豪運少女と不運少女

紫雲くろの

第1話 やはり私は豪運だった。

和倉わくらレノ16歳は豪運の持ち主である。


自動販売機で当たりが出たとか、その下で500円を見つけるといったものではなく、自動販売機を丸ごと貰えたという感じである。


私は自宅の前に止まっている自販機を積んでいる大きなトラックの横で、お世話になっている売店のおばあちゃんと話していた


「いいんですか?」


「いいんだよ。孫を助けてもらったからねぇ・・・」


そもそも、自販機をもらってもごく普通の一軒家なので置き場所に困る。


要らないとも言えないし・・・。


おばあちゃんが言うには、先日車にかれそうになった孫を私が助けたというタレコミがあったらしくそのお礼がしたいとのことだ。


はっきり言って私にはその覚えがない。

先日は確か、鉛筆を転がして入学した地元の最難関高校の一ヶ月ぶりの通学途中の道で転んだ事ぐらいだ。


そういえば・・・・転んだ私に心配して子供が来てくれたっけ・・・。

過去の経験から私が不運な時は決まって、その後に豪運が発動する。


それに初めて気がついたのは小学校の頃だ。

初めて乗った自転車で近所を周回し、転倒した先で拾った紙切れが宝くじでそれが一等だった頃より始まる。


小学生にして一生分の大金を得た私は親の制限を受ける事なく自由に育ってきた為、母親が言っていた努力の大切さや、やり甲斐というものが一切分からなかった。


一時期、私の自由気ままな生活ニートから近所では死んだ父親の遺産だとか、世界的に評価されているエンジニアの母親の七光りで生きているとか言われたが、そちらの方が幾分かマシである。


