第26話 魔法?

 ウゲロタイプは体長10m、体高は角のように伸びた目を入れて5mほどある。

その身体は粘液に覆われていて、その粘液には溶解能力があり、岩をも溶かしてしまう。

胴体から持ち上げられた頭部分の真下には口があり、地面を削るように何でも捕食する悪食だった。


 エルフの隊長が叫ぶ。


「こいつが里に向かったら甚大な被害が出る。

ここで迎撃する。

ウゲロタイプは剣が通らない。

魔法で攻撃するしかない」


 だが、それは不可能だった。


「隊長、星の巡りが悪い陰週のため、魔法は使えません!」


 開眼の儀が行われるのは星が最高の位置に来る日だった。

星の巡りとは、その前後一週間ずつの星の巡りが良い陽週と、その他の二週間の陰週のことを指す。

トレントの騎士の魔法は星の巡りにより、使えたり使えなかったりするのだ。


「仕方がない。

魔道具の使用を許可する」


 それは筒状の魔道具だった。

魔法が使えない陰週でも魔法を使うための装置だ。

隊長がその使用を制限しているのには訳がある。

それは、壊れたら修理も出来ない古代技術ロストテクノロジーの産物であり、その使用には高価な魔法石が必要だったからだ。


 魔道具は知る人が見ればバズーカ砲のような形だった。

長い筒に銃のような握りがあり、そこには人差し指で操作する引き金があった。

明らかに兵器だと見えるものだった。


 エルフの駆るトレントの騎士がウゲロタイプに向けて筒を右肩に掲げて構える。

そして隊長の「発射」という命令により、一斉に引き金が引かれた。


 筒の先が光り、ウゲロタイプの周囲に火球が出現する。

それが一定の大きさになると、ウゲロタイプを襲った。


ジュッ


 ウゲロタイプの身体を覆う粘液が焼けて蒸発する。

だが、ウゲロタイプの体内にまではダメージが入っていない。


「魔道具がもうもちません!」


 どうやら、ウゲロタイプを焼く前に、魔道具に限界が来たようだ。


「魔法石の魔力が切れました!」


 エルフたちの悲痛な叫びは、もうエルフには攻撃する手段が無いということだった。


ドーーン


 ウゲロタイプの体当たりで、エルフのトレントの騎士がセインの目の前に跳ね飛ばされて来た。

セインは己の無力を嘆いていた。

この危機に身動きが取れなかったのだ。

だが、魔道具を使えば戦える、そう思って落ちている魔道具をツヴァイに拾わせ発射した。


『オプション兵器の起動を確認。

衛星ネットワークスターリンク接続。

中継衛星接続確認。

接続レベル良好。

認識番号AAA02によるコマンド受諾。

ターゲット捕捉不可。

エネルギー伝送システム起動不可。

予備衛星起動。

代替案を申請。

受諾。

レーザーシステム起動。

オプション兵器の効果に限定。

ターゲット捕捉。

発射。

ターゲットの消滅を確認。

要請の完了を認む。

衛星ネットワークスターリンク断』


 天から光の矢が降って来た。

それはセインの目の前でウゲロタイプの頭を貫き、胴体へと移動していった。

そして、ウゲロタイプを焼き尽くすと光が消えた。

その効果は筒の魔道具の本来の・・・威力と同等だった。

本来の筒の魔道具は、その本体にエネルギー伝送を受け、熱線を発射する武器だった。

それがエネルギー伝送を受けられないために、本来の力を発揮できていなかったのだ。

エルフの場合は権限が無いため、そしてセインの場合は衛星が故障しているためが理由だった。

だが、それをセインもエルフも知らない。


「代替案って?」


 筒の魔道具が火球を発生させるのではなく、天から光が降って来たのは見て判った。

だが、魔道具を使おうとして、そのような結果となったことが理解出来ていなかった。

セインは転生前の記憶があるとはいえ、その人格そのものではない。

有用な記憶を持ってはいるが、それを全て理解するだけの知識は持ち合わせていなかった。


「天の槍!」


 エルフの隊長が興奮して叫ぶ。

それはトレントの騎士の伝説の力だったのだ。

聖星教の赤い線が鎧に入ったトレントの騎士が使った殲滅魔法と同じものだ。

それを規模を小さく、必要最小限のパワーでもってツヴァイは使用したのだった。


◇◇◇◇◆


SIDE:聖星教三騎士


「また星が奪われた。

だが、見つけたぞ」


「どこですか?」


「ここから東に行った湖の向こう側だ」


 赤い線の騎士は、自らを守護する星の権限が奪われたことを重視し、そのログをモニターするように命じていた。

それにより、その使用者の座標が判明したのだ。

AR画面に地図が現れ光点が灯る。


「エルフの森だ!」

また・・エルフか!」


「エルフとは不可侵条約が結ばれているはず」

「どうするのですか? 奪えば問題になりますよ?」


 それはこの三騎士が探し続けていたものが、エルフの手にあることを意味していた。

そして、それを手に居れようとすれば、エルフとの条約を反故にすることになる。

だが、そうなっても仕方がないと判断するほどに、ロストナンバーは重要な存在だった。


「全てを奪い、証拠も残さず焼いてしまえば誰の仕業かわからない」


 赤い線の騎士が悪い顔をして言う。


「「全ては聖星教のために!」」


 こうして聖星教の三騎士は、エルフの里へとトレントの騎士を進めた。

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【改】樹騎戦記-トレントの騎士- ロボット(ゴーレム)よりも生体兵器(トレント)の方が強いって……それに星の力って何? 北京犬(英) @pekipeki0329

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