第30話 涼香の肉弾戦 水 vs 甲虫 part1

―side 水上 涼香


縁の試合が開始される同時刻、涼香も試合場に来ていた。

対戦相手は私が見たことがある人物だった。

その子は、前回の大会でゆりちゃんの初戦相手の兜森という選手だったような気がする。


ゆりちゃんの戦っている姿を見たくて、デバイスで試合のアーカイブを見てたおかげで、兜森選手がどんな異能を使っていたのか把握している。


「へぇ、今日は綺麗なお嬢ちゃんから一日が始まるのね」

「敗北から始まるなんて幸先悪そうですね」

「……よく言うね。 これは楽しめそうだね」


彼女は、すでに勝っていることが分かってるかのように屈託のない笑顔で言ってきたので、煽り返してあげる。

お互い握手をして礼を行い、試合が開始される。


彼女の異能は身体を生物の一部に変化させる、ポピュラーな身体変化系異能だ。

腰まで伸びた綺麗な黒髪が重力に逆らうように逆立ちして、髪はドリルのみたいな螺旋状に纏まり立派な一本角が出来上がる。

さらに、前回と違い上半身に変化が起きていた。


まるで漆黒の甲冑を着ているかのように物質を纏い、手と腕も籠手を付けているかのように黒い。

手には鋭い棘のような物が生えていた。

これは接触は危険そうだ。


「いくよ」


角で突くように頭部を前に下げて突進してくる。


あの頭部はゆりちゃんの突く攻撃を弾くほどの硬度を持っているのは知っている。

さらに上半身まで変化出来ているということは、異能が進化してさらにパワーアップしていることになる。

どのくらい硬度なのか確かめないと、今後の作戦が立てられそうにないと思う。


私は両手の親指を上に、人指し指を正面で銃のポーズを取る。

狙いを定めて、異能を発動して指先に水を生成して彼女に向けて発射する。


しかし、水は彼女の髪に命中するが水分が吸い込まれることはなく、防水性のように弾かれた。


「やっぱり弾かれたのね。 これは彼女の特性? それとも、ただの威力不足? ……もう少し様子見しないと」


突進攻撃が当たる寸前まで、頭部以外にも撃ったが多少蹌踉めく程度、ダメージは3㎜ぐらいしか入っていない。

攻撃は自分の足元を水生成で濡らして、足を滑らしてスライディングをして避ける。


彼女はそのまま結界の膜に衝突して床に尻もちしたところに、頭上に水を生成して下に目掛けて水流を流す。

大きな隙を狙った攻撃は大きく彼女のゲージHPを減らすことに成功した。


「痛たた……。 今のかなり効いたよ。 まさか、避けてそのまま強攻撃をするなんて中々やるね。 大抵は今の攻撃で沈むんだけど」

「確かに真面に当たったら一発退場の可能性がありそうでしたね。 まぁあの程度の俊敏さでは私に通用しませんが」

「言うねぇ……。 あれはただの挨拶さ。 ここからが本番だよっ!!」


今度は突進せずこちらに向けて走ってくる。

手を見ると、握り拳となっているため接近戦を狙ってるのかな?


「だけど、足元が疎かだよ!」


異能が覚醒していないため不完全なところを狙い水鉄砲を発射する。

しかし、その攻撃は通用しなかった。

走ってる時に頭部を下げて左右に振ることで、角で攻撃を防ぐ。


「くっ、見ないで私の水を弾くなんて……」

「虫には波を知覚出来るのだよ、だからこうやって防御も可能なのさ」

「これが種族特性……。 ただでさえ、身体能力が高いのに……」


髪が巻かれていない二本だけ前に出ていた髪が触角の役割を果たし、発射された水によって空気を割いたことで発生する人間には知覚不可能の波を察知したのだ。


等々、拳が届く間合いまで近づかれる。

彼女の振り下ろされた拳と腕に水を纏わせた私の腕が交差するようにお互いに攻撃を行う。


「くっ……!」

「一撃が重いっ……!」


私のゲージHPが4割近く減り、彼女に与えたのは1割強。

やはり防御力が高い。


私は続けて彼女に向けて膝蹴りをする。

足の裏に流水させて、加速した攻撃はさらに彼女のゲージHPを3割近く削る。


「「……この、強い」」


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あとがき


主人公の初陣の相手が強化されて再登場!

涼香は勝てるのかな?


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