第六話 カルデラ湖の底

今、僕は、転校生の少女と、山奥の湖で白鳥ボートに乗っている。

正確には、僕が魔法で白鳥ボートに変身させられ、転校生の少女が、漕いでいる状態だ。


帰り道の駄菓子屋で、アイス一本で釣られ、連れてこられたんだ。

湖の周囲には人影も人家もなく、水面は薄暗く、危険な雰囲気を漂わせていた。


もちろん地元の有名なデートコースではない。


「この湖はカルデラ湖で、湖の直下では、マグマがたぎってるの」


カルデラ湖?


そんな地元民の僕も知らない事を、なんでこの子は知ってるんだ?


「マグマがたぎってるって、大丈夫なの?」

「個人差はあるけど、まあ大丈夫よ」

「えっ?なに個人差って?噴火の直撃を受けて大丈夫な個人差って何?」

「恐い?」

「恐いよ!」

「帰る?」

「帰りたい!」

「私を置いて?」

「・・・」

「私1人じゃ寂しいよ」


この状況で帰れる男子が、世の中にどれだけいるだろうか?


湖を見渡すとやはり、カルデラ火山ぽい・・・大丈夫と言われても・・・やっぱ、ちょっと怖い。


僕が恐がってる間も、ボートは湖の沖へとゆっくりと進んでいた。

少女がボートを漕ぐと、彼女のお尻の柔らかさと、ふとももの躍動が、白鳥ボートの僕に伝わってきた。


白鳥ボートじゃなかったら、大変な事になっていただろう。


「えっちぃ」


彼女は言った。僕の気持は筒抜けらしい。


「今日はね、君の中の魔物を呼び覚ます為に来たの」

「僕の中の魔物?」

「そう」


彼女は頷くと、白鳥ボートの上でお尻の揺らした。


すりすりと・・・ふわふわと・・・もう・・・僕の身体は・・・


燃え上がるんじゃないかと思うほど、熱くなった。

彼女は、燃え上がりそうな僕の中で、小声で何かを唱えた。

すると僕の背中から湯気の様なものが出た気がした。


「これは!」


背後を見ると、湯気が徐々に具現化し、巨大な魔物が現れた。

突然の魔物の出現に、時空は淀み、空気が震えた。


魔物は、今にも都市文明を、破壊してしまいそうな圧迫感を周囲に放っていた。


「こんなものが、僕の中の、こんなものが暴れまわったら、僕の人生はおしまいだ」


僕の戸惑いと驚きと叫びによって、僕にかかっていた魔法は解け、僕は人の姿に戻ってしまった。


「しまった!僕は泳げないんだ!」


慌てる僕の身体を、少女は冷静に抱き寄せた。

背後を見ると、僕と同じく泳げないらしい魔物は、助けの手など差し出されず、手をバタつかせながら、カルデラ湖の底へと沈んで行った。


「あっ・・・僕の魔物が・・・」


魔物のくせ、ちょっと間抜け。


「あれが、あなたの中に潜んでいた魔物」


彼女に抱き着いている僕に少女は言った。


湖に沈んだ僕の中の魔物・・・・僕の心を大きな喪失感が襲った。


でも今はそんな事、どうでもよかった。


だって、彼女の胸がすごく優しく柔らかく、そしていい香りがした。

心の喪失感なんかにかまってる場合じゃない。


「あの魔物は、いずれあなたの元に戻ってくる。その時までにあなたは、あの魔物を使いこなせるだけの男に、なってなきゃダメだよ」


と、少女は、僕の耳元でとっても面倒な事を呟いた。



つづく

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