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目が覚めると、とにかく白い部屋にいた。
床も壁も天井も、まったく同じ白で統一されている。
周りを見渡してまず目に入ったのは、派手なピンクの髪の寝っ転がった人物。ツインテールをしていることから、たぶん女性だと思われる。
起こすべきか迷っていると、その上半身が起き上がった。
水色の瞳に赤い眼鏡、幼そうにも見えるが女性の方に年齢を聞くのは失礼だろうから言葉を飲み込む。
言葉は飲み込めたが、状況が呑み込めない。
ついさっきまで、生徒の答案用紙を採点して、時間が遅くなってしまったから帰ろうとして…。
ことの経緯を思い出そうとするも、そのあとが思い出せない。
あたりを見ても、そのヒントとなりそうなものも見受けられなかった。
体を見ても、自分の見える範囲に異変はなさそうだった。
困惑から気づかなかったが、なぜか後頭部が痛い。かすかにだが、鈍器のようなもので殴られた記憶もある。
意識をすると余計に痛いものだ。
同じように、隣の女性も心配そうに自分の頭をさすっていた
「やあ、お目覚めかな?」
背後から突然、聞き慣れない声がした。
声のする方を反射的に振り返ると、そこには一人の少年が立っていた。声的にはもう少し幼いかと思っていたので、驚きだった。
日本ではなかなかお目にかかれないフランス人形特有のクリーム色のような金髪を持つ、顔の端正な少年。
こう見えて高校の国語教師をしているもので、説明の分かりやすさには自信があるのだが、こればかりは説明のしようがない。
言うなれば、100人が見れば95人以上が美少年と認める……ほどの美少年だった。
「初めまして。ボクは鳴神、気軽にニャルって呼んでくれて構わないよ。ボクは運悪く生贄として選ばれて拉致された可哀相なキミの案内人でありサポート役さ。キミが此処から脱出するか死ぬまでのお付き合いになるからヨロシク」
そう言って、人懐っこい笑みを浮かべるが何一つ内容が入ってこない。
鳴神?生贄?死ぬまで?
ここはゲームの世界かよ。
生まれて初めて、とんでもない夢を見たかもしれない。
目が覚めるとそこは、真っ白い、それこそ全面が雪に覆われていると錯覚するくらいの白い部屋にいた。
隣には、知らない男。癖毛をそのままにした長い黒髪に、青い瞳がまさに無気力クールキャラ。
話しかけてみたいけど、今日の話し疲れもあって、なかなか重い口が開かない。
多分、ここは夢…?はたまた疲れすぎから死んでしまったか。
ここがアニメや小説の世界と言われてもおかしくない。
なぜか現実だとは思えない何かが、そこにはあった。
とりあえず、こういう時は荷物チェック。異世界転生ものでは、神様が何か特典を持たせてくれたりすることもある。
まさか自分が主人公…だとは思わないが、せめて自分が何を持っているかだけでも確認はしておきたい。
ズボンのポケットに手を入れる。
右ポケットには長年触り慣れたネタ帳と鉛筆。これはわざわざ取り出さなくても分かる。
左ポケットにはスマートフォン。取り出して日付や時間を確認しようとしたが、文字化けしていて何もわからなかった。文字化けも一応知識としては知っているが、それでも日付や時間が読み取れないから、これは単なる文字化けではないのだろう。
しかも圏外だった。
それから、ずっと頭が重い。
起きた時も違和感があったが、こうして現状を理解していくほど頭の痛みは増す。
後頭部が重点的に痛いから、多分後ろから誰かに殴り殺されたのだろう。
昨日…と言えるかすらわからないが、帰り道の記憶が無い。
何をしてたかなと痛む後頭部をさすっていると、
「やあ、お目覚めかな?」
隣にいる無気力クールキャラとはまた違う、いかにもショタ系な声が聞こえた。
声の系統とセリフの口調から、私の長年の経験がこの声は神様だと言っている。
振り返るとそこには、いかにもな美少年が立っていた。
「初めまして。ボクは鳴神、気軽にニャルって呼んでくれて構わないよ。ボクは運悪く生贄として選ばれて拉致された可哀相なキミの案内人でありサポート役さ。キミが此処から脱出するか死ぬまでのお付き合いになるからヨロシク」
はいはい来た来たこの展開。
無気力クールキャラの隣の彼が主人公。私は…第三者か?
いろいろな話を考えすぎて、ついに臨場感たっぷりで話の中に入り込めるようになってしまった自分が怖い。
神様からの異世界転生のご案内を聞くのは、n回目…て、生贄?可哀想?拉致?
ちょっと待って、そのパターンは聞いたこと無い。
頭の中でパニくる私のことを気にすることなく、美少年の神様(仮)は笑顔でこちらを見てくる。
あ、終わったわ。
創作物とはまた違うこの現状に、嫌悪感を覚えた。
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