第52話サイクロプス
70階からはひと部屋に出てくるクリーチャーがかなり強くなって来る。多分、30階のボス位の強さだと思う。そういうのが複数で出てくるから当然今までの様に簡単には行かなかった。
「一部屋にかかる時間が長くなって来たな」
「さっきケルベロスが70階まで運んでくれて良かったよな。時間短縮になった」
「回復ポーションは足りそうか?」
「うん、まあ大丈夫だと思う。でも80階のボスを倒したら一旦70階のコンビニまで戻った方がいいかもな」
弓で後方から攻撃しているが、さすがに無傷ではいられなくなって来た。宏樹もMPとHP回復ポーションを結構使ってるみたいだ。
ボス部屋に入る前に宏樹はミートボール弁当を3つ平らげた。これは魔法攻撃力を上げる為だ。なにせ80階のボスは物理反射のサイクロプス。魔法攻撃しか効かない、やっかいなヤツだ。
80階の扉を開けるとそこはもう部屋とは呼べない代物だった。果てしなく広がるゴツゴツした岩だらけの荒れ地に、暗雲垂れ込める空には稲光が絶え間なくギザギザ模様を描いている。
ここの雑魚は、アルゲス、ステロペス、ブロンテスの3兄弟だが、たかが3体と侮るなかれ。奴らはサイクロプスと同じ巨人族なんだ。
奴らが歩くとケルベロスの時とは比べ物にならない程の振動が地面から伝わってくる。地面に転がる石がトランポリンの上で跳ねるみたいに地面の数センチ上で踊っている。
「来たな・・」
くそう、デカイな。ゲームの中で何度も倒して見慣れてるはずなのに、緊張感が半端ない。3兄弟は2階建てのアパートくらい、サイクロプスはさらに頭二つ分ほどデカイ。
俺は遠巻きに3兄弟に弓矢を浴びせるが、奴らは俺が宏樹より弱いのを見抜いて俺の方にばかり攻撃してくる。逃げ回るのに精いっぱいで、だんだん攻撃どころではなくなって来た。
宏樹の攻撃は効いているが、3兄弟は魔法攻撃に高い耐性がある。初めは氷結魔法で3兄弟を攻撃していた宏樹も時間がかかると見てアイスソードによる斬撃に切り替えた。
斬撃が功を奏してステロペスを倒した。だが今度は距離を置いていたサイクロプスも兄弟に混じって俺たちを襲って来た。
ブロンテスに浴びせた斬撃がすぐ後ろに立っていたサイクロプスにも当たって、攻撃が一部反射された。
宏樹の攻撃力が高いだけに少しの反射もきつい。俺と宏樹は吹っ飛ばされて、俺はデカイ岩に体を思い切り叩きつけられた。
宏樹も隙をつかれ、雷撃を浴びせられている。俺は体中の骨が折れたような痛みに動く事も出来ない。
「くっそ‥回復ポーションで回復しないと‥死んじまう」
インベントリをオープンしてHP回復ポーションを取り出したが、手に力が入らず瓶は地面に落ちて割れてしまった。
宏樹はアルゲスとブロンテスと渡り合っている。サイクロプスは俺が魔法を使えないのを分かっていて俺に向かって来た。俺が動けないのをいいことに、じりじりとゆっくり近づいて来る。
ナーガラージャの毒ブレスからも生還できたんだ、ここでやられてたまるか。何か、何か方法はないのか・・。
と、突然目の前にステータス画面が現れた。更に『レベル75になりました。転職しますか?』と、表示が出た。
『YES or NO』
何だこれ、訳わからん。でもこうなったらやってみるしかない。『YES』だ。
『一般人→アークメイジ』
一択なのかよ、でもそれが探していた方法の答えだ!
『アークメイジに転職しました。HPとMPが全回復します』
よし! 痛みが取れ、体が軽くなったぜ。ステータス画面はそのままだ、とりあえずステータスポイントを魔力に極振りする。ステータスは1回だけ振り直しが可能だから、後でやり直せばいい。
俺はすぐインベントリをオープンした。ありったけのMP回復ポーションを取り出す。
サイクロプスはもう目の前だ!
