第七話 紙とインク

「歴史の追試?」

僕が不思議そうに聞くと、少女は言った。


「学校では、2千年くらいしか教えないけど、私は、洪水前の10万年前とか20万年前の、人類の歴史も覚えないといけないの、近代までは手に負えない」

「なんか大変そう・・・でも不正はどうかと」

「10万年とか20万年とかの歴史の中で、一回の試験なんかを気にする必要なんてあると思う?」


・・・と言うわけで、僕はシャーペンに変身させられ、彼女の代わりに追試を解くことになった。


追試のある教室で、彼女は何気に、シャーペンの僕を、指でクルクルと回し始めた。


クルクルクルクル


それは、凄い勢いだった!


「目が廻るよ!」

その言葉をきっかけに、回転はさらに速度を上げた。


「な・・・な・・・・な」

遊園地の過激な乗り物を軽く超えるスリル。

「何がしたいんだ!試験前だよ!君の試験だよ!」


追試の教師が入ってくると、スリル体験はすぐに終わった。


「今日はね、あなたの為に、特注のシャーペンの芯を作ってきたのよ。

あなたがシャーペンな訳だし・・・健康を気遣って、カカオから直接作ったビターチョコレート芯だよ。徹夜で作ったから眠いよ。」

「そんな暇があったら勉強しろよ!」


彼女は、シャーペンのキャップをとった。

そして、じーと芯を入れる穴を見つめた。


「そ・・・そんなに見んといて・・・・」


彼女はニヤッとすると、ビターチョコレート芯をシャーペンに入れた。


「どう?」

「ビター、身体の芯からビター」

「今回は、あれも入れたからね」

「あれって?」

「あれよ、あれ(*v.v)。」

「あれって、何だよ!」


追試用紙が配れて、追試が始まった。

追試は、前やった問題だし、そんなに難しくは無かった。


僕が追試問題を解き終えると、彼女は指で僕をくるりと回し、ブレザーの内ポケットに仕舞った。


「わお!」

「ご褒美」


内ポケットは、彼女の体温と優しい香りに包まれていた。


そして、波打つ彼女の心臓音が、僕の身体の芯まで伝わってきた。


「生きてる・・・僕も彼女も」


その音をじっと聞いていると、僕はだんだんと眠たくなった。

変身って意外と精神力と体力を使う。


「君をペンにして、歴史の問題を書き込む・・・・

君の一部を使って、歴史を書き込む感覚・・・・

なにか深い意義と意味があるような気がする」


「・・・うん、そうだね」


眠りに落ちながら、僕は相槌を打った。

気がつくと僕は、彼女の部屋にいた。


ふふふっ、初めての彼女の部屋。


でも、まだ僕はシャーペンのまま・・・・


いや違う、僕はボールペンになっていた。

魔法使いの少女は、施錠してある日記の鍵を開けた。


「ボールペンのインクと化した君の一部を使って、私の歴史を記す」


少女はそう言うと、日記の真っ白なページに、少女の、今日一日の歴史を記した。

少女は、日記を書く手を止め、ボールペンを、くるりと回すと言った。


「何かを付加する事によって、意義とか意味は、その存在価値が出てくるの。

この行為の象徴的な意義と意味が、何か解る?」


え?


僕の思考回路には何も浮かばなかった。


「・・・・・解らない、何?」

「教えなーい♪」


少女は嬉しそうに答えた。



つづく



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