第24話 陰謀渦巻く
「妾の! 男娼上がりの!」
部屋に帰ったサシャークは、酒を煽り始めた。
こういうところが、ダメなのだ。
次男にあたるアンドルは、兄に比べれば、顔立ちは地味だ。
若い女性を引きつける気の利いた話題も。所作も身につけられなかった。
だから、王女の婿候補へ選ばれなかったのだ、と、サシャークは言うのであるが、アンドルに言わせれば、だからサシャークは、伯爵家の跡取りに選ばれなかったのだ。
調子だけがよく、父の指示を曲解し、勝手に目標を別のところに設定しなにか気にいらないことがあれば、こうやって酒に、逃げる。
「エルクな優秀な男です。」
サシャークの罵声はさらに大きくなった。
「わたしとしても、少し目障りになってきてはおります。」
アンドルは、短くいった。
サシャークは、黙った。アンドルがこの口調でしゃべったときは、黙ったほうがいい。
長年の経験でそれは知っている。
「万が一にも、継承権をエルクになどと言い出さないとも限らない。ここは、消えてもらいましょう。」
「し、しかし‥‥」サシャークの怒りに真っ赤に染まった顔色は、みるみる青ざめていく。「やつは、もう先日までの部屋住みの庶子ではない。落ちぶれたとはいえ、アルセンドリック侯爵のその、」
回らぬ頭でサシャークは、懸命に言葉を探した。
「情人で、これから生まれていくる侯爵家の跡取りの父親だ。いずれ正式に婿入りするだろう。そう簡単に始末することは」
「構いません。そうなる前に、アルセンドリック侯爵ごと消えてもらいましょう。」
「だから、どうやってだ。白昼堂々と、屋敷に兵をならべて攻撃も出来んだろうし。」
アルセンドリック侯爵はつい先日、それに近いことをやってのけていた。
「絶好のチャンスがあります。ミイナの亡き夫、ルドルフの葬儀です。ミイナに侯爵家の中枢の使用人、そして、エルクも参列します。まるごと消えてもらいましょう。」
「そ、それはまずいだろ。」
本質的には気が弱く、へたれのサシャークは、脂汗を流している。
「ちゃんとした葬式ならどこかの神官が参加しているはずだ。そいつまで手にかけたら、あるいは生き残って証人になられたら‥‥」
アンドルは、恐ろしく冷酷な笑いを浮かべた。すくなくとも人を傷つけること、殺すことになんのためらいもないのは、間違いなく、父親である伯爵譲りだった。
「もちろん! 神官も始末します。大丈夫。式を取り仕切るのはまともな神官ではありません。
邪神ヴァルゴールの使徒ですよ。殺されてもどこからも文句はでません。
なにしろ、ともらう相手が吸血鬼では、まともな神には相手にされなかったんでしょう。」
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