第19話 開眼の儀再び

 セインは、エルフの里でトレントの騎士の操縦を日々習熟して行った。

恐獣が現れることもなく、魔物を討伐する程度で、特に事件は発生していなかった。

だが、日々トレントの騎士を動かす事と、エルフ秘伝の呪文等を教えてもらうことで、トレントの騎士の操者として成長していた。


 そんなある日。


「星の巡りが丁度良い。

開眼の儀を執り行おう」


 アンネリーゼの父親、このエルフの森の領主であるアロイジウスが開眼の儀を行うとセインに告げた。


「え? 開眼の儀って、1月1日以外にも出来るんですか?」


 セインが驚いたのは、村での常識が覆されたからだった。

成人するまでの、毎年たった1度の儀式の失敗により、セインは追放されてしまったのだ。

それが別の日でも出来るなど、予想もしていなかった。

セインのトレントの種は、勝手に落ちるものだと思っていたのだ。


「開眼の儀は、星の巡りにより行える。

それは年に13回巡って来る。

1月1日もそうだが、今日も特に良い日だ」


 この世界の暦は、1年364日、1カ月がだいたい30日で、1年は12カ月。

そのうち3月、6月、9月、12月が31日になる。

1週間は7日という、セインにとっては前世の記憶に微妙に近いものだった。


「星の巡りには周期性がある。

4週間――28日に1度、特別な日が来る。

エルフの暦では1カ月は28日、1年は13カ月となる。

この地では・・・・・、その月の初日、1日ついたちが開眼の儀に適した日となる」


 エルフの暦は、その星の巡りを重視したもののため、1年が13カ月になっているという。

セインは前世の知識で理解した。

惑星の周りを28日周期でその星が回っているのだと。

(惑星の静止軌道を基準に一周という感覚です。自転よりも若干早く回ってます)


「なぜ星の巡りが儀式にとって重要になるのですか?」


 セインはそれが不思議だった。

そして、それを知っていれば、村を追放されなかったかもしれないのだ。


「それは開眼の儀式が天の星から力を授かる儀式だからだ。

天の星が頭上に来るとき、その時が最も成功率が高くなる」


 村はいろいろ間違っていたのだとセインは気付いた。

儀式の日、追放のならわし、それは無知故の誤った慣習だったのだ。


「だから、成人になった後でも儀式は出来るのですね?」


 セインは15歳になった。

それが最後の機会チャンスだと言われていた。


「成人になると、儀式の成功率が落ちるのは間違いない。

だが、成人になる日というのが間違っている。

誕生日から15年目、それが本当の成人になる日だ」


 セインの村では全員が1月1日に年を取る。

その日にしか儀式が出来ないと思っているので、それで何も不自由はなかった。

だが、実際は、誕生日までの猶予があったのだ。

それまで、毎月機会チャンスがあったのに、村ではそれを知らなかったのだ。


「でも、僕の誕生日は、嘘なんです。

僕は拾われた子だから」


 セインの両親はそれを隠していた。

しかし、村では当たり前のように知られていて、わざわざそれをセインに教えるバカ者が存在した。

村長の息子であるガイルだ。

ガイルは自分の立場とセインの立場を比較して、いつもセインをばかにして来ていた。

それでセインは自分は拾われた子であると認識していたのだ。

セインは、両親に感謝していたため、両親の前ではあえて知らないふりをしていた。


「だからこそ、早めにやってしまおう」


 アロイジウスの言う事は尤もだった。

まだ落ちないかもしれないが、成人するまで毎月儀式をしてしまおうということだった。

こうして今日、セインの開眼の儀が執り行われることになった。



 開眼の儀は、やはり特別な社で行われるようだった。

その社は見る人が見ればピラミッドだと気付く。

だが、その知識を持っている者は、この世界では少ない。


 ピラミッドは、さほど大きくはなく、人一人が座れる空間がある程度のものだった。

セインはその中央の空間に座っていた。

額に種をくくりつけていた革紐は外している。

それでも種は落ちなかった。

セインとの同化が上手く行っている証拠だった。


「えーと、どうすれば?」


 セインは戸惑った。

村での儀式では杖を額の種に当てられた。

それが儀式開始の合図だった。


「そのまま力が欲しいと念じるのだ」


 アロイジウスに促されてセインが念じる。

するとピラミッドが光り出し、ピラミッドの頂点から天空へと一筋の光が昇った。


「あ、繋がった」


 それは不思議な感覚だった。

そしてセインの目の前に1枚の画面がAR表示された。

そこに文字が流れる。


衛星ネットワークスターリンク接続完了。

ナノマシン活性化。

認識番号AAA02確認。

生体情報登録完了。

プロテクト解放。

権限移譲完了。

全システム使用可能。

強化外装生育スイッチON。

ナノマシンカプセルパージ。

衛星ネットワークスターリンク断』


 セインはその画面に流れる文字列の意味が半分以上理解出来なかった。

だが、なんらかの力を手に入れたのだと前世の知識で理解した。


 そして、セインの額からトレントの種が落ちる。


「その種を直ぐに植えよう。

ツヴァイが再生するはずだ」


 その様子を見ていたアロイジウスは開眼の儀が成功したのだと確信した。

そして、そのトレントの種を植えるという。

元のツヴァイは鎧を外されて、地面に根を下ろした。

そのまま動かない古木となっていくだろう。


 そして、その代わりにこの種が成長し、新たなツヴァイとして再生するのだ。

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