第27話ネズミ男
「うわああああ助けてくれぇ~~。なんであいつがこんな所にいるんだよぉ」
人の顔位の大きさの巨大ドブネズミをぞろぞろと引き連れて40階層のボスが俺を追っかけてきている!
ドブネズミは夕闇に紛れて形がはっきりしないが、真っ赤に光る無数の目が巨大な男の足元で俺を狙ってギラギラと光っていた。
俺は数日前の事を思い出しながら地下道の坂道を懸命に駆け上がって行った。
「回覧板持ってきました。緊急連絡なのですぐお隣に回してくれますか?」
るり子さんがうちに来てから数日後に来た回覧板には大きなドブネズミが増えているので注意してくださいという内容がかかれていた。
読んだ後すぐ隣の家に回してから俺は、バイトに行く支度をしていた宏樹に話しかけた。
「ドブネズミが増えてるんだってさ。農作物を食い荒らしたりスーパーの倉庫の食品を食い散らかしたりしてるみたいだ」
「コンビニも危険だな」
「だな―、あの店の倉庫は古いから隙間だらけだろ? ネズミなんて入りたい放題じゃないか」
大きいネズミったってせいぜいハムスターよりちょっと大きい位だと俺は想像していた。
だが農作物や食品が被害に合うのはまだいい方だった。
その内、公園で一人で遊んでいた小さな子供や家のベッドで寝ていた赤ん坊が、親が目を離した隙にネズミにかじられるという事件がたて続けに起きたのだ。他にも農作物を荒らすネズミを追い払おうとした人が手や顔をかじられたりと、その凶暴性が問題になっていた。
ネズミの異変はそれだけじゃなかった。ネズミにかじられた人が原因不明の高熱を出して寝込んでいるのだ。ネズミが媒介したウイルスが原因と見られているが、そのウイルスを特定できず治療法を見つけられない。そして解熱剤がほとんど効かず発熱している人はどんどん衰弱していっているのだ。
「なんかあれだな。『The Prizoner』に出てくるクリーチャーみたいじゃね? ネズミの大群を引き連れて毒攻撃してくるヤツいたよな」
「30階層か40だったか」
「40のボスじゃなかったかな。ネズミの顔した人型のボスでさ。苔みたいな緑色の長いマントを羽織ってるんだ。ネズミの攻撃もバカにできないんだよ。中盤のボスの中では断トツで嫌なタイプだった」
その嫌なタイプのボスが‥ネズミ顔の大男が、緑色のマントを羽織り死神が振るう様な大鎌を手に俺を追いかけて来ていた。
いつもの帰り道が工事中で封鎖されていたせいで俺は回り道させられた。その回り道した先にある地下道に入った時だった。ザザザザザザザという砂の上を何かが走る様な音と共に、キキーーーッという金属がこすれる嫌な音が響いた。振り返ると地下道の入り口にあいつが立っていたんだ。
俺の前を歩いていたサラリーマン風の男性も振り返った。そして俺より早く反応し「ひぃっ」という声を漏らすと走り出した。それを見て俺も走り出した。
「ば、バイト終わって疲れてんのに、はぁはぁ。なんだよあれ」
地下道を出ると交差点があり、その向こうにはスーパーやドラッグストアがあるショッピングタウンが広がっている。人通りも車通りも多い。夜道とはいえ、街灯が明るく照らす道を追いかけてくる怪物にみんな悲鳴を上げて逃げ惑っている。
交差点ではネズミの大群とネズミ男に気を取られた車が衝突事故を起こし、クラクションが鳴り響いている。散歩中の犬は唸り声をあげていたが、ネズミの大群が迫ってくると「キャンキャン」と尻込みして飼い主より先に逃げてしまった。
「はぁ、はぁ‥世紀末かよ」
とりあえずスーパーに逃げ込むか‥。そう考えて道路を横切りショッピングタウンの駐車場に入ると見慣れた顔がスーパーから出てきた。
「宏樹!」
「直巳、何やってるんだにゃ」
「何じゃねえよ、後ろ見ろ!」
俺の背後に気づいたディアンはシャ――ッと威嚇の声を上げた。宏樹は術を使うつもりか、片手を伸ばしたが俺はその手を掴んだ。
「待て、宏樹。ここでは大勢の人が見てる、まずいって」
宏樹も周囲を見て頷いた。「確かにな。直巳、もう少しランニングしてもらうぞ」
なぜか分からないがネズミ男は俺を追いかけてくる。俺は宏樹とディアンと3人で人通りのない方向へ向かって再び走り出した。
少し先にある橋を越えればその先は田畑が広がっている。この時間ならあの辺りは真っ暗なはずだ。
俺たちは田畑の中央辺りに転がり込んだ。走り疲れた足がもつれ俺は転びそうになった。宏樹が俺の腕を掴んで支えてくれた。と、俺の頭の上でガキ―ンと派手な音がした。
宏樹に引っ張られて体勢を整え振り返ると、ネズミ男が振り下ろした大鎌をディアンの右手のシミターが間一髪、俺の首を刎ねるのを防いでいた。
「礼はいいぞ、直巳」
ディアンちゃん、いやディアン様ありがとう! なんて言う暇もなくネズミの大群が迫って来た。俺はそこらへんに落ちていた木の棒を引っ掴んで襲ってくるネズミに向かって無我夢中で振り回した。だが所詮はただの木、すぐ折れて使い物にならなくなってしまった。
「これを使え!」
この様子を見た宏樹がビニールハウスの骨組みの鉄パイプを1本抜き取り、投げて寄こした。
宏樹は俺の横に来て地面に手のひらを付けた。
周囲の地面が一斉に凍り付き襲って来たネズミの大群は地面と一緒に凍り付いたが、ネズミ男はタンッと軽く地面を蹴り空中を一回転して離れた位置に着地した。そしてすぐさま宏樹に向かって大鎌を振り上げ風の様に突進してきた。が、またディアンが横から素早くシミターで応戦する。
ネズミの大群は次々と襲ってきたが全て宏樹に氷漬けにされて行く。横ではガキ―ン、ガキ―ンと物凄い音を立てて双剣のディアンとネズミ男が戦っていた。俺は鉄パイプで氷漬けになったネズミたちをガンガン砕いていく。ガチガチに凍ったネズミはいとも簡単に粉々に砕け消えて行った。
その俺の頭上をヒュンとかすめて前方の土にシミターがぶっ刺さった。
「あっぶねえ」ちくしょ―ディアンめ、俺の頭にシミターが刺さったらどうしてくれんだよ。
だが危ないのはディアンの方だった。もう片方のシミターもディアンの遥か後方に投げ出されており、ディアンは手ぶら状態でネズミ男と対峙していた。俺は慌てて地面からシミターを抜き取りディアンに向けて投げようと構えた。が、時すでに遅し。ネズミ男の大鎌がディアンに振り下ろされようとしていた。
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