「ファイアーバースト」「アクアサイクロン」「トルネードファイア」「ウインドスマッシュ」
俺は次々に魔法を繰り出していく。アークメイジは本来ならメイジから転職する上位職業だ。高位魔法は何でも使える。
「サンダートルネード」「トルネードファイア」「ファイアーバースト」「ブリザードストーム」
MPが尽きそうになったらポーションをがぶ飲みする。魔法詠唱、ポーションがぶ飲み。魔法詠唱。
怒涛の魔法攻撃にサイクロプスのHPはごりごり削られて行く。とうとうサイクロプスの巨体が仰向けに倒れた。地震のような揺れと地響き、砂ぼこりが舞い上がる。
これでホッとしてる場合じゃない。宏樹はまだブロンテスと戦っている。すぐそちらへ向かい、走りながら詠唱する。「エアカッター」「エアカッター」「エアカッター」
これは風魔法だが、物理攻撃に分類される。魔法耐性が高いブロンテスでもこれはきついはずだ。
最後のとどめは宏樹のソードが物を言った。ブロンテスもその巨大な体躯を地面に打ち付け、やがて消えた。
「ふぁ~ここはやばかった・・」
「ところでお前はなんで魔法が使えるんだ?」
「その質問にはこのディアンちゃんがお答えしますにゃあ」
突然、バスガイドみたいな制服を着た獣人ディアンが現れた。
「これがディアンの秘策なのだ!」
「ディアンちゃんがなんとかする、って言ってたやつか?」
「そう! 本当はもっと早く直巳をゲームのキャラクターとしてプログラムにデータを書き加えるはずだったんだけどね」
ダンジョンに入ってから『レベルップしました』ってひっきりなしに出てたのは、俺をキャラクターとして認識させ、データを書き加えてる最中だったかららしい。
ところが俺の自宅で企業並みに何台も高性能パソコンを使用していたせいでブレーカーが落ちてしまい、電力を確保するために、家じゅうの不要なコンセントを抜きまくってて時間を食ってしまったそうなんだ。
「でもさすがはディアンちゃん、ちゃんとサイクロプス戦に間に合ったのにゃ!」
「自分で言うか‥」
「にゃんですと?!」
「い、いやいや。ほんとにディアンちゃんは素晴らしいね、って話さ。で、今のこのNPCディアンはオンラインなのか?」
「うん、ずっとオンラインにはしてられないけどね。何かあったらコンビニの店員ディアンに言ってにゃ」
「ご苦労だったな、ディアン。それで今リアル時間ではどれくらい経過してる?」
「今は土曜日の深夜1時」
「ディアンちゃん、ちゃんと寝てる? ずっと徹夜してないよね?」
「大丈夫、ちゃんと休んでるから。直巳は人の心配してないで落合さんの足を引っ張らない様にするにゃ」
相変わらず口が悪いんだから、ディアンちゃんは。
「まだ1日以上あるとはいえ、この先何があるか分からん。急いで70階のコンビニまで戻るぞ」
そこへディアンがスッと手を上げて得意そうに言った。
「出張コンビニサービスにゃ~ん」
くるっと、ディアンが1回転するとバスガイドの制服がコンビニの制服に変わった。そして目の前にインベントリのような画面が出現した。
「おお~、ネットショッピングみたいだ。ディアンちゃんって何でも出来るんだな!」
ポーション類は一通り買い足した。後は弓を売って杖を買った方がいいな。
「え~と、武器は‥」
「おい、サイクロプスが何かドロップしたようだぞ」
宏樹がごつごつした地面を指さしている。お! サイクロプスって何落とすんだっけなあ‥また大量ゴールドでもいいな。装備の修理費やなんやかやで結構使ったしな。武器も買い換えないとだし。
だが80ゴールドと一緒にドロップしたのは武器だった。
「これ変わった形してるな。なんだっけ
黄金色のそれはリレーに使うバトン位の長さで、左右に三又の短い鉾が付いている。詳細を見てみると魔法攻撃力が半端ない数字だ。コンビニで売ってる一番高い杖の5倍はある。魔法耐性も上がるし、魔力と知力も50%アップする。
「すげーな」俺はひょいっと天にかざしてみた。
ピシャッ、ドーーン、ガラガラガラーーッ
凄まじい雷鳴と共に雷が落ち、前方の巨大な岩が真っ二つになって砕けた。
「おわおわおわ‥なにこれ、すっごい」
「ケラウノスじゃないのか?」
宏樹は平然と聞いてくる。確かに詳細にケラウノスと明記されていた。ゼウスの武器だったやつか。この超レアな武器があれば、杖は買わなくていいな。
てな感じで、ディアンの出張コンビニサービスで持ち物を整えた俺たちは90階を目指す!
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