第20話:……お

「お、堕とすって……? 落ちぶれたっ……アンタへ向かうのよ!」



 心に気おされないよう、夕雅は強気な姿勢に出た。だがしょせん、虚仮威し。内心非常に焦っていたのだ。相手から感じる得体の知れない恐怖に。踏み潰したカエルが、足元から這い上がってくるような。地獄の釜へ引きずりおろされそうな感覚に近くて。



「ふぅ……っ」

(待て待て……。もしあの子がっ……瞬間移動できるなら初手から使うはず。もし……この場で屠顔人に成り下がったのなら……戦闘慣れしてる説明がつかない……!)


 夕雅は意味ありげな笑みを浮かべてみた。策はないが。ここで臆しちゃ格好がつかない、と。


(格下だしっ……何を恐れることがあるの……?)

 胸に手を当て、鼓動を抑えようとする。冷静に、冷静に……。冷や汗で体をクールダウンさせながら。

 突如、夕雅は地面を力強く踏み込み、バク宙を繰り出した。正確には抱え込まないフラッシュキック。助走なし、己の回転力と跳躍力のみで。



「おぁっしょっと!」


 彼女は勢いよく、突き当たりの壁に足裏をつける。


(いずれにせよ……発動にかかるを見極めねば……!)

 「飛ぶことを教えろよラーン・トゥ・フライ」によって重力の向きが変更されたのだ。両足がガッチリと壁に張り付く。一ミリもずり落ちることなく。



(まだ自分の力に慣れていないなら……! 掌枯れはこちらに一日の長アリ!)


 彼女は唇の端が千切れそうな笑みを浮かべながら、膝を限界まで曲げる。バーベルスクワットのように。大臀筋、大腿四頭筋、ヒラメ筋……。密度の濃い爆発しそうな筋肉をやわ肌に封じ込めると。



「おらぁっ!」


 勢いよく壁を蹴り上げたのだ。まるで水泳のを想起させるような。きれいなストリームラインを見せて、水平に加速していく。


「いよいしょぉっ!」

 ここでさらなるダメ押し。夕雅の掌枯れによって、重力のベクトルが逆方向へ変化したのだ。廊下の左端から右へ。進行方向への自由落下が始まったことで、数倍の推進力が加わる。


(おまえに飛び込んでやる……。例えるならっ……地球の重力から高速で振り切ったスペースシャトルが、他惑星の重力に引き寄せられるよう……)



「どこにいようとぉ……! 重力という枷からはっ……、解放されのがれられないぃぃ!!!」




――夕雅がうるさく喚いている間、心は窓側の壁にもたれ掛かっていた。


(普段から……あんま声出さねぇタイプか)

 表情を崩さず無言で。目線を常にターゲットへ向けているが、ココロも体も動じないのだ。


(ヒス子ぉ……。聞きずれぇから……コッチから近づいてやろ)

 彼女は右手をしならせ、壁にソフトタッチをした——途端。


 壁が粘性を帯びながら、溶解し始めたのだ。右手の型が取れて。指の間からネバリがはみ出る。まるで水と片栗粉で作るダイラタンシーのように。壁面が隆起しながら、腕全体を埋め尽くした。


(いい具合だ……アッツアツのチーズフォンデュにくぐらせた、ブロッコリーの気分がわからぁ)

 心はぺろっと小さく舌を出す。体の右半身が埋もれつつあるのだが。壁に引きずり込まれても、余裕ある表情で全てに身を委ねている。するとあっという間に……壁という名の底なし沼に、全身が飲み込まれてしまった。厚さなど数十センチしかないにもかかわらず。


(あいるびーばっく)

 心は左の拳を突き立てながら、沈み込んだ。




「ハッ!」


 心の能力を目の当たりにし、夕雅は息を呑んだ。標的が消える、摩訶不思議を。

(ここはぁぁ……逃げない覚悟ぉぉぉ!)

