第2話 ありきたりな成長

 いやあ。異世界転生って最高だな!!やっぱ異世界しか勝たん。もし死んで生まれ変るとしたらまた俺はこの世界に…いや、転生なんてもうしたくねえわ。次も転生ガチャ成功するか分からないし。そもそもなんで転生したのかすら分かんねえし。死んだらもう後腐れなく終わりでいいや。これより上の転生先なんて、それこそ前世の文明レベル以上の男女比逆転あべこべ世界くらいしか思いつかないし。というかハーレム作ればこっちの世界でも似たようなもんだし、やっぱ終わりでいいな。


 というわけで転生してからあっという間に3年が経過した。赤ちゃんだからやれる事なんて限られている。ベッドの上で出来る事なんて、思考実験と魔力鍛錬くらいしかない。そう、魔力鍛錬。この世界には魔力、すなわち魔法があったのだ!いるか知らないけど神様ありがとう!でも死ね!!


 体の中のもやもやしたものは寄生虫ではなく魔力だった。魔力じゃなかったら俺の人生終了してたね。この3年間は、ひたすらこのもやもやをどうにかする事に費やしてきた。なんせ俺は赤ちゃん。誰かに聞くことも出来ない。幸い出来た弟がいるので成長過程は真似すればいいから問題ない。いきなり喋ったり歩いて忌み子扱いされるのは勘弁だからな。この歳でほっぽり出されたら流石にどうしようもない。無害な幼子に擬態するのだ。そんなわけでまずはこの魔力を動かす所から始めたわけだが、1年掛かりました。


 ぶっちゃけ気が狂いそうだったぜ。結果だけは分かっているけど、出来るかどうか分からない事を、やり方を知らずに出来ると思ってやり続ける事の精神的苦痛と虚無さは中々味わえないと思う。例えるなら将来タイムマシーンが存在するとだけ未来人に言われて、設計図もなく、素材も分からない状態でタイムマシーンを作ってねと言われるようなものだろうか。


 やれる事が全くない赤ちゃん時代だからこそ出来た業なのは間違いない。お陰で俺の将来の夢は俺を転生させた存在、おそらく神様なんてふざけた存在がいるに違いない、そいつをぶっ殺す事になりました。まじ覚えてろよ。


 モヤモヤが動かせるようになったら次にする事は?そう、モヤモヤを増やす事である。モヤモヤ、即ち魔力を増やすのにする事は?そう、皆大好き魔力枯渇の時間である。魔力枯渇、すなわち魔法を使って魔力を空にする事。魔法の使い方なんて知るわけねえだろ!!


 やれる事が全くない赤ちゃん時代だからこそ出来た業なのは間違いない。とりあえず魔力を枯渇する方法が思いつかないので、モヤモヤをひたすら動かす事から始める事にした。そう、皆大好き魔力循環の時間である。量も大事だが質も大事。むしろ質の方が大事だと俺は考える。俺は火玉を千発撃つよりも火の鳥を一発使いたいんだ。理想は火の鳥千発だけどな。血管を通って血液が体内をくまなく巡り続けるように、とりあえず全身くまなく魔力を巡らすにはこのイメージが一番良いだろうと思ってやり続けた。魔力を動かしてるんだからきっと消費もされてるだろうと期待して。どんな効果があるか不明なままにやり続けるうちに次第に慣れてくる。魔力の動きは徐々に滑らかに、全身くまなく絶え間なく巡り続ける様になり―――血相変えた親に医者を呼ばれました。


 どうやらね。俺の体温が死んでもおかしくないくらい異常に高くなってたらしいですね。どうせばれんだろと誰がいようがお構いなく魔力循環をやり続け、最早寝てる間も余裕で循環できるくらいの魔力循環マスターになったある日、寝たままの俺を抱っこしたメイドさんが異常に気付いて、悲鳴上げて親を呼んだらしいんですよね。


 お医者様の言う事には、魔力暴走の前兆らしいです。魔力を循環させてるだけなのに何を大袈裟な…なんて思ってたら、親は悲痛な顔してるし、俺の面倒見てたメイドさんは、私が気付かなかったせいでなんて言って泣き崩れてるし、医者は残念ですがここまで深刻化している以上、最早助かりませんなんて物騒な事を言い始めた挙句、なんか俺を殺すなんて物騒な事言い始めたんだが!?


 おいおい流石にこれはやばいんじゃないのと仕方なく魔力循環を止めたら徐々に熱が下がってきたらしく、魔力暴走が収まるなんて奇跡だ!!なんて大騒ぎされたんだが俺は何も悪くない。そもそも暴走なんてしてないからね!悪いのは全部適当な事を言ってる藪医者だよ。

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