第39話 夢の中
オレは夢を見ていると思う。
意識の中は真っ白な空間が広がっていた。
下を向いても、自分の体が映らない。
手足を動かす意識が出来ない。
ただここに存在している状態だ。
しばらく経つと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『……リン』
その透き通るような美声が耳を刺激して心地がいい。
だが、声が遠いのか上手く聞き取れなかった。
「ん……」
『ダーリン!』
今度はより近くに感じて聞き取れた。
ダーリン?
誰がそう呼んでいるのか、まだ思い出せない。
でも、昔そう呼んでくれたキャラがいた。
「この声、セリフ……」
『やっと起きたのね、ダーリンっ!』
「あ、亜美なのか……?」
『あっ!やっと認識したぁ! よかったぁ~』
声は聞こえるが、姿が見えない。
「亜美! どこだ?」
『目の前でダーリンを見てるよ?』
「前?」
しかし、目の前にはただ真っ白な空間しか見えない。
『そっかぁ~、まだなのね。 でも、声は聞いてくれたから、今はそれで良し!かな』
「何を言ってるのだ、亜美? それよりも早く姿を見せてくれ!」
『残念……。 まだダーリンにはその資格がないみたいだね……。 私も早くダーリン会いたいよぉ~』
「俺も亜美に会って、一緒に過ごしたい!」
『凄い想い……。 私も一緒だよ? だから、早く見えるようになっ――』
途中で亜美の声が途切れる。
「亜美……、亜美ぃーっ!」
大声で呼びかけたが、反応がない。
さっきまで近くにいたと思ったのに。
◇
目を開けると、知らない天井が視界に映る。
「ここは一体……。 それよりも亜美っ!」
上半身を起こして周りを見ると、カーテンに囲まれている部屋でベッドの上にいた。
「あっ、ゆりちゃん、やっと目が覚めたのね!」
カーテンを開けて入って来たのは、道着姿にお盆を持った涼香がいた。
涼香はベッドの近くの棚にお盆を置いて、乗せてあった水をコップに注ぎ、目の前のオレに渡してきた。
「ありがとう、涼香。 ここは一体?」
「ここは会場にある医務室だよ」
「医務室?」
「うん。 ゆりちゃん、試合の勝負がついた瞬間に意識がなくなったみたいで、ここまで運ばれたみたいだよ」
「オレ……気絶したんだ」
「そうみたい。 私はさっき試合が終わって、急いでゆりちゃんのとこに向かったけど、縁はまだ試合みたい」
「そうなのか、涼香ありがとう」
「うん! それよりもさ」
ん?
急に涼香の声のトーンが下がって、部屋の室温が下がった気がする……。
「さっき言ってた亜美って誰?」
「あれれー? そんなこと言ったかな……?」
こういう時の涼香は圧が強い。
普段一緒にいるときは、女の子の名前を言ってもここまで嫉妬をしないのに、どうして。
「誤魔化しても無駄だよ、寝言でも言ってたから。 言い逃れはさせないよ?」
「お、おう」
これは推測だが、彼女の
実際に、縁に対しては圧を感じない。
それは友と接しているという判断なのだろうか?
彼女の手の平には小さな水滴が出来ていた。
これは、この瞬間に異能を発動して脅しているのかな?
「あ、亜美って言うのは、親戚のペットのハムスターのことだよ」
「嘘。 ゆりちゃんの親戚にペットを飼っている情報もなければ、可愛がってるところを見たことないもん」
「何故、オレの親戚を知ってるんだよ……」
「ねぇ? 答えてよ。 亜美って誰?」
「えーっと……」
オレが何て返答しようか迷っていると、扉を開く音が聞こえた。
「ゆりっち~、だいじょーぶ? お見舞いに来た……よ?」
この声は地獄から光を射して舞い降りた天使だ。
「ありゃ、元気そうだし、アタシちょっともうひと試合してくるね! お大事に!」
「えっ!? ちょっ、縁ー!」
縁は部屋に瞬間に何か空気を察したのか、すぐに引き返していった。
それは、猫ではなく脱兎のごとく。
「ゆりちゃん、正直に答えてね?」
夜桜 亜美。
『常闇に咲く夜桜』という成人向けに制作された美少女ゲームのメインヒロインの名前で、俺の最愛のヒロイン。
とても明るい性格でデレると人懐っこいキャラだ。
世界観がバトル魔法ファンタジーモノで、中盤のシリアスでラスボス戦があり、戦う前に結ばれて愛の力が勝ったところで個別ルートに入ってイチャイチャの甘々の終盤が始まるような作品だ、
前世のことを、例え涼香でも話したくない。
好きな涼香に元男で二次元の女を愛しているようなことを知られたくない。
「そんなに黙ってるなんて、余程教えてたくないのね。 いいわ、自分で調べるから」
「……」
「それは、それとして。 お疲れ様、ゆりちゃん」
下を向いて背くオレに対して、暖かいモノに包み込まれた。
それは涼香によるハグだった。
それはズルいだろ……。
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あとがき
久々の涼香のヤンヤン!
ヤンデレが放つ嫉妬っていいもんですなぁ。
やっとプロローグの子が出てきたけど、次はいつ出れるのか……。
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m(_ _)m
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