 にもかかわらず、彼女は廊下を通り抜けようとしたのだ。スピードを維持したまま、一直線に。急停止もやろうと思えばできるのだが。


 すると夕雅の目は、壁に出来た小さな穴に釘付けになった。



(ぉおっ……? なにかアリジゴクのような……)


 彼女は気づいた。二メートル手前にある穴に。徐々に広がっている、と。そこから出てきたのは小さな四本の棒――指だ。その手は抜け出そうと穴の外周をつかんで。モグラのように暗闇から覗かせているのは……心の澄んだ目。



(あの子がカラを破りそう……私が通過する前に出てきちゃうな)


 まさに彼女の読み通りだった。ものの数秒で頭から胴体、左足と順番に、心が壁の中から出現したのだ。地面から這い出るゾンビをほうふつとさせる動きを見せながら。

 心は最後まで浸かっていた右足を抜くとともに、腰をきって加速をつける。



「やはり……! だが!」


 超至近距離からの攻撃――夕雅は瞬時に認識した。しかし対処は不可能なようで。せめて頭だけは守ろうと、上半身を起こしたが……。



「ぅぎぃっ……!」


 夕雅の左わき腹に、中段蹴りがクリーンヒット!

 サッカーボールキックのような爪先で抉る強力な一撃をくらってしまった。図らずも体勢を崩される。背中を教室の壁に強打し……彼女は腹を抱えながら倒れ込んだ。




「ゲェッ、ゲホォッ!!」

(わ、分かった! 触れたモノの範囲を数十メートル移動する能力……しかも予備動作が長い!)


 夕雅は咳き込みながらも、黒々とした笑みを浮かべる。収穫アリだ、と。ここは一時退却して、仕切り直しにしたいところ。呼吸はまだできないが、痙攣した両手足はなんとか動かせる様子で。


(ここは這ってでも、距離を……距離ぉおお!)

 だが彼女の上がった口角は石のように固まってしまった。何しろ後頭部に……今一番聞きたくない声がぶつけられたからである。




「もうダウンしちゃうんスか……?」


 心は見下しながら腕を組んでいた。ゴキブリでも見るような目で。右人差し指を前後に動かし、こっちへ来いと挑発しているのだ。


(基本的に後出しが強いからな……慌てずに)

 倒れ伏したまま頭を上げようとしない夕雅に対し、不用意に追撃しようとはしない。ひっくり返ったセミに触ろうとしないように。蝉ファイナルのような不意打ちを警戒してか。

 夕雅は背を向けながら、必死に気丈に振る舞って見せる。




「ふぅっ! ふぅ~~~~っ……。いやぁこれからでしょ」


 強がりを言い放った刹那――。夕雅は脇の下から、心の顔面めがけて金槌を投げつけた。円を描く様は、さながら高速回転するハンマー投げである。



「あらよっと……」


 しかし心は首の動き一つで躱してのけた。どこにも掠らせず。瞬きすらしないで。

 すると夕雅は横座りをしながら、カッターナイフを十数本飛ばした。目にもとまらぬ速さで。

(おかわりぃ!)

 ここは畳み掛けてでも時間を稼ぎたいところだ。彼女の「飛び方を教えろよ!ラーン・トゥ・フライ」によってさらなる加速がつき、スピードだけで言えばバトル中トップクラスなのだが……。




「ワンパターンでつまらねぇ……芸もなし」


 心はそのまま殴り落とそうとする。怒りを通り越し、もはや呆れた表情で。顔前を飛び回るコバエを払うように。左の拳だけでラッシュを繰り出したのだ。


(まったく効いてない……?)

