第17話 もう一人の強者
オレは試合が終わり、少し休んでいると涼香が倒れたという情報が耳に入ったので、すぐに彼女の元へ向かう。
試合場には、スタッフに抱えあられた彼女を見つけたので、知り合いであることを告げてスタッフから彼女を受け取る。
会場で寝転がれるほどのスペースがあるかつ、あまり人が通らない所を探す。
丁度いい所があったので、重くて少し苦労したが、無事に運び終えて介抱する。
「すー、すー、う、うん……」
「怪我は無さそう……、みたい。 良かったぁ。 まぁ、試合開始と同時に結界が貼られるから怪我はないと思ってたけど」
倒れて気絶している涼香から寝息が聞こえる。
それほどまで初戦で接戦したであろうと予想できる。
「後で涼香の試合をデバイスで見てみようかな」
膝枕で涼香の頭を置いて、無防備なところを撫でながらデバイスを弄る。
撫でる行為が癖になるくらい、心地良い感触に汗で少し湿っているが、健康的な汗と洗髪剤の花の匂いが合わさり、匂いフェチに刺さるであろう。
つい撫でるのに夢中になってしまう。
「こんな姿の涼香も珍しいな。 今のうちに隠し撮りしとこ」
懐からスマホを取り出して、カメラアプリを起動して撮影を始める。
スマホのストレージに3枚の写真ほど保存して満足していると、試合場の方で少し騒がしいことに気づく。
「誰かの試合かな? 観客多いなー」
その方向に視線を移すと、関係者や応援に来てる人たちで試合場を囲むように群がっているのが見える。
結界が張ってあるので、何かの試合だろうと思うが、今大会に目玉選手が出場するという情報は聞いていないため、あの野次馬が気になってしまう。
涼香が起きないように膝枕を崩さずに、キョロキョロと周りを見ようと首を動かしていると、試合が行われているであろう結界内に大きな火柱が立った。
その後、すぐに結界が閉じて観客たちの喝采が聞こえてきた。
「何、あれっ!?」
つい声を出してしまう程に強大な炎を見たからだ。
このビギナークラスで、あの炎を生み出す程の選手に対して興味を抱く。
すぐにデバイスの電源を付けて、対戦のアーカイブを検索する。
新着順の検索結果に投稿が数秒前の表記がある目当ての対戦動画が見つかり、すぐに再生する。
◇
オレの同門である武藤さんと黒髪の女性による試合だ。
その女性は、前髪の長さが顎くらいまで伸びているがちゃんと整えているため、真紅の瞳がはっきりを見える。
腰まで伸びた後ろ髪が糸の様に鮮麗だ。
しかも、服装は私服で参加している。
その恰好は、ヘソが見えるほどの面積が小さい黒のタンクトップの上に羽織っている夏用に薄い黒のジャケットの上半身、デニムのショートパンツに太腿を主張している黒のニーソックスの下半身でワイルド系なファッションだ。
まるで、これから試合を始めるような恰好ではない。
「押忍! 自分、天恵道場の武藤っす! 対戦よろしくお願いします!」
「そう、よろしく」
彼女は目の前の相手に対して興味無さそうに返答する。
それは彼女も本日、異闘デビューをしてランダムマッチで試合を組んだが、連続で3戦していずれも瞬殺で終わっている。
「さっさと終わらせよ」
「……ムカッ。 対戦相手に失礼っすよ!」
武藤は拳を強く握りしめる。
武を重んじる彼女は、試合場に立ったならばお互い尊重することを大事にしているが、目の前の彼女は全く自分を見ていないことに苛立ちを感じていた。
試合が開始されると同時に、彼女の懐に入ろうと駆け出す。
だがしかし、それは失敗に終わる。
彼女は手のひらサイズの袋に指を突っ込み、一摘みと黒い粉状の物質を取り出す。
それを武藤に向かってばら撒く。
「これはっ!? まずいっ!」
武藤は直観でこれはまずいと察知して防御の体勢を取るが無意味だった。
彼女はマッチ棒で火種を生み、ばら撒いた粉に向かって投げる。
それにより、爆発が起きる。
「うわぁああああああーっ!」
爆発を直撃して一気にゲージが7割近く減少するが、まだ攻撃が続く。
まだ残っていた火が徐々に大きく成長して、左右に揺らめく姿はまるで龍のようだ。
「はぁ……はぁ……、非接触の遠距離攻撃は相性最悪っすよ……」
まだ辛うじて立つことが出来ているが、限界に近い状態でダメージを受けている。
意識が飛びそうなくらいの疲労状態で、目の前に映る炎を見て絶望する。
その炎は、武藤の周りをとぐろを巻くように徐々に狭まり囲い込む。
そして、炎が集約すると一気に天に昇るように火柱が立つ。
「これが異能による攻撃だ。 そうだな、技名は"
武藤のゲージが一瞬で消失して、勝負が着いた。
今回もまた一瞬で勝利を収めた彼女は、倒れている武藤をこれまで戦った相手と同じように有象無象のように映っていた。
「あぁ折角、異能に目覚めて戦闘が出来ると聞いてデビューしたのにつまらねぇ。 所詮はビギナーか」
彼女は、少し前に放送していたテレビ番組で特集として放映された、若き天才でたった一ヶ月でシニアクラスまで上がった人物のことを思い出す。
「すぐに向かうから、シニアで待ってな。
彼女もまた天才だった。
今日デビューして、体力の消耗が少なく連戦連勝を成し遂げた
「この世界に来たんだ、この力でどこまで行けるか楽しみだな」
彼女はデバイスを取り出して、休憩せずに再びランダムマッチを受けようとしていた。
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あとがき
新キャラ登場です!
瞬殺出来る程の強さと謎がある彼女。
そんな彼女と主人公はいつ出会い、絡み、戦うのか楽しみです!
作者のモチベの向上のため、「♡」、「★」と応援コメントを気軽にお願いしますm(_ _)m
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