第18話 捜索しているものは?

SIDE:村長


 あれだけの大爆発の後でも、村長の家は残っていた。

村の中心よりも北側に建っていたからだ。

それは単なる偶然に過ぎなかった。


 村長の家の前までトレントの騎士が進むと、操者たちが降りて来た。

その姿も騎士。

それを遠巻きに恐獣から逃げて来た村民たちが見つめていた。


 操者たちが、それらを無視して村長の家の敷地に入っていく。

そして、一人の操者が村長の家の入口で振り返ると仁王立ちになった。

まるで、村民から守るかのように。


「あ、ありがとうございます?」


 突然のトレントの騎士の操者たちの訪問に村長は恐獣討伐のお礼を言うしかなかった。

腹の底では村の半分が消し飛んだことに頭を抱え、その原因を作ったであろうトレントの騎士の操者を恨みたい気持ちがあった。

だが、礼を述べなければならない、村長はそんなジレンマを感じていた。

それが語尾の疑問形に現れていた。


「礼などは良い。

恐獣は世界の敵、それを葬るのは義務である」


 村長の気持ちを知ってか知らずか、はたまた無駄な会話は不要ということか、操者が突っぱねた。

戸惑う村長。

そこに操者が畳みかける。


「この村にトレントの騎士は無いか?」


「はい?」


 その質問が呑み込めずに村長が訊き返す。

しかし、それが否定だと察した操者がさらに訊ねる。


「ならば、古く根付いているトレントの木は無いか?」


 それは、活動を停止して大地に根付いたトレントの騎士を意味していた。

そのようなトレントの木が、村の守護者のように存在していることが多々ある。

なぜならば、トレントの実を齎す存在を独占しようと、そこの周囲に村が出来るという構図があったからだ。


 村長は、そのトレントの木には心当たりがあった。

村長がいま村長足り得るのは、そのトレントの木を所有しているからだ。

村長一族はトレントの木を独占し、村人へトレントの実を分け与えることで権力と財力を維持していたのだ。


「あるにはあるのですが、古いというわけではありません」


 この場合の古いという意味合いは、100年以上前という感覚だった。

この村の歴史はそこまで古くはない。

せいぜい村長の三代前ぐらいが始まりだった。

ちなみに、この世界の結婚出産年齢は低い。

三代前といっても村長の子供――五代目含めて70年は経っていない。


「見せろ」


 それは有無を言わせぬ命令だった。

その背後には村を半分消し飛ばす強大な力を持ったトレントの騎士がある。

村長は要求に応じざるを得なかった。


 村長は村人から秘匿されたトレントの木に操者二人を案内した。

そのトレントの木を奪われるのではないかと危惧しながら。


「違うな」

「ああ、違う」


 操者たちがガッカリした声を上げたことに村長は内心安堵した。

トレントの木が操者たちの求めるものではないならば、奪われることもないと理解したからだ。


「この村で成人の儀は行われたか?」


 成人の儀とは、子供の額に付けたトレントの種を剥がす儀式のことだ。

その種が剥がれることでトレントを使役することが可能となり、成人と見做されるのだ。


「はい、先月に終えました」


 なぜ、そのようなことを訊かれるのか、村長は戸惑いながらも答えた。


「その時、種が剝がれなかった者がいたか?」


「!」


 村長には心当たりがあった。

村外れの猟師の家、その子供が儀式に失敗し、追放したばかりだったからだ。


「はい、りました」


 それに何の関係があるのか?

村長はそう疑問に思いながらも答えた。


「なんと、その者は何処に?」


「追放してしまいました」


 村長は、とんでもないしくじりをしたのだと理解した。



SIDE:??? 操者の騎士


 村長を問い質したが、目的のトレントの騎士は発見できなかった。

村長が大事そうに隠し持っていたトレントの木も新しく、大した力も無かった。

だが、そんな木の実から操者となる資質の者が現れたという。

いや、おそらくだが、その子供は目的のトレントの騎士と接触している。

それが探知に赤い光点として現れていたのだろう。


「どうやら、目的の所在は近いぞ」


 そう確信し三騎のトレントの騎士は村を後にした。

ロストナンバー探しを継続するために。

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