 電光石火で飛び交う凶器の行方は知らず。だがカッターのはじかれる音がした。骨というよりは金属に。鮮血の飛び散る音や肉片が裂かれる不快な音はしない。


(マジか……ヒーローショーかよ)

 彼女は思わず笑ってしまう。圧倒的なパワーを見せつけ、仁王像のようにたたずむ心に。白い歯を覗かせた夕雅は、ヒーローに追い詰められたヴィランそのものである。




「君の肉体っ……的な強さじゃないな。まるで別人みたいな――」


「あぁ、そうさ。私の掌枯れちからは進化したからよ……」


 言葉とともに、異形と化した左手を見せつける。夕雅が目を凝らすと、左拳が殴りやすそうな半球状になっていたのだ。心は丸みの先を小突いて注目させる。



「どぉりで……。まさか相棒への想いが己を変えた? こっぱずかしくムキになっていたあの時の君に、今の姿を見せてあげたいな」

 夕雅は掌枯れを一瞥すると、心の瞳の奥を凝視し始めた。



「……そのまさかだよ。つーか今までの生き方を否定された感じ」


 心は右の拳をさらに強く握りしめる。夕雅に悟らせないよう、ヘラヘラした顔で左手をフリフリとさせながら。

 「アーク・オブ・ラブ」。戦いの中で成長した彼女は、片手で触れたモノと遺伝子レベルで融合できるようになったのだ。――残された手を握り締める条件付きで。



「今までの私なら、おまえからも全力で逃げてたろうな……。でも今じゃ、あの人の顔がイヤでもチラつく。見棄てて逃げんじゃねぇ! ……ってな」



「でも私は……ガキのままだ。独り善がり、自己チュー、思い通りにならないと癇癪を起こす——だがな! 未熟なら未熟なりに、大切なモンを守ってやるのさ!」


 逃げ腰だったこれまでの自分への戒めとして、正々堂々と相手に向き合うため声高らかに宣言した。心の表情は胸のつかえがとれたように、すがすがしくて。風になびかれたツインテールが、一層凛々しく見せた。

 その宣誓に夕雅は目を細める。茶化すわけでもない。どこか懐かしいものを見るような。



「掌枯れは強い想いがあれば誰でも発現する……。だが成長は精神の変化でしか訪れない……! いい――目つきね」



「っ!」


 夕雅から素直に褒められ、一瞬だけフリーズした。なぜならその言葉が、奥底にある本心から放たれたものだと感じ取ったからだ。せめて小馬鹿にされれば、調子が狂うことはなかっただろう。驕れる者は久しからず。

 だがさすが、夕雅から放たれた飛び蹴りは軽くかわせた。右のツインテールにかすらせ、間一髪で。




「お荷物のっ……相棒を人質にされたくないから! 私の背後はとれまい!」


 夕雅は元から攻撃を当てるつもりではなかった。天井に突き刺さった凶器を拾うために。心の背を踏み台に、大きく飛び上がったのだ。莉花と自分の間に心を置くよう、常に心掛けながら。



(回収、回収ッと!)

 天井の角に着地した夕雅は、無数の凶器を拾い上げようとする。真上ではいけない。憎たらしい針地獄があるから。彼女はプラスチックの持ち手に焦点を絞り、目を凝らす。


(なに……! 絶対にあるハズ……なのにどこにもないぞ)

 たった一本もカッターナイフが刺さっていないのだ。それどころか金槌すら見つからない。掌枯れを解除していないため、まだ落ちているはずなのだが――。

 空を切る音が夕雅の耳に入る。



(くっ!)


 目の前に飛び込んできたのは……お探しの金槌だった。それも自分が投げたのと同じモノ。夕雅は手の甲を犠牲に、顔を守る。

「きぃっ……!」


 すると心は続けざまに、Y字型パチンコを打つかのごとく無数のカッターナイフから手を離したのだ。



「空中で磔……これは芸があるだろ?」


 心はベストなタイミングを伺っていた。敵の凶器をうまく利用するための。しかも重力操作は継続中だ。位置調整が完璧ならば、延長線上の夕雅に向かって十分スピードがつくであろう。さらに四方から角へ追い込めば、いくら重力が変わろうと逃げ道はなし。


(ここでジリ貧になりたくない……ここは奥の手だぁ!)

