第39話救出
リヴァイアサンが倒れると最後のクジラゾンビも消滅し、残った人も放り出された。
合計で13人の人が飲み込まれていたが全員無事で、最初の方に助け出した人達は意識も戻った。
ここがゲームなら次の階層に進むのだが、俺たちは外の世界に戻りたい。ゲームではリヴァイアサンが倒されると途中にあった湖の水は引いて歩いて後退出来るようになる。ここでもそうであって欲しい。
意識の戻っていない人はみんなで抱えて元来た道を戻ろうとした時だった。るり子さんが目を覚ました。
「う、ん‥。五十嵐君?」
「るり子さん! 気が付いたんですね!」
「どうして‥ここは?」
「もう大丈夫ですよ。怪我はしてないですか?」
「五十嵐君‥私達ボートに乗ってて‥落ちたのね、五十嵐君ずぶ濡れよ」まだ意識が朦朧としている中でるり子さんは微笑んだ。
「俺は平気です。一緒に帰りましょう」
俺と宏樹が肩を貸してるり子さんと他の助け出した人たちを連れて、俺たちはぞろぞろと歩き出した。
クジラゾンビに取り込まれていた人達は消耗していて歩くのもやっとだ。色々と質問攻めにされるのではないかと心配していたが、その気力すら残っていない様で、不謹慎だが俺と宏樹には好都合だった。
そしてやはり湖の水は引いていた。そこを渡り切ると向かい側から防護服に身を包んだ救助隊員が大勢現れた。
俺たちは救出された。
深い穴に落ちた俺たちがどうやって地上に戻ったかというと‥。
まず渦を巻いていた黒い穴はただの深い竪穴に変化していた。一方、主に自衛隊で編成された救助隊は公園の池から水を抜いてそこへ重機を搬入。一度中の様子を確認してから隊員を竪穴に送り込んた。
俺たちをダンジョンの通路で見つけた救助隊が竪穴の下まで案内してくれて、さらわれた人達は次々に救助されて行った。
その頃にはもう昼近くになっていて普通の人間に戻った宏樹と俺は、共にさらわれた人の振りをした。
さらわれた人達は皆ボートから転落した後の記憶が曖昧だった。まさか自分達がクジラのお腹に入れられてダンジョンに連れて来られたとは夢にも思っていない。
だから俺と宏樹も『よく覚えていない』で通した。救助された人達も体力は大幅に消耗していたが健康に問題はなかった。だが俺たちはそうはいかなかった。宏樹はあちこちに火炎ブレスで火傷を負い、俺は手の凍傷になりかけていた。
俺と宏樹だけがケガを負っていた事に救助隊員は首を傾げたが、これも『よく覚えていない』でやり通した。
やっと自宅に戻れてほっと一息ついたのもつかの間、翌日に大谷が俺を訪ねて来た。
「よ、よぉ大谷。今日はどうした?」
「お前に聞きたい事があるんだよ」
やけに怖い顔をした大谷をリビングに招じ入れ、俺は飲み物を取りにキッチンへ向かった。ディアンと宏樹が夕食の支度をしている所だった。
大谷の前に冷たいオレンジジュースを置いて、俺は向かいに腰かけた。
「るり子さんの様子はどうだ?」俺は努めて平静を装って笑顔で聞いてみた。
「姉貴は元気だよ。ちょっと体がだるい位だって。‥それでさ、姉貴から聞いたんだけど救出された
時、お前も一緒だったんだって?」
「えーと、そうだったかなぁ‥」
「お前、姉貴が連れ去られたって俺んち来て言ったじゃないか。それが何でお前も一緒に連れ去られた事になってんの?」
くっそ~参ったな。俺が一緒だったことは秘密にしてもらうべきだった。いや、そんなウソをついてもいつかはバレていただろう。ここは腹をくくるしかないか。
「俺、るり子さんが連れ去られた黒い穴の中に入って行ったんだ。るり子さんを助けようと思って。でもそこで捕まっちまって、救助隊の人に一緒に助けられたんだよ」
半分は本当の事だ、これで納得してくれ大谷!
「俺も何度か公園まで行ったんだ、でも物凄い厳戒態勢で近づく事すらできなかったぞ。どうやって池の中の穴まで行ったんだよ?」
「ええと、それは‥あれだ‥」
「俺には本当の事言えよ!」
るり子さんを危険な目に合わせたのは俺だ。そんな俺が弟の、しかも親友の大谷に嘘をつき通すなんてことは到底無理だ。そんなのは大谷の友情に対する裏切りに他ならない。
「・・俺が昔ハマってたゲーム覚えてるか? 『The Prizoner』ってやつ。あれの中のクリーチャーが現実世界に現れてるんだよ‥」
俺はネズミ男に追いかけられた話やケルベロスの話をした。宏樹とディアンの事は伏せて。
「・・・・お前さ、なんでそんな幼稚な嘘つくんだよ。そんなに俺を信用できないならもういいよ。姉貴とももう会わないでくれ」大谷は立ち上がった。
「大谷! 嘘じゃない。お前だってあのゲームやってたじゃないか」
「それが何の関係があるんだよ!」大谷は完全に切れていた。
そこへキッチンから宏樹が出てきた。「ゲームをやったことがあるなら俺の顔に見覚えがあるだろう」
そう言った宏樹はコンタクトをしていなかった。そして宏樹の背中からバサッっとコウモリの大きな羽が現れた。
それを見た大谷は一瞬ひるんだ。だがすぐ気を取り直して言った。
「そんな手の込んだイタズラをするなんて、お前の従兄も悪趣味だな。確かに見た目はそっくりだよ。それによくそんな羽、見つけてきたもんだね」
宏樹はため息をついた。「やれやれ、これがダメならディアンお前が見せてやれ」
今度はディアンがキッチンから出てきた。可愛らしいエプロンを付けてツインテールを両手でもてあそんでいる。「直巳のお友達、よく見てるにゃ」
ディアンはスルスルスルっと小さくなって黒猫の姿になり洋服とエプロンの中から顔を出した。そして猫の姿のままで言った。「これでも信じられないにゃ?」
「うわぁっ、ね、猫がしゃべった!」これにはさすがの大谷も驚いて声が上ずっている。
やっと大谷は信じた。宏樹の背中の羽を触りながら「すげ―」とか言ってる。ディアンはもう一度獣人の形態に戻った。
宏樹はちょうど夕食が出来たから食事をしながら話をしようと提案してきた。そして今度こそ俺は初めから詳しく事情を話した。
「るり子さんには話すなよ。もう彼女を巻き込みたくないんだ」
「ああ。だけどゲームの中のクリーチャーが現実に現れるなんて‥俺も見てみてえ」
「実際に目の当たりにしたらそんな事言えないと思うぜ。VRのゲームでもやっぱり現実の迫力には到底敵わないよ。もう、何度死ぬかと思った事か‥」
宏樹が作ったハンバーグを頬張りながら大谷が俺を見た。「そんなに危険だって分かっていながら、姉貴を助けに行ったのか?」
そう改めて言われると少しぞっとした。「まあ、宏樹も居たしさ。るり子さんに‥伝えたい事もあったし」
「そっか。前言撤回だ。俺は全力でお前と姉貴を応援する」
そうして大谷は宏樹やディアンの秘密は守ると約束して帰って行った。
その翌日、一難去ってまた一難とはこういう事か。
「どうして高田さんがここにいるの?」
俺の家を突然訪問した大迫由利香がディアンを見てこう言ったのだ。
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