第7話 先輩達の組手。 実 vs 天音
試合の開始と同時に二人は異能を発動した。
天音は宙にゆっくりと浮き始める。
実は、手の平に植物の種を生成して、少し間を空けてから天音向けて投げる。
それを避けて、空中で加速して右肘を後ろに置き拳を溜める。
しかし、先ほど避けた種が急に発芽して見る見るうちに天音の方に伸びていく。
それを知っていたかのように空中で旋回して避ける。
「あなたのやることなんてお見通しよ!」
「私も天音が避けることを知っている」
旋回したことで、一瞬動きを止めた箇所もう一つの種が落ちていた。
これも発芽して、植物が急成長する。
それにより、天音の足に蔓が絡まり動きを封じる。
「食らいなさい! パイルバンカー」
実の手に持っていた大きな実を天音に目掛けて投げる。
手から離れて1秒後に発芽して太い幹になっていく。
「出た実の得意技。 でも、私に対して投物は無味よ!」
急成長していく木に対して、天音は最小限のダメージになるように受け身しつつ軽く手で触れる。
すると重力が関係なく上へとゆっくりと昇っていき、大木が空中で留まる。
「本当に厄介な異能だね……」
「お互い様でしょ」
そう言っている間にも天音に絡みついた蔓植物が成長していく。
それと同時に根も床に伸びていき、固定化されていく。
「こんなの私の剣があれば、一撃だと言うのに……」
「ふふっ、これは試合形式の組手だよ」
「くっ……。 あぁ厄介すぎる!」
天音は足に絡みついた蔓植物を引き剥がそうと、飛行能力で加速しようとして抵抗するが、絡みつく力が強く未だに成長し続ける植物に対して無意味だった。
「止めの攻撃で天音のメーターを空にしてあげる!」
「そうはさせない!」
空中に浮かんでいる大木がゆっくりと実の真上まで移動したと判断した瞬間、
それが落下する。
これは天音による異能解除で行う攻撃だ。
「――っ!?」
実は直ぐに避けるためバックステップをするが、間に合わずメーターの光によるシールドで守られる。
それにより、一気に光が半分近くまで削られる。
「さすが天音だね」
「実が成長させ続けた木を利用させてもらったわ。 天井が低い分、落下速度はそこまでだけど半分まで削れたね」
「だけど、天音にはこの状態でもう攻撃手段はないよね」
「くっ!?」
天音に絡まっている蔓が徐々に浸食しているため、身動きができない。
「今度こそ止め!」
腕を広げて、両手に手の平に収まるほどの大きな植物の種を生成する。
「物理による攻撃が無効化されるなら、これならどう?」
「何する気っ!?」
実は手に持っていた大きな種を天音に向けて投げる。
「食らえ! スナバコノキ!」
「投げても、無駄よ!」
天音は飛んできた種に触れようと、手をかざす。
その手に当たった瞬間、種が炸裂する。
飛んでくる無数の種が、まるで連射された銃弾のように飛び痛みを与える。
「くはっ!?」
天音の胸に着けているメーターが指している光が徐々に失われていき、空になる。
これにより組手が終わる。
「実さんの一方的な試合でしたね」
「すっげー……」
「これが異能の相性の差か……」
見学していたオレ達は口を閉じることを忘れるくらいに夢中で試合を観戦していた。
今回は異闘ではなかったため、絡み手を使った実のほうが強かったが、本来の武器ありだったら試合結果が想像つかないだろう。
疑似異能の結界が閉じていくと、さっきまで展開していた植物が消えていく。
「どうだった、あの二人の戦いは」
「すっごい熱い戦いでした!」
「そうだろうね、何せあの二人はこの道場を代表する選手だからの。 今回は天音は負けてしまったが本来ならもっと強いぞ」
「そうなんですか?」
「あの子は掛け持ちで居合道も習っているから、練習用の木刀を使ってたら実に買ってたかもしれないねぇ」
「私は天音さんが木に対して、手で受け流した瞬間に感銘しました」
「だよね! 涼香もあのシーンにすごいと思ってたんだね!」
「アタシは実さんが使う、多種多様な植物を扱って完封してとこを見て、ただの現象系異能ではなく極めた現象系って感じで憧れたな。 もしかしたら、身体変化系も極めたら身体強化とは別の役割あるかもしれないと思ったよ!」
師範であるお婆さんもこの組手を見て満足して、オレ達は異能力同士の戦いに惚れていた。
「さて、見ての通りあんな風に組手するから、三人とも異能を存分に使って試合してみな。 もちろん、相手はこの道場にいる白帯だけどね」
「「「はいっ!」」」
今度はオレ達が戦う番が来た。
今はさっきの戦いで興奮しているため、余計に戦うことが楽しみで仕方なかった。
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あとがき
今回戦闘した二人は、互いに異能レベルが7同士です。
ですが、見せた異能は天音は二つ、実が三つです。
まだまだ隠し玉を持っているでしょう。
二人の本気の戦いを描写することがあるならもっと先にになりそう……。
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