第26話 待ち伏せ

実際のところ、ミイナにも待ち伏せは、バレバレだったのである。

いま、姿をみせた傭兵たちは、まだましなほうだった。

そのあとから現れた傭兵団は、練度が悪く、ミイナたちの到着にあわてて、防具の紐を締め直したりしている。


「あの、簒奪者を討取れ!」

さらに後方で、叫んだ太った中年男は、叔父のアルセイだった。

という事は、こいつらが、、叔父の傭兵団か。喧嘩自慢とはいえ、執事の若者ひとりにボコられたのは、見ていたが、なるほど、聞きしにまさる練度の悪さだ。

これなら、街のチンピラのほうがマシ……

と、思いかけたところに、ぞろぞろとチンピラの群れが現れた。

思いっきし、こちらにガン付けしたくるのだが、ここは、そういう場じゃないぞ。


さらに、女の金切り声が加わった。

ミイナも、女性だが金切り声は、大嫌いだ。

とくに嫌いなのが、姉ふたりのそれで、、聞く度にミイナの胃は、締めあげられたようになる。


「あいつらをぶち殺すのよっ!」

長姉のマハルが叫んだ。

「ただ殺しちゃダメよ! ボロボロになるまで、犯して、死体はヴァルゴールに捧げるんだから。」

と、次女のロゼリッタが喚く。


「『贄』は生きたものを目の前で〆ないと価値が下がります! それにいちいち『贄』を相手そういう行為をおこなうなんて……あなた。変態ですか?」

ヴァルゴールの使徒の可憐な抗議は、声が小さかったこともあって、無視されてた。


「ミ、ミイナさまあっ!」

御者台から、転げ落ちるように降りてきたゼパスを馬車に放り込む。

あとは、まあ。

自分の身くらいは守れるだろう。


「おい、男娼!」


完全にこちらを包囲したと、判断したのか、身なりのよい若い男ふたりが現れた。


「調子に乗って、お家の簒奪を計画してやがったんだろうが、」

「正義がそれを許しませんでした。十年前にアルセンドリック侯爵家を乗っ取ったその女吸血鬼ごと、ここでくたばりなさい!」


エルクが、ミイナのそばに寄ってきてた。顔色が真っ青だ。


「これの筋書きはおまえだよね?」

ミイナが、ぼやいた。

「前もって相談してくれないかな。こっちだって、心構えがあるんだけと。」


「すいません。兄たちだけのつもりでした。」

エルクは、詫びた。

「あっちは、あなたのお姉様方に叔父上ですね? 先日、男爵位を剥奪された。

いくらなんでも数が多い。ぼくも準備はしていたのですが。」


先頭を走ってきた傭兵の面前に、女の影が舞い降りる。

ここは、古くからあるやや寂れた公園で、女は、大きな木の枝の上に潜んでいたのだ。


ふいをつかれた傭兵は、一刀のもとにキリふせられた。


「『贄』いちごーっ!」

バランがはしゃいだ。


「メイプル!」

「ははん!? 助太刀してやるから、たんまり、報酬は払ってね?」


「報酬はぼくのほうで払ってます。」

エルクがキッパリと言った。

「報酬の二重取りは、厳禁のはずでは?」


舌をペロリと出すと、メイプルは次の相手と切り結ぶ。

その右手は、肘から先が剣に変化していた。


「まあ。」

ミイナはコートを脱ぐと自分の得物をを取り出した。それは短い棍棒を幾つも鎖で繋げた代物で。ミイナはそれを腰に巻き付けていた。

「積極的に殺しはしたくは、ないのわよ。」

まるで、悪戯をみつかった、こどもみたいな言い訳だな、とミイナは思った。

「でもほら、骨の二三本は、折っときたい相手っているじゃない?」

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