 夕雅の起死回生の一手。常人じゃ到底思いつかない方法である。羞恥心がブレーキを踏んでしまうからだ。特に女性にとっては。その策とは――。




「……私は女を……捨ててんだぁ!」


 特攻服のボタンを引き裂くことだった。ビックリ箱のように、顕になる胸のサラシ。上着以外ほぼ何も着用しないのは、いつものスタイルである。

 すると上着を持ちながら、手首のスナップをきかせる。気分はまさにマタドール。彼女は特攻服を左右へ振り回したのである。


「大量、たいりょぉお!」

 スピードが完全にのりきる前だったためか。投網にかかる小魚のように……全ての凶器が回収されたのだ。



「この覚悟……愛かな? 捨てられた女が泣いてるぜ」


 ニヤリと笑った心が親指を特攻服に向けると、首をかっ切るポーズをする。ナイフによって引き裂かれ、見るも無残な姿で。

 夕雅は上着を投げ捨てると、地上に飛び降りた。

「これじゃあ埒っ……が開かないのは分かっているはず。ここは素手喧嘩ステゴロにて決着をつけましょ」

 


 サラシを少しちぎりバンテージ代わりにすると……夕雅は手のひらを上に向けて挑発した。こちらは準備ができているぞ、と。


(じょうとぉ~……)

 心はため息をつきながら右手を開いた。掌枯れの解除により、左手からヘルメットがすっぽ抜ける。そのまま近くの教室――放送室内に投げ入れたのだ。誘いに応じる必要はないが、武器を使えないようドアまで閉める律義さで。



「オッシャア! こい!!」


 素手同士の対決――最後は肉弾戦だ。心はボクシングスタイルで中央の守りを固め、夕雅は両手を開いて顎を重点的にカバーする。開手と閉手……正反対の構えを取っていたのだ。




「ヘイ!」


 心は間合いを詰めると、ジャブ、ジャブとテンポよく打っていく。けん制を交えつつ、ラストに威力を込めるため。


「オラァッ!」

 そして渾身の右ストレートが放たれた! 

 威力は十二分である。だが二発のジャブをしっかり受けきっていた夕雅は、ストレートと同時にヘッドスリップ!

 大きく空振った心は、隙を見せてしまう。



「フン!」


 夕雅は拳を固めて殴らず、平手で顔を引っ叩いた。平手打ちの正面版というか、もはや相撲の張り手に近い。もしも目、鼻、口と弱点の集まる顔面へ当てられたならば、悶絶することは想像に難くないだろう。自分の意思とは無関係に。怯ませるのは拳以上なのだろうか。

 しかし心は怯まなかった。鼻を強打しようが、目に指が入ろうとも……。むしろ鬼の面のような笑顔をキープしているのだ。



「もらったぁ!」


 死角になった夕雅の脇腹へ、心はアッパーを繰り出した。一撃、二撃、三撃……と。筋肉がきしみ、少しでも力を緩めたら呼吸ができなくなると察してしまうほどで。


(まだっ、まだっ、まだっ、まだっ)

 膝地獄のような拳地獄である。さらに速度を上げていく心に対し夕雅は、脂汗を垂らしている。ニンマリとした笑顔はこけおどしなのか。すると独り言のように、心に聞こえるよう声を出す。



「この構え、相棒ちゃんと同じだね」


 一瞬だけ心の気が逸れた。同じ状況、同じ場面で莉花は敗北したと悟ったからだ。微細だが鈍くなる心の動き、夕雅は見逃さなかった。



「楽しかったけど、バイバイ……」


 夕雅が指を鳴らした瞬間、心はシーソーのように床が持ち上がり、背中が引っ張られる感覚がした。正確には心にかかる重力が後方へ——莉花の方へ向き始めていて。



「嵌めやがってぇ!」


 そう、夕雅の掌枯れが発動されてしまった。対象は……心。彼女は平手打ちにより、発動条件を満たしていたのだ。



(やっば……)


 さながら傾斜の強い床でビー玉が高速で転がるように、回廊の底へ落ちそうになる。すると傾斜が九十度になる寸前で、窓のクレセントを掴めたのだ。左の指で全体重を支えて。寿命が数秒伸びただけだが、何とか事なきを得た。