それも豪運のおかげで今では帳消しになってしまった。


「ありがとうございます。」


「いいんだよ。困った時は力になるからね。」


お婆ちゃんはたてまつるようにお辞儀をする。


適当にのんびり生活できればいい。

それが幼い頃からのモットーだが豪運の所為で変に目立ってしまい今だに叶いそうも無い。


そんな私が、唯一楽しめる事と言ったらゲームだ。

両親が作った「未来を予知する謎のシステム」の補助により、運だけの私が唯一負けることができる貴重な場である。


しかし、その謎システムを使用しても最近では勝率は上がり続けていた。


タブレット端末の人工知能と会話をする。

恥ずかしながら私には友達がいない・・・いや


「んー、このゲーム飽きたなぁ・・・。てか、最近勝ち出したんだけど・・・」


「では学校に行ってみては?」


「やだ・・・お腹空いたし、コンビニ行ってくる。」


「夜中に間食は太りますよ。」


「ほっとけ。」


フード付きのパーカーとズボンを履いて外出の準備をする。

これが目立たないための私の普段着である。

「いってきー」


「いってらっしゃいませ、レノ様」


自宅を出た私は、深夜の静寂(しじま)の狭間(はざま)を掻(か)い潜(くぐ)り、ゆっくりと夜空を見上げながら、夜の心地よい風を呼吸で楽しむ。

恐怖とも好奇心とも取れる不思議な感覚が長年のお気に入りである。


「よし。今日もいい眺めだ。」


コンビニまではおよそ徒歩10分、運動するにはちょうど良い距離だ。

これから食べる分を消費しておかなくては・・・。

今日は、脂っこい物が食べたいのでポテチあたりだろう。


この時間、いつもは青色の信号が今日は赤色になっていた。

「んー。まぁいっか。」


私には天下無敵の豪運が付いている。

最悪、車に引かれたとしても大体10倍ぐらいの幸運が押し寄せるのである。

それを頼りに横断歩道をゆっくりと渡る。


「ん?」


次の瞬間、私の体は宙に舞っていた。


運だけでのんびり生きて来た私には相応しい末路だ。

神様もバチの1つや2つ当てないと辻褄が合わないのだろう。


鉛筆転がしで最難関高校に入学した私と真面目に勉強して来た人、どちらが評価されるべきか誰にでもわかる。


自業自得か・・・。


そのセリフは痛みよりも先に私の頭に思い浮かんだ。


だが・・・この後の展開を想像したく無かった。


死ぬほどの不運に対して何十倍の幸運が訪れ、私を世界的スターにしてしまうんだろうと思うと死ぬよりも恐怖であった・・・ならいっそ死んでしまった方が楽だ。


最悪だ・・・豪運だけど・・・。


しかし、次に私が目を覚ました場所はコンビニ近くの交差点でも家でもなく全く知らない場所だった。


「痛たた・・・って痛く無い?」


「そりゃ、死んだからな・・・」


私の目の前に居た人物は、悲しい現実を突きつける。

黒髪に黒色の瞳、服装も大学生っぽいので私はあの後誘拐されたのではないかと推理した。


「えーっと誰?」


「ん?神様」


「は?』


いきなり目の前の誘拐犯は神様を自称し始めた。

やばい奴だ・・・。


私が唖然としていると自称神様が呟く。

「和倉カノさん、あんたは死んだんだよ。」


「へー。って待て待て、私の名前はレノだ。和倉レノ。」


「は?あれ?写真では30代主婦だな。」


「おい、こちとらピチピチの16歳JKですけど。」


「確かに若いな・・・ミスったかコレ・・・・」


「人を殺しといてミスったはないだろ・・・」


私は拳に力を込める。

こんなみたいな展開で豪運が発動しないのがそもそもおかしい。

まぁ本当に神様だったら仕方ないかも・・・って、とりあえず殴らせろ。


自称神様は次に驚くべき行動をとる。


タブレット端末を取り出し、私の聞き慣れたセリフを呟き出したのだ。

「知己、転生予定者リストから検索。」


「はい、承知しました。」


「は?何であんたが、その人工知能を持ってんのよ。」


「え?そりゃ製作者だからな。」


「え?」


その言葉を聞いて、私は驚くと共に感動していた。


そう・・・やはり私は豪運だった。


鳩が吹き飛ぶ程の豆鉄砲を食らってしまい、微動だにできなくなってしまった私に自称神様はタブレット端末を操作しながら呟く。


「どうかしたのか?ちょっと待て元の世界に帰してやるから。」


先程から手の震えというか、全身の震えが止まらなくなってしまった私は手で溢れそうな涙を拭いながら呟く。


「・・・さん・・・。おと・・う・さん・・・」


「は?」


「お父さん!」


「はて?何でピチピチのJKにお義父さんなんて言われなきゃならないんだ?」


「お前が私の父親だからだよ!」


「お前・・・レノか・・・」


「だから!さっきから和倉レノだつってんだろー!」


「マジか・・・」


私はこのダメな自称神様(私の父)に喝を入れておく。

「ったく・・・私が一歳の時に死にやがって・・・」


「ごめんな。フツーに運命に殺されて転生してた。」

全然反省していない様なので続ける。


「そんなアニメみたいな展開があるか!母さんがどんだけ心配したと思ってんだ・・・」

さっきほどから涙が止まらなかった。


自称神様(私の父)はヘラヘラと笑いながら呟く。

「あ、それな。母さんも転生して来て異世界でまた結婚したわ。」


「は?」

涙が止まりました。


まぁ、あの天才エンジニアの母親ならできそうだが・・・



「ほれ。」

神様がタブレット端末を見せる。

そこには学生姿の両親と親しい(全員女)が写って居た。

これは流石に・・・・ってアホか!


気が付くと、私は自称神様(私の父)をシバいていた。

「娘に浮気写真見せてんじゃねえっつーの!」


「すまん、すまん。」

やはり反省が見られない。


まぁ・・・久々に会ったんだ、ハグぐらいしておこう・・・。


私は手を広げて構える。

「ほれ!」


「流石に・・・娘とそれは・・・。超えちゃいけないだろ・・・」


「ハグだっつーの!!いやらしいこと考えてんじゃねえよ!」


仕方なく、私は父親とのハグを交わす。

ハグなんてした事は無かったが・・・何というか暖かかった。


ハグが終わると、部分を見ながら父親は首を傾げて呟く。

「やはり、小さい・・・母さん似じゃないな・・・」


「お前何処どこのこと言ってるんだ、おい!」


この父親はダメだと思った・・・。


父親は私を撫でながら呟く。

「まぁ優しそうな目元やしっかりした性格は、俺たち夫婦に似たんだと思って安心したよ。」


再び涙が出てくる。

「うぅ・・・・。」


「立派に育ってくれて嬉しい。」


「私、運だけで生きてきたんだけど・・・・」


「そんな事ないだろ。運だけならここまで立派に成長してないさ。」


涙が止まらなかった。気持ちを抑えきれなくなり再びハグをする。


やはり私は豪運だ。

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