第2話 私の豪運は最大の幸せを届ける。

私の豪運は、命と引き換えに死んだ父親を目の前に引っ張り出した。

人の命が対等なのかは分からないが、私にとってそれはどんな幸運よりも嬉しかった。


「そっちの母さんは元気か?」


「うん、忙しいみたいでたまにしか会えないけど・・・」


「そっかー」


今しか聞けない質問をいっぱいしようと思った。

「聞きたかったんだけどさ、何で母さんと結婚したの。」


「ん、ー目惚れだった。」


私はそれを聞いて安心し、少し微笑む。

おそらくお金や技術力が目当てではない・・・こんな人を選ぶなんて母さんらしいと思った。


タブレット端末から着信音が鳴り響く。

「お、母さんからだ。」


「え、本当!?」

どうやら私の豪運は更に、神様となった母親までも引っ張り出そうとしていた。


「いつまでのんびりしてるの!さっさと仕事をしなさい。」


懐かしい母さんの第一声に、私は驚くよりも笑ってしまった。

「あぁ、すまん。」


笑いながら呟く。

「もー、何してんの父さん・・・」


私の言葉に母さんは反応する。

「久しぶりね・・・レノ。事情は知ってるわ。」


冷静な対応とその情報収集能力やはり母親だった。

「うん、母さん。でも前世だと生きてるはずじゃ・・・。」


「えぇ。だけど神様になるのに時間は関係ないってことね。」


「そうなんだ・・・。」


「話を戻すけど、私もあなたを元の世界に戻してあげたいのだけれど規定により無理ね。」


「そんな規定あったか?」


「あるでしょここ、第2676535443号」


「げっ・・・この数・・・元人間には難しくないか?」


この何処でも発生しそうな当たり前の光景が私には嬉しかった。

ハグをするよりも温かく、穏やかな時間が流れていた。


「そんなんだから娘を死なせる羽目になったのよ。」


「可愛い?」


「レノ、殺っていいわよ」


「チェストォォ!」


ドゴッ!


娘の渾身の右ストレートが父の鳩尾みぞおちにクリティカルヒットする。

豪運も発動したのか神様に痛恨の一撃を与えたようだ。


「うぐっ!」


「さすが豪運の持ち主ね。」


「豪運って何だ?の間違えじゃ無いのか。」


私は拳を握りしめ笑顔で呟く。

「父さん、もう一発行っとく?」


「いや、遠慮しておくよ。」


「レノの持って生まれた能力ね。」


「そうなのか・・・、てっきりお前のリアルチートを受け継いだのだろうと思っていたが。」


「だけどそのせいで苦労をかけてしまったわ。ごめんなさい。」


「いいよ、母さん。」


「せめて、あの世にでも行かせてあげれないのか・・・」


「その豪運のせいで無理ね。それに魂に組み込まれてるから取り除けないわ。」


私と父親は驚く。

「えぇー!」


「って父さんも神様でしょ・・・。」


タブレット端末を見ながら父は呟く。

「あ、規定にあったっぽい・・・バランスが崩れるから無理だって。」


「おい。」


そろそろ二発目セカンドブリッドのチャージが完了しそうだ。


「私はどうすれば・・・・」


「異世界転生しか無いわね・・・」


「そんな・・・」


「済まなかった・・・レノ。置いてけぼりにした挙句、殺してしまって・・・」


何だ・・・父親らしい一面もあるじゃないか・・・。

私はその言葉に安心して呟く。


「本当ひどい父親だよねーって、嘘だよ・・・。多分これも私の豪運が発動したんだと思う。」



「そうか・・・なら、異世界だからって男遊びばっかりするんじゃないぞ。」


ドゴォッ!!


前言撤回


次の瞬間、私のセカンドブリッドが父親の鳩尾を捉える。

感覚を掴めてきたのか先程よりも通りがいい。


「うごっ!」


「父さんは言えないでしょ!」


その様子を聞いていた母が笑う。

「ふふっ、面白いわね。」


「母さん!今笑った!?」


「えぇ、久々に家族団欒を楽しめたわ。ありがとうね。」


次の瞬間、私の体が輝きだす。


「何、これ!?」


「もう時間か・・・・そうだ、これを・・・」


父親がタブレット端末を渡してきた。

「これって・・・」


「異世界でも使えるようにしてある。困ったら電話してこい。」


気が付くと、私は泣いていた・・・・。そしてある事が分かった。

本当に欲しかったものは単なる幸運では手に入らない、この時間だったのだと。


2度と手に入らないこの時間をまた楽しみたい・・・。

そう思いながら最後の質問をする。


「うん・・・。またこんな時間を過ごすにはどうしたらいい?」


「神様になるしか無いな。」


「分かった!私、神様になって帰ってくるよ!」


私の両親が同時に呟く。

「あぁ、レノなら出来る(わ)。」


私の豪運は人生で最大の幸せを届けてくれた。


「行ってしまったな・・・・」


「そうね。」


タブレット端末から通知音が流れる。

ーーー新たに神様が現れました。ーーー


「さすが俺たちの娘だな。」


「自慢の娘よ。」


「んじゃぁ迎えに行きますか」


「えぇ、私も行くわ。」

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