、方向の修正すら出来ない。俺がやれる事はただひたすらこの世界に存在する魔力と同一化する事だけ。どうすりゃ良いって言うんだ。


 マルシェラに察知されずに魔力循環する方法。そう、俺は根本的に思い違いをしていた。魔力を循環する事も、枯渇させることも必要ない。滾々と湧き出る泉の様に、絶え間なく降り注ぐ太陽の光の様に、蛇口をひねれば出続ける水道の様に、常に器が満たされ続けていれば、魔力を循環する必要も増やす努力も必要ないのだ。そしてそう、世界には魔力が満ち満ちているではないか。多分だけど。俺一人が好き放題魔力を使っても枯渇なんてせんやろ。俺は自身の魔力を貯める器を広げるだけで良い。


 広げるまで1年掛かったわ。魔力が枯渇したら神が死ぬなら、枯渇するまで器広げて、魔力が切れるまで魔法使いまくってやるから覚悟しとけよ。


 このままだと俺は出奔するまで魔法が使えないのではないか?流石にこの年齢で一人立ちするのは無理がある。せめて10歳、いや7歳か。前世で言う所の小学1年生、一人で町中を歩いていても「お?坊主、初めてのお使いか?立派だな!」で市井の人達を誤魔化せる程度の年齢までは待つ必要がある。別に波風立てたいわけじゃないからな俺は。何にも囚われずに好き勝手やりたいだけなんだ。


 なのに俺は四六時中監視され、弟は好き勝手している始末。俺と弟、一体どこで差がついたのか。解せぬ。

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