 その時、生木の折れる音が。



「ウッ……グゥッ〜〜〜〜〜〜」


 言葉にならない金切り声が廊下中に響いた。なんと夕雅が爪先で、心の指先を踏み踏みしていたのだ。心と重力の方角を同一にすることで、彼女も全体重を一点に乗せて。心の指は無理やり引き伸ばされたことで皮膚が裂け、紫色に腫れ上がってしまった。


 心は右の拳を力一杯握りこむ。痛みを分散させようとするが……毎度新鮮な痛みがとめどなく。



「はぁっ……」


 夕雅はため息をつき、万力でプレスされたように平たくなった指を一本ずつ剥がす。バトルの終了を名残惜しく感じて。窓にくっついた血が離れる音を出しながら。



「……ばぁい」


 心は突き落とされた。思い切り両手を振るが、ハズレ。そのまま奈落へ。痛みゆえか無念ゆえか、思わず涙が溢れてしまう。


「あ、あぁ……」

 一粒の雫が廊下の奥へ落ちた、その時だった。




「ク……オ・ラぁぁ!!!」


 心はどんな姿になろうと勝利を諦めていなかった。彼女は折れた左指から、二本の黒い紐を螺旋状に伸ばし始めたのだ。袖からではない。鹿のツノのように皮膚から出て。


(掌枯れを使うのは……お互いさまじゃ!)

 心は殴り合いを行う直前、延長コードと自身を融合させていたのだ。敵に突き落とされるのは百も承知で。



「この……かんか――」

 夕雅の覚えた感覚……まるでクロヘビが全身に這いよるような。

 体を滑るようにうねったコードは、夕雅の足首へ到達する。そこから太腿から下腹部、水月、肩を通り、頸部へ巻きついたのだ。彼女は慌てて自身の能力を解除するが……時すでに遅し。



「グオオオオオオ!!!」


 重力の戻った二人だが、夕雅は依然首が絞められたままである。心による全体重を乗せた綱引きに。死に物狂いで、タップアウト!

(に……二秒も我慢できないぃ……)


 だが心は力を一ミリも緩めようとしなかった。みるみるうちに、夕雅の顔が沸騰したように赤くなる。血管がピクピクと浮かび上がり。唾液が喉を通らず咥内で泡立てられ、滴り落ちる。もはや鎖につながれたまま必死に暴れる獣のようで。


(このまま死を……目に焼き付けてやる)

 心はそう胸に誓ったのだが。




「……もう勝負は終わった。放してやんなよ」


 どこからか聞こえてきた言葉とともに、心の動きが封じられてしまった。

(チッ……毎回邪魔がぁ……!)

 心は理解が追いつかない。なぜなら室内にいるにもかかわらず、一瞬で樹木に包まれているからだ。しかも植物が夕雅の首の間に入り、幾分か余裕を作られて。

 すると一つの人影が、ゆっくり心へ近づいてきた。



「あぁ……間に合ってよかった!」


 その正体は、気絶した莉花に肩を貸した緑だった。ほっと胸を撫で下ろし、笑顔を浮かべながら。心と莉花の無事を喜んでいる。

 心も夕雅への首絞めを解除し、緑へ笑顔を向けた。



「あぁ! 緑さん!」


 夕雅は地面に倒れ込む。失神を免れたが、もう反撃を起こそうとする気力も起きていない。その姿を横目に、緑はさらに心へ駆け寄ったのだ。



 バトル終了の合図か……チャイムが校舎中へ鳴り響く。立っているのは心と緑(と莉花)。この光景は、共同戦線における探偵たちの勝利を意味していた。張り詰めていた緊張の糸がほぐれ、周囲が安堵感で包まれた瞬間だった……。




 ――突如、心は融合した延長コードを莉花へ伸ばす。目尻が下がり、トロンとした笑顔で。

(相棒と勝利を祝いたいのか……)

 だが緑の予想は大きく外れることになる。


 なんと莉花の目前でコードが急カーブし、緑の頸椎を圧迫し始めたのだ。絞首刑のロープのようにして。先ほどとは比にならないほど力強く。心は緑を本気で殺しにかかる。




「てめぇ……莉花さんから離れろよ!」

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