第45話改変されたプログラム

 モニターに映し出されたのは大迫伸二だった。薄暗い部屋の中で幾つものモニターやコンピューターに囲まれたデスクに座ってこちらを向いている。


「なかなかいいタイミングで来てくれたじゃないか」大迫伸二が口を開いた。「落合君の他にもお客様がいらしているようだね」


「これ、こっちが見えてるのか?」俺はモニター周辺を見てみたがカメラらしき物は見当たらない。

「そうらしいな」宏樹は怖い顔をしてモニターの中の大迫伸二を睨み付けている。


「『BD』のファイルを見つけたようだね。それを開いたら時間経過と共にこちらに繋がるようにしておいたんだよ。君が高田君にファイルが送られるようにしたのを真似させてもらったよ。ダウンロードしようとしたらしいが、さすがにそれは阻止させてもらおう」


「ゲームの中からクリーチャーが出てくるのはあんたの仕業なのか?」


 俺の質問には答えず、宏樹の方に視線を移しながら大迫伸二は言った。「彼はどれくらい知ってるのかね? 聞かれちゃまずい事もあるだろう?」


「彼は全て知ってますよ」

「ほう? それなら気にすることはないか。あれは私のした事ではないよ。まあ、全く関係がないとは言えないかもしれないが」


「じゃあ出てこない様にするにはどうしたらいいんだよ、あんたPrizonerの開発者だろう?」

「残念だが私はその方法を知らないね。知っていたとしても君たちに教える義理があるだろうか?」


「お父さん! そんな事言わないで落合さんたちを助けてあげて。それに・・彼の記憶を返してあげて!」

「全くお前は母親に似て・・お前とお前の母親を拾ってやったと言うのに恩知らずめ。それよりあいつが正気で居られる時間を心配したほうがいいぞ」


「それはどういう事だ」


「母親が出て行ってもここに残った由利香に免じて教えてやるが・・私はしばらくこの世界から遠ざかろうと思う。ほとぼりが冷めた頃にまた戻って来るがね。この世界とのしばしの別れに置き土産を用意した。Prizonerのプログラムに少し手を加えてね、君はもうすぐ完全に私の傀儡かいらいに成り果てる。ここで廃人の様に生きていくか、ゲームに戻ってヴァンパイアキングとしてまた永遠に戦い続けるかは君の好きにしたらいい」


「宏樹が・・キングがいなくなったら誰がクリーチャーと戦うんだよ? あんた、日本がどうなってもいいのか?!」


「ああ、今3体のボスが出て来てるのか。では最後に落合君の手でこの世界を崩壊させるのも面白いかもしれないね」


 うわ、こいつは正真正銘のクズだ。なんて非道なヤツなんだろう。


「由利香、私は落合君はやめておけと言っただろう。言う事を聞かないから苦労するんだぞ‥さて、それじゃあ私はこの辺で失礼するよ。もう会う事もないだろう」


 大迫伸二が言い終わるとキーボードを叩く音が聞こえてきた。するとまた眩しい光が大迫伸二の目の前のモニターから発せられ、大迫伸二はモザイク状になってモニターに吸い込まれて行った。まもなく画面は真暗になったと思うと、ファイルのダウンロードの画面に戻った。


 由利香さんは放心した状態で突っ立っている。宏樹が優しく声を掛けてソファに彼女を座らせた。座ると同時に由利香さんは顔を手で覆って泣き始めた。可哀そうにな、俺だって父親があんな極道だったって分かったらショックを受けるよ。


 宏樹はまたパソコンの前に座って作業をし出した。「BDのファイルは壊された。だが半分ほどは俺のパソコンに取り込めたからそれを調べるしかないな」


「ファイルは全部見たのか?」

「まだ見てないのが残ってる。とりあえず全部調べてみる」


 俺はカメラが設置されている場所を探し始めた。すると由利香さんがふらりと立ち上がった。


「私、お昼の支度をしてきます・・」

「あっ、どうかお構いなく! 昼飯は何か買ってきますから無理しないで下さい」

「いえ・・何かしていた方が気が紛れますから」


 由利香さんは書斎を出て行った。


「彼女相当ショックだっただろうな。大迫伸二は由利香さんとお母さんを拾ってやったなんて言ってたけど」

「事情がありそうだな・・よし、ファイルは全部見終わった。カメラは見つかったか?」

「ああ、このカーテンレールの端に埋め込まれてたよ」


 宏樹はカーテンレールから爪の先程のカメラを外して調べていたが首を振って言った。「これはどこにでも売ってる物だな。この家からそう遠くない場所に潜んでいたらしいがそれ以上は分からんな」


 俺達は由利香さんが用意してくれた昼食を食べた後、一旦家に戻る事にした。書斎の本棚にあったブードゥー教の本と大迫伸二が使っていたメモノート1冊を持って。




「ご主人様ぁ~お帰りなさいにゃ~」


 玄関を開けるとディアン(?)がすっとんで来た。


「あれっ、おま・・ディアンちゃ、じゃなかった高田さん? いつ来たんだよ。連絡ないから心配したんだぞ!」


「おう、直巳! 心配かけたにゃ」


 なんか・・すっかりディアンぶしが復活してるんだけど。高田順子の記憶が戻ったんじゃなかったっけ??


「それでご家族には会えたのか?」

「会えたよ。すっごく喜んでくれた。お母さんはびっくりして少しの間、口が聞けなくなって大変だった。お父さんは会社を早退して帰って来たの。それは良かったんだけど、今までどうしてたか聞かれてめっちゃ困った」


「何て話したんだ?」

「ご主人様みたいに記憶喪失だったって言った。記憶がなかったのは事実だし」

「まあダンジョンで冒険者と戦ってたって言えないしな」


「直巳達はどこへ行ってたのにゃ?」


 俺は宏樹のノートパソコンに録画されてた映像と由利香さんの自宅であった事をディアンに話して聞かせた。

「んんん、じゃあ大迫室長が全ての元凶だったんだ。でもなんで?」

「何でだろうな。娘と付き合ってるのが気に食わなかったのか・・」

「そんな理由で人をゲームの中に閉じ込めたりするのかよ?!」


「一番の理由は映像で見た通り、ゲームのアイデアを盗んだ事がバレるのを阻止するためだろうな」


「あ、それなんだけど、私、ジョンソンソフトウエアに行って早野さんに会って来た。Prizonerの本当の開発者は落合さんだって事、今は証拠はないけど必ず見つけて落合さんの名誉を挽回してみせるって言って置いた」

「ディアンちゃん、行動力あるね!」


「ふふん! そうですとも! 早野さん、口でははっきり言わなかったけど私の話を信じたと思うよ」

「また同じ事をしでかして失踪した後だったしな」


「で、まず何をしたらいい? 大迫室長がいじったPrizonerのプログラムがあるんだよね、解析する?」

「そうしよう。それと改変されていない正式なプログラムを見せて貰えないか早野さんに聞いてみてくれないか?」

「合点承知の助! 高田順子、ことディアンちゃんにお任せあれ!」



 ・・・・ディアンちゃん、それ逆じゃね?


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る