第54話自身との対決

 我に返った瞬間目に映ったのは腕を押えながら玉座ごと、床に開いた穴から下へ落ちていく直巳の姿だった。


 サンダーで焼かれた口の中の痛みはすぐ消えたが、血の味は残ったままだ。俺はまた直巳に噛みついたのか?


「ちっ、まずいな」


 立ち上がり玉座のあった場所へ戻るとそこに穴は無く、硬い床に戻っていた。


「血を捧げた直巳はにえになったという事か・・」


 それは冒頭で俺が言うセリフだったな。


 このゲームのダンジョンは地下100階までのはずだ。100階のこの部屋に入口はあるが出口はない。101階に通じる扉はないのだ。


 もう一度部屋を回って壁をまさぐるが扉はやはりひとつしかない。仕方なく入口の扉から外に出ようとしたが、今度は扉が開かない。


 おまけにカウントダウンが始まった。【残り5分58秒】


 無数の羽音と共にコウモリの大群が襲って来た。俺はあっという間にコウモリに覆いつくされ大きな黒い塊と化してしまった。だが、氷のソードを出現させ、コウモリの壁を切り開く。トルネードを起こして凍ったコウモリごと周囲に撒き散らして退けた。


 玉座のある奥へ進む。3分が過ぎても扉が開くとは限らない。この先、自分を待つものと対峙しなければ・・。


 少し先にはネコ科の眷属が現れた。この流れはゲームと同じだが、この眷属は俺を敵と認識したらしく、俺に攻撃を仕掛けてくる。


 今度はコウモリのように簡単にはいかない。こいつらは素早い上に数も多い、2本のシミターから繰り出される斬撃に、体中が切り裂かれる。ただ、俺には有利な点がひとつある。


 空中に舞い上がった俺は上空から氷結魔法を次々とお見舞いする。眷属たちもシミターを投げつけてくるが容易にかわすことが出来た。


 眷属たちの後には当然と言うべきか予想通りと言うべきか・・ヴァンパイアキングが待ち受けていた。


「自分と戦うのか・・」




__________





「ああああああああああ~~~」


 キングの玉座に座ったまま、俺はぐんぐん下に落ちて行った。体感では随分落ちた気がしたが実際の所は分からない。ドカンと玉座が地面に落ちた衝撃で俺は前方へふっ飛ばされた。


 膝やら手やら、あちこち打った。うつ伏せから起き上がりながら振り返ると玉座はまた上に上昇して行っている。


「あ、荷物。ケラウノスは!?」


 上昇していく玉座に持っていかれたかと心配したが、俺の荷物とケラウノスは俺と同じように前方へ飛ばされていた。それを回収しながら周囲を見渡す。


「あれ・・まさか90階か」


 100階のボス討伐に失敗すると90階まで戻されてしまう。似たような原理で俺は90階に戻さ・・落ちたのか?


 でもまあゲームと違っていい事は、90階のボスはもういない事だな。早く91階に行って物資を補充して100階に向かおう。宏樹がどうなったか気になるしな。


 91階のコンビニで買い物をしていると宏樹が入って来た。


「やはりここに居たか」

「なんでここに居るんだ? 100階は?」


 俺が落ちた後の顛末を宏樹が話してくれた。カウントダウンが始まってコウモリと戦い、眷属と戦い、予想通りヴァンパイアキングが現れたらしい。


 だが相手は能力も見た目も自分と同じで戦力が拮抗して勝敗がつかず、あっという間に6分が過ぎ討伐失敗と判定されて90階に飛ばされたそうだ。


「100階にキング出たのかあ。ま、ソロで100階は無理があるよな。でも俺はアークメイジだから二人でならなんとか行けるんじゃないか」


「せいぜい活躍してくれよ」


 俺達はもう一度100階を目指した。98階以外はクリーチャーもいないし、ただ進むだけで良かったが98階はトラップ階だ。またあの面倒くさい部屋をひとつひとつこなしていかないといけない。


 運よく、前回より早く98階を脱出できて100階にやって来た。


「扉、開けるぞ」


 俺は頷いた。宏樹が先に入り後から俺も続く。が、中に入って2、3歩歩くと後ろから引っ張られるように俺は部屋から引きずり出され、目の前で扉が閉まった。


 慌てて扉を開こうとしたがびくともしない。様々な魔法を放ってもケラウノスで雷撃を落としてもダメだった。そうこうしてるうちに画面が現れ【GAME OVER】と表示された。


 俺達はまた90階に戻されてしまった。



「前回と同じだ。コウモリと眷属は問題ないが、キングを倒せん」

「なんで俺、中に入れないんだろ」


「考えるに‥あれが俺の魂なんじゃないだろうか」

「だから独りで戦って勝ち取れ、って?」


 この後も2回挑戦したがやはり2回とも俺は部屋から追い出され、宏樹ひとりでは6分で倒すことは出来なかった。仕方なく、大迫伸二を探す方向にシフトしたがこれもまた手掛かりが無く、俺たちは行き詰ってしまった。


 更にもう2回挑戦した後、91階のコンビニで俺たちはディアンにコンタクトを取った。


「あとさ、90階から100階まで移動に時間が掛かるんだよ。ディアンちゃん、何とかしてくれない?」

「乗り物でいいかな? ワープ機能とかは時間がなくてプログラム組めないから」


「いいよ、乗り物で」

「んじゃちょっと待ってて」


 ディアンの待ってて、は割とすぐだった。


「98階対策の方に時間がかかったから乗り物は簡単なのしか出来なかった。レジでレンタルチケット買ってね」


 言われた通りにレンタルチケットを買ったが、見てみると『レンタサイクルチケット』となっている。ええ~嫌な予感がするなぁ。


 コンビニの前に用意された『乗り物』は自転車だった。しかもママチャリ。しかも1台だけ。


 ジャンケンで負けた俺は前に乗り、宏樹は後ろに乗った。ヴァンパイアキングを後ろに乗っけてママチャリでダンジョンを疾走する俺。なんてシュールな絵面なんだよ!!


 ディアンはサイクルロードを整備しておいてくれたから、走りはスムーズだったが問題の98階にやってきてしまった。


 するとサイクルロードの案内矢印がいきなりポッと表示された。

 

「え、でもこれ壁だぞ・・」

「ディアンを信用してないのか。いいから壁にタイヤをつけてみろ」


 98階の扉の横にはコンクリートの壁が出来ていた。幅は3m以上はありそうだが、高さは計り知れなく、天辺が見えない。


 俺は自転車のハンドルをぐいっと持ち上げて前輪を壁にくっつけてみた。


「あれっ、くっついてる!」


 そのまま後輪も壁に沿わせた。結果、トリックアートみたいに自転車は垂直に壁に沿って自立している。


「よし、行くぞ」


 宏樹は当たり前に後ろに座ってスタンバイしている。でも宏樹を乗せてこの壁を自転車で登るなんて無理・・・・じゃなかった!


 平地を走るのと同じ労力で自転車はスイスイ壁を走って行く。ただ、それでもまだ頂上が見えてこない。どれくらい走っただろう、頂上は突然出現してそこからはまた平坦なサイクルロードに戻った。しばらくすると今度はなだらかな坂が続いて、その先にやっと99階の扉が見えてきた。


 99階を抜け100階の部屋に入ったが、やはり俺ははじき出された。90階に戻され、宏樹も間もなく戻って来た。


 91階のコンビニでまたレンタサイクルして100に辿り着く。何度繰り返しただろう。100階の扉の前には何台もの自転車が転がっていた。


「だめだ・・」

「直巳・・もう諦めるしかないようだ」


「いったん元の世界に戻って作戦を立て直すか?」

「いや、俺はここに残る」


「えっ」

「俺が向こうの世界で自我を失えばどんな事になるか分かるだろう? ここなら俺はまたヴァンパイアキングとして勇者たちを出迎えればいいだけだ」


「だけど‥それじゃあ宏樹はここに囚われ続けるってことじゃないか!?」

「そうだな。まさにここが俺のPrison監獄だな」


 そんな、そんな事って・・。宏樹はずっとゲームの中に囚われ続けるのか。ゆりかさんはどうなる? 絶対に宏樹の帰りを待ってるはずだ。


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