第八話 余裕の微笑み

全校集会の校長の長い演説の最中、僕の隣で体操座りしている少女は、小声で言った。


「冴えない表情、どうしたの?」

「自己嫌悪中・・・」


僕はそう言うとため息を着いた。


色々有ったんだ・・・

人間関係とか、自分のダメさ加減が浮き彫りになったりとか・・・



その日の帰り道、少女がバイトしている、寂れた茶屋を通りかかった時、

「そこの少年!」

と、呼び止められた。


「少年、あなたがいる世界はね、例えて言うなら劇場の舞台。

あなたは、その舞台の上で、役を演じているの。

そして、その演劇には脚本家がいて演出家がいて、大道具さんに小道具さん、照明さんに舞台監督さん、そして、舞台を見ているお客さんたち・・・。

私はね、舞台袖にいるスタッフさん達に、少しだけお願いが出来るの。例えば・・・」


少女は唐突にそう言うと、僕を忍者に変えた。そして、

「私の役は姫君、あなたの役は私に仕える忍びよ。

さあ、私に差し向けられた暗殺者どもを倒してきて!」

と命じた。


「えっ!?」


少女は、あまりの急展開に躊躇する僕のお尻を「さあ」と叩いた。


「えっ!?急展開すぎる!」


驚く僕に再び、僕のお尻を「さあ」と叩いた。


それを合図に、まるで映画の中に居るかのように、時間は進んだ。


彼女の言う演出家が、僕に忍術を授けたのか、僕は、いとも簡単に、山を越え、谷を飛び、街外れの屋敷に潜む暗殺者の背後を取った。


僕の奇襲に、姫君の暗殺計画を練っていた暗殺者達は、驚いたのなんのって!


暗殺者達が驚いたのは、奇襲を受けた事だけではない。


分身の術で分身した僕の分身が、めっちゃ美少女だったのだ。

その芸術的な美しさに、暗殺者達は驚愕した。


その美少女ってのが、僕の悪い所を完全に取り除き、僕の中の美的要素を凝縮した感じだ。


よくもまあ。平均以下の僕から、こんな芸術的な美少女が分身出来たもんだ。

そのあまりの美しさに、暗殺者のおっさんたちは照れ笑った。


「僕の分身に惚れてんじゃねーよ」


僕は脚本通りに?ヒーローの様に、暗殺者達を倒した。


そして僕の分身の美少女は、僕を見つめた。


なんだろう・・・・この僕とはレベルが違う微笑み。


外見上の美しさだけじゃなく、なんて言うか、器の大きな者のみが出来る、余裕の微笑。


少女はそっと僕に近づいてきた。

僕の分身とは解っていても、緊張する。


少女はそっと僕に寄り添い、そして、僕と同化した。


分身の術を解いたってだけだけど・・・心臓は高鳴ってる。


「それは自己愛の一種」


いつのまにか現れた少女は言った。


「自己愛?」

「そう、あの子はあなたの中の一部、あなた自身でもある、

だからあの子への憧れは自己愛の一種」

「僕の中の一部」

「どう自己嫌悪は収まった?」

「う・・・うん」


僕の中の彼女を思うと、なんか幸せな気分になった。




